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プロローグ

壱野四季

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ネオン煌びやかな都心からそれほど離れていない場所にそれはあった。誰が呼んだか、通称【宵闇街】

正式な名称ではないが、裏の住人達はその様に呼んでいた。

そこは、この国の闇の部分全てが詰まっていると言っても過言ではない世界。

荒くれ者たちは呼び寄せられるように集う。普通の人間ならばあまり近付こうとはしない。

しかし、1人の少年がそんな街宵闇に身を投じてしまった。

彼の名は壱野四季。最近この辺りの学校に転校してきた少年。

田舎からきた四季は、都心の光景に憧れ、暇さえあれば至る所を散策している。

そして、とうとうこの宵闇街に足を踏み入れてしまった。

全てにおいて平凡な彼にはあまりに似つかわしくないこの街に。

「ハアハア」

街灯も少ない路地裏を、月明かりのみを頼りに駆け抜けていく。路地裏には空き缶、ゴミ袋、そこにたまる害虫、挙句には動物の死骸まで横たわっている。

ふつうならこんな所に足を踏み入れたくはないが、なりふり構っている場合ではなかった。

「待てやコラァ」

走る四季の後を一回りほど大きな影が追いかけてくる。

「うわ」

四季は転がっていた廃材に足を取られた。
暗がりの中こんな足場の悪い所を走っていてはそうなるだろう。

「やっと追いついたぜ」

四季にはぶつけた所を痛がる暇もないようだ。顔を上げるとそこには、頬に傷を持ったいかにもといった風貌の男が見下ろしていた。

「く、くるなよ」

四季は尻餅をついたまま少しずつ後ろに後ずさりをする。

「おとなしくそいつを渡せ」

男の要求は四季の持つ真紅の宝石だった。

こんなところに金目の物をぶら下げてフラフラとやってきたことを後悔していた。

「誰が渡すか!」

四季は宝石を握る右手に力を込める。

「お前みたいな奴が持っていても意味ないだろ」

男はそう言うと四季の腹部を思い切り蹴り飛ばした。

「うっ」

男の蹴りに腹部を抑えてうずくまる。

「さっさと渡した方が楽だぞ」

男はそう言うとうずくまる四季の腕を取る。男の手から逃れようと必死に抵抗するが、宝石を取られないように握りしめることで精一杯だった。

「うぜえな」

しびれを切らした男が再び四季の腹部を蹴り上げる。しかしそれでも握りしめた右手の力だけは緩めなかった。

「これは、僕の物だ。お前と違って高価だから手放したくないとか、そんな理由じゃない。これは僕が僕でいるために必要なものなんだ!誰が渡すか」

「めんどくせえな。物は高いか安いかだろうが。もういい、ここで死ねよ」

男はそう言うと崩れている廃材を手に取り、四季に向けて振り下ろした。

「!!」

四季は思わず顔を背ける。

が、四季に向かって廃材が振り下ろされることはなかった。

「人のものを奪ったらダメでしょ。しかも死ぬかもしれないのに手放したくないくらい大切なものをさ」

突然聞こえた声に顔を上げると、そこには男の振り下ろそうとした腕を押さえる男がいた。

その男は大きめのローブに身を包み、手足が隠れた上にフードを羽織っているせいで顔は見えないが、声のトーンや、男の腕を握っている手の大きさなどから自分とあまり変わらない年の少年だろうと四季は思った。

「その子が盗みでもしたのかと思って放置していたけど、違うみたいだし」

その少年は四季よりも少し小さい体格をしていたが、余裕な表情で男の腕を押さえつけている。

「だったらなんだってんだよ」

「素直に宝石を諦めてここから立ち去るか、諦めないで歯向かった挙句俺にやられて逃げさるかどっちがいい?」

少年は威圧する男に臆することなくそう言ってのける。

「歯向かった俺に2人まとめて身ぐるみ剥がされて、夜の海に沈められるってのが抜けてねえか?」

男はそう言うと少年の手を振りほどいて、今度は少年に向かって腕を振り下ろした。

「ガンッ」

今度は止められることなく振り下ろされたが、握りしめる廃材は少年ではなく地面にたたきつけられた。

「消えた」

目の前から突然消えた少年に四季も男も目を疑った。

「質問を変えようか。ここで死にたい?今度はイエスかノーで答えてよ」

少年は男の背後に回り込むと鋭利な刃物を袖から出し、男の首筋にあてがった。

「お前まさか」

「イエスかノーって言わなかったか?」

「ノーだ。ノー」

男からはさっきまでの見下して余裕そうな表情は消え去り、冷や汗をかき緊張感のある表情になっていた。

「そっか。無駄な労力使わなくて済んで助かった」

そう言うと少年は男の首筋からナイフを下げた。

「ハアハア」

男は解放されたにもかかわらず、呼吸が荒く落ち着きを見せない。

「早く消えてくれると嬉しいかな」

男は少年の言葉に反応すると男はその場から一目散に逃げ出した。

「さて、もう平気だよ」

少年からは先程までの冷酷な威圧感は消え去り、四季の目の前には自分と変わらない普通の少年がいた。

少年はローブから手を出すと四季に向けて右手を差し伸べる。

「ありがとう」

戸惑いながらも四季は少年の手を取ろうと右手を差し出そうとした。

「なあ、気を抜いたらダメだろ」

少年はそう言うと緩めた四季の手から宝石を取り上げる。

「あ!」

するりと宝石を取り上げた少年に向けて四季が声を漏らす。

「大丈夫、取ったりしないから」

そう言うと少年は四季に宝石を返した。

「この街に足を踏み入れるなら必要以上に用心しないと」

四季は少年から返された宝石を今度は離さないとより一層握りしめる。

「本当にありがとう」

「単なる気まぐれだから」

「そうだ!お礼させてよ」

「そんなことする暇あったら、また変なのに絡まれないうちにとっととここから逃げたほうがいい」

そう言うと少年はその場から立ち去ろうとする。

「まって!僕は壱野四季。君の名前はなんて言うの?」

うつろ

そう言い残すと空は暗闇の中に消えていった
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