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第3章
第297話 新たなる街 “イルビン”
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門が開いた後、話しながら中央広場へと辿り着いた僕らは、広場にあったモニュメントに触れてリスポーン地点を登録した。
そして今僕は……ラミナさんと一緒にイルビンの街を見て回っていた。
「街全体が大きい気がするね」
「ん」
「それになんだか……露店の準備してるみたいじゃない?」
「たぶんそう」
「だよねぇ」
中央広場から東西南北に繋がる大通りは、それぞれに終点である門に向かって真っ直ぐに伸びている。
その大通りに沿うように、沢山の露店が開店の準備を行っていた。
「今いるのが広場の北側だけど、他の通りも露店が出来るのかな?」
「ん、たぶん。全部違う街に繋がってるはず」
「なるほど」
つまり、この街は僕らのように余所から来る人達が多い街ってことなんだろう。
だからこの街に店を作る……それぞれの方向から持ち込んだモノを持って。
しかしそうなると、
「各エリアで売ってるものが大きく変わりそうだ」
「そう。それに露店」
「露店だから、明日もあるかは分からない……か」
次第に開店していく露店を見ながら、僕は小さく息を吐く。
そんな僕を見ながら、ラミナさんは少し微笑んだ……ような気がした。
「アキ、どこ行く?」
「んー特にドコに行きたいって言うのもないけど、ラミナさんは?」
「特にない」
「なら、そうだね。一度素材を見に雑貨屋か、そんな感じのモノが置いてそうなお店を探してみようか」
「ん」
おばちゃんから渡された紹介状の人を探したい気持ちもあるんだけど、分かってる情報が職業大工で名前がジャッカルってことしか分からない以上、自力じゃ探しようがないし。
一度お店の人に訊いて見るとかしないと難しいだろうしね。
そう思ってお店を探す方向にしたんだけど……それらしいお店が見当たらないな……?
「アキ」
「ん? あった?」
「ない。だからたぶん、違う通り」
「あー……なるほどね」
なにせ広い街なのだ。
露店だけじゃなく、お店の種類だって通りごとに違うんだろう……。
今いる北通りにも薬屋っぽいところはあったけど、素材は売ってなかったみたいだし。
それに周囲のお店も、よくよく見てみれば服飾関係が多い気がする。
たぶんファッション系のお店が多い通りなんだろう。
「ただそうなってくると、どの通りにあるか分からないのがネックだね」
「ん」
「歩いて探すにも、かなり広いし」
「ならフェンに聞く」
「あー、そうだね。そうしようか」
ラミナさんの言葉に頷きつつ、フェンさんへと念話を飛ばす。
するとちょうど手空きのタイミングだったのか、すぐに返信が返ってきた。
(はぁいアキちゃん。ミーに何かご用かしら)
「あー、フェンさんって今街を見て回ってるんでしたよね?」
(ええ、そうよぉ。リュン達は早々に門から飛び出して行っちゃったけど、ミーはまだ街にいるわぁ)
「あの2人は街にいるよりも外で戦ってる方が好きそうですし……。まぁフェンさんが街にいてくれて良かったです。なんて表現すればいいのか分からないんですが、おばちゃんの雑貨屋みたいなお店を見かけてないですか?」
(アルジェリアさんの雑貨屋みたいな、ねぇ……。要は素材と薬と雑貨を売ってるお店ってことでいいかしら)
「ええ、そうです」
(だったら、南通りにあったと思うわぁ。あの通りは素材を扱うお店が多いから、教えるよりも見てみた方が早いかもねぇ)
「南通りですか。ありがとうございます、行ってみます」
それじゃあねぇ、という言葉と共に念話は切れて、頭から念話特有のノイズも消え去る。
少し頭を振って意識を切り替えた僕は、隣りにいたラミナさんの手を取って、進んでいた道を戻り始めた。
「僕の声は聞こえてたと思うけど、南通りに多いんだってさ」
「そう」
振りほどかれることもなく繋がれたままのお互いの手。
今更思うと、咄嗟に握ったのはちょっとダメだったんじゃないだろうか?
「アキ」
「な、なにかな?」
「手」
「……離そうか?」
「違う、」
「こう」と言いながら、繋がっていた手を動かし、指の間へと絡める。
一瞬ぞわっとした感覚が走ったけれど、不思議と嫌な感じではなかった。
こういうことをされると、僕でもちょっと考えてしまう。
もしかして、学校でラミナさんが言っていた“僕が好き”って言葉は、恋愛とかそういった方向の好きなのかもしれないって。
「いやいやいやいやいや、そんなことはない。ないはず……」
「……アキ?」
「なんでもないよ。ほら、いこ」
「ん」
首を傾げた彼女を引っ張って、僕は笑いかける。
まだこの距離が僕にはちょうどいいから。
◇
「素材を売ってるお店は色々あったし、雑貨も充実してたね」
「目移りする」
「確かに。手持ちのバーナーとか、ちょっとそそられるものがあったね」
ただ、バーナーを買ったところで、僕には上手いこと使えない気がする。
オリオンさんならオシャレに使いこなしそうだけど。
「アキ、楽しそう」
「ん? そう?」
「そう。笑ってる」
「あー、ワクワクはしてるかも」
知らないものを知っていく感覚。
勉強はそこまで好きじゃないんだけど、自分で考えて試していく実験は好きだから、こうやって新しい素材とか道具とかみると、どうやって使おうかなぁって考えちゃうんだよね。
厳しい勝負だったけど、あの世界樹を止めるための薬作りは楽しかった。
いろんな人が協力してくれて、素材を取ってきてくれたり、調合法を考えてくれたり……背中を押してくれたり。
苦しかったけど、僕にしか出来ない、いや僕たちでしか出来なかった勝利をもぎ取れたと思う。
今だから分かることだけど、きっと世界樹戦の僕はすごくドキドキして、ワクワクして……言ってしまえば興奮していたんだろう。
そして、本音では“もう一度、あの時の興奮を味わいたい”って思ってるのかも知れない。
だからこそ、ギルド設立の話を受けて、街を飛び出したんだ。
「きっと、ワクワクとかドキドキとかした先に、僕らの知らない世界があるんだと思う。それが良いモノなのか悪いモノなのかは分からないけど」
「ん」
「まあ、悪いモノでも、皆と一緒に対応すれば何とかなるって思ってる。ラミナさんとか、シルフとか、ギルドの皆とか……もちろんアルさん達みたいな、それ以外の人ともさ」
「任せて。アキはラミナが守る」
「あ、あはは……。一応、僕男なんだけどなぁ……」
繋いだ手から彼女の気合いが感じられて、僕は顔に苦笑を浮かべてしまう。
でも不思議と嫌な気持ちにはならない。
どちらかというと、適材適所で守っていきたいって気持ちになってしまった、かな?
「――アキさーん!」
そんなまったりとした僕らの背後から、ドタドタと走る音と共に、僕の名を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ってみれば、そこには見慣れた姿……イベントで僕の補助をしてくれた、薬師のレニーさんがいた。
「アキさんもこっちに来てたんですね! 姿が見えたのでつい」
「レニーさんこそ、お久しぶりです。そういえば、確かレニーさんは生産ギルドに入るんでしたっけ?」
「ええ、その予定です。それで今日はこちらの街を見て回ろうって思ってまして。この先拠点になる街ですから」
なるほど、僕と同じ考えをしてたみたいだ。
まぁ、同じ調薬メインのプレイヤーだし、どうしても考え方は似てくるよね。
「そうそうアキさん、見て回っていて気付いたことがあるんですが」
「ん? なにかありました?」
「この街って、作業場が無いみたいです。他のメンバーと手分けして探してみたんですが、どうもそういった建物自体がないみたいで」
「作業場、ですか?」
「ええ、アキさんはご存じないかもしれませんが、前の街にはありましたので」
どうやら、イベント前からみんな同じ作業場で作業していたらしい。
というよりも、作業場が街にひとつしかないからか、調薬や料理なんかをメインにしているプレイヤーは大体の場合、そこを使っていたとかなんとか……。
おばちゃんの雑貨屋でずっとやってた僕は知らないことなんだけどさ。
「なるほど。でもそうなると、みんなの作業場所をどうするかって問題が出てくるよね」
「ええ、ですので生産ギルドで作るよう、申請してみようと思います。ギルドメンバーには、木山さんやヤカタさんといったメンバーもいますから」
「それなら大丈夫そうだね。僕の方もどうするか考えておかないとだけど」
「アキさんなら大歓迎ですから。完成した時は、是非来てくださいね!」
フンス! と鼻息荒く気合いを入れたレニーさんに苦笑しつつ、僕も「その時は行かせてもらうよ」と返して、レニーさんと別れた。
「アキ、人気」
「そんなことないと思うけど」
「……」
無言を貫いていたラミナさんが、僕の返答を受けて、眉間に皺を寄せる。
基本的に無表情な彼女からすると、額に皺が寄るのも珍しいんだけど……ちょっと怖いような?
「あの、ラミナさん?」
「……なんでもない。行く」
「あ、うん」
フイっと顔を逸らされ、僕らは手を繋いだまま通りを抜けていく。
なんだかんだで彼女の機嫌が直ったのは、それから数件ほどお店を回ってからのことだった。
そして今僕は……ラミナさんと一緒にイルビンの街を見て回っていた。
「街全体が大きい気がするね」
「ん」
「それになんだか……露店の準備してるみたいじゃない?」
「たぶんそう」
「だよねぇ」
中央広場から東西南北に繋がる大通りは、それぞれに終点である門に向かって真っ直ぐに伸びている。
その大通りに沿うように、沢山の露店が開店の準備を行っていた。
「今いるのが広場の北側だけど、他の通りも露店が出来るのかな?」
「ん、たぶん。全部違う街に繋がってるはず」
「なるほど」
つまり、この街は僕らのように余所から来る人達が多い街ってことなんだろう。
だからこの街に店を作る……それぞれの方向から持ち込んだモノを持って。
しかしそうなると、
「各エリアで売ってるものが大きく変わりそうだ」
「そう。それに露店」
「露店だから、明日もあるかは分からない……か」
次第に開店していく露店を見ながら、僕は小さく息を吐く。
そんな僕を見ながら、ラミナさんは少し微笑んだ……ような気がした。
「アキ、どこ行く?」
「んー特にドコに行きたいって言うのもないけど、ラミナさんは?」
「特にない」
「なら、そうだね。一度素材を見に雑貨屋か、そんな感じのモノが置いてそうなお店を探してみようか」
「ん」
おばちゃんから渡された紹介状の人を探したい気持ちもあるんだけど、分かってる情報が職業大工で名前がジャッカルってことしか分からない以上、自力じゃ探しようがないし。
一度お店の人に訊いて見るとかしないと難しいだろうしね。
そう思ってお店を探す方向にしたんだけど……それらしいお店が見当たらないな……?
「アキ」
「ん? あった?」
「ない。だからたぶん、違う通り」
「あー……なるほどね」
なにせ広い街なのだ。
露店だけじゃなく、お店の種類だって通りごとに違うんだろう……。
今いる北通りにも薬屋っぽいところはあったけど、素材は売ってなかったみたいだし。
それに周囲のお店も、よくよく見てみれば服飾関係が多い気がする。
たぶんファッション系のお店が多い通りなんだろう。
「ただそうなってくると、どの通りにあるか分からないのがネックだね」
「ん」
「歩いて探すにも、かなり広いし」
「ならフェンに聞く」
「あー、そうだね。そうしようか」
ラミナさんの言葉に頷きつつ、フェンさんへと念話を飛ばす。
するとちょうど手空きのタイミングだったのか、すぐに返信が返ってきた。
(はぁいアキちゃん。ミーに何かご用かしら)
「あー、フェンさんって今街を見て回ってるんでしたよね?」
(ええ、そうよぉ。リュン達は早々に門から飛び出して行っちゃったけど、ミーはまだ街にいるわぁ)
「あの2人は街にいるよりも外で戦ってる方が好きそうですし……。まぁフェンさんが街にいてくれて良かったです。なんて表現すればいいのか分からないんですが、おばちゃんの雑貨屋みたいなお店を見かけてないですか?」
(アルジェリアさんの雑貨屋みたいな、ねぇ……。要は素材と薬と雑貨を売ってるお店ってことでいいかしら)
「ええ、そうです」
(だったら、南通りにあったと思うわぁ。あの通りは素材を扱うお店が多いから、教えるよりも見てみた方が早いかもねぇ)
「南通りですか。ありがとうございます、行ってみます」
それじゃあねぇ、という言葉と共に念話は切れて、頭から念話特有のノイズも消え去る。
少し頭を振って意識を切り替えた僕は、隣りにいたラミナさんの手を取って、進んでいた道を戻り始めた。
「僕の声は聞こえてたと思うけど、南通りに多いんだってさ」
「そう」
振りほどかれることもなく繋がれたままのお互いの手。
今更思うと、咄嗟に握ったのはちょっとダメだったんじゃないだろうか?
「アキ」
「な、なにかな?」
「手」
「……離そうか?」
「違う、」
「こう」と言いながら、繋がっていた手を動かし、指の間へと絡める。
一瞬ぞわっとした感覚が走ったけれど、不思議と嫌な感じではなかった。
こういうことをされると、僕でもちょっと考えてしまう。
もしかして、学校でラミナさんが言っていた“僕が好き”って言葉は、恋愛とかそういった方向の好きなのかもしれないって。
「いやいやいやいやいや、そんなことはない。ないはず……」
「……アキ?」
「なんでもないよ。ほら、いこ」
「ん」
首を傾げた彼女を引っ張って、僕は笑いかける。
まだこの距離が僕にはちょうどいいから。
◇
「素材を売ってるお店は色々あったし、雑貨も充実してたね」
「目移りする」
「確かに。手持ちのバーナーとか、ちょっとそそられるものがあったね」
ただ、バーナーを買ったところで、僕には上手いこと使えない気がする。
オリオンさんならオシャレに使いこなしそうだけど。
「アキ、楽しそう」
「ん? そう?」
「そう。笑ってる」
「あー、ワクワクはしてるかも」
知らないものを知っていく感覚。
勉強はそこまで好きじゃないんだけど、自分で考えて試していく実験は好きだから、こうやって新しい素材とか道具とかみると、どうやって使おうかなぁって考えちゃうんだよね。
厳しい勝負だったけど、あの世界樹を止めるための薬作りは楽しかった。
いろんな人が協力してくれて、素材を取ってきてくれたり、調合法を考えてくれたり……背中を押してくれたり。
苦しかったけど、僕にしか出来ない、いや僕たちでしか出来なかった勝利をもぎ取れたと思う。
今だから分かることだけど、きっと世界樹戦の僕はすごくドキドキして、ワクワクして……言ってしまえば興奮していたんだろう。
そして、本音では“もう一度、あの時の興奮を味わいたい”って思ってるのかも知れない。
だからこそ、ギルド設立の話を受けて、街を飛び出したんだ。
「きっと、ワクワクとかドキドキとかした先に、僕らの知らない世界があるんだと思う。それが良いモノなのか悪いモノなのかは分からないけど」
「ん」
「まあ、悪いモノでも、皆と一緒に対応すれば何とかなるって思ってる。ラミナさんとか、シルフとか、ギルドの皆とか……もちろんアルさん達みたいな、それ以外の人ともさ」
「任せて。アキはラミナが守る」
「あ、あはは……。一応、僕男なんだけどなぁ……」
繋いだ手から彼女の気合いが感じられて、僕は顔に苦笑を浮かべてしまう。
でも不思議と嫌な気持ちにはならない。
どちらかというと、適材適所で守っていきたいって気持ちになってしまった、かな?
「――アキさーん!」
そんなまったりとした僕らの背後から、ドタドタと走る音と共に、僕の名を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ってみれば、そこには見慣れた姿……イベントで僕の補助をしてくれた、薬師のレニーさんがいた。
「アキさんもこっちに来てたんですね! 姿が見えたのでつい」
「レニーさんこそ、お久しぶりです。そういえば、確かレニーさんは生産ギルドに入るんでしたっけ?」
「ええ、その予定です。それで今日はこちらの街を見て回ろうって思ってまして。この先拠点になる街ですから」
なるほど、僕と同じ考えをしてたみたいだ。
まぁ、同じ調薬メインのプレイヤーだし、どうしても考え方は似てくるよね。
「そうそうアキさん、見て回っていて気付いたことがあるんですが」
「ん? なにかありました?」
「この街って、作業場が無いみたいです。他のメンバーと手分けして探してみたんですが、どうもそういった建物自体がないみたいで」
「作業場、ですか?」
「ええ、アキさんはご存じないかもしれませんが、前の街にはありましたので」
どうやら、イベント前からみんな同じ作業場で作業していたらしい。
というよりも、作業場が街にひとつしかないからか、調薬や料理なんかをメインにしているプレイヤーは大体の場合、そこを使っていたとかなんとか……。
おばちゃんの雑貨屋でずっとやってた僕は知らないことなんだけどさ。
「なるほど。でもそうなると、みんなの作業場所をどうするかって問題が出てくるよね」
「ええ、ですので生産ギルドで作るよう、申請してみようと思います。ギルドメンバーには、木山さんやヤカタさんといったメンバーもいますから」
「それなら大丈夫そうだね。僕の方もどうするか考えておかないとだけど」
「アキさんなら大歓迎ですから。完成した時は、是非来てくださいね!」
フンス! と鼻息荒く気合いを入れたレニーさんに苦笑しつつ、僕も「その時は行かせてもらうよ」と返して、レニーさんと別れた。
「アキ、人気」
「そんなことないと思うけど」
「……」
無言を貫いていたラミナさんが、僕の返答を受けて、眉間に皺を寄せる。
基本的に無表情な彼女からすると、額に皺が寄るのも珍しいんだけど……ちょっと怖いような?
「あの、ラミナさん?」
「……なんでもない。行く」
「あ、うん」
フイっと顔を逸らされ、僕らは手を繋いだまま通りを抜けていく。
なんだかんだで彼女の機嫌が直ったのは、それから数件ほどお店を回ってからのことだった。
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