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タオと一緒ならなんでも楽しい

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 食事も何もかもを面倒見てくれて、ベッドの上で抱きしめあってイチャイチャしながら過ごす一日は格別だった。

 夜になり、やっと寝台から離れられた静樹はタオと一緒に料理を作っていた。タオにとっては辛すぎる塩漬け鶏肉の塩を丁寧に抜いて、根菜と一緒に仕込んでスープにする。

「シズキ、料理が上手になったよね。手つきが手慣れてきた」
「そうかな、だったら嬉しい」

 にこにこしながら髪や肩を順に撫で下ろされて、タオの方に身を寄せた。すると彼はゴロゴロ喉を鳴らしながら、静樹の頭に顎を乗せる。

 少し調理し辛いが、心はほっこり温かい。無事にスープを作り終えて、よそっていたところに来訪者があった。

「おいタオ、今いいか」
「ユウロン、いらっしゃい! ちょうどシズキと一緒にスープを作ったところなんだけど、食べていく?」
「そうだな、もらおう」

 狼獣人はいつものように、遠慮なく席につく。温かなスープを食欲旺盛におかわりしながら平げた後、ユウロンはおもむろに話をし始めた。

「お前らが知りたがるだろうと思ってな、事件の顛末を話しにきてやったぞ」
「ああ、あれからどうなったの?」

 ユウロンは元気そうだが、ハオエンはどうなったのだろう。静樹も耳を澄ました。

「一座の面々は全員、国から派遣された軍兵に捕まって中央に連行された。あれだけの事件を起こしたからな、少なくとも冬の間は懲役を受けることになるだろう」
「そんな……」

 静樹が憂いていると、ユウロンは皮肉げな笑みを見せた。

「ヤツら、これで冬の間は飯にありつけるし住むところもあるって喜んでいたぞ。しぶといヤツらだ。あの子どもも平気そうな顔をしていた」
「ハオエンも……」
「まあ、そういうわけだから心配すんな。奇怪獣の被害も怪我人だけで、死者は出ていない。広場の天幕も撤去させたし、全てが元通りになっている頃だろうさ」

 せっかくできた友達だけれど、こんなことになってしまった以上はもう会えないかもしれない。静樹はしばらく考えてから顔を上げた。

「ねえ、ハオエンに手紙を書いて届けることってできるのかな」
「ああ。手紙のやりとりは確か制限されてなかったと思うぞ」

 静樹は拳を握って密かに決意した。

(ハオエンに手紙を書こう。離れていても、失敗することがあっても、僕たちは友達だよって)

 きっと彼は学がないから、今回のような事件が起こると想像していなかったのだろう。

 手紙のやりとりを通じて、彼が少しでも賢くなれますように。牢屋の中で辛い思いをせずに過ごせますようにと願った。

「じゃあ、これで一件落着ってことだね」
「ああ。お前にも世話になったな」
「いいよ別に。また何かあったら遠慮なく言って」
「助かる」

 ユウロンはお礼だと言って、壺漬けの野菜を置いていってくれた。ありがたい、冬支度はまだ済んでいないのだ。

「明日は市に行って買い物をしよう。もうそろそろ雪が降るし、急がなきゃね」
「そうだね」

 次の日は朝から薪を売って、そのお金で食料を買い込んだ。その後タオが寄りたいと言ったのは布屋だ。彼は風を通さない、もこもことした温かそうな生地を手に取る。

「どれがいいかな、うーん」

 タオはいつも薄着だし、布なんてなんに使うのだろう。クッションは作り終えたみたいだしと首を傾げると、彼は楽しげに尻尾を揺らめかせる。

「シズキに服を作ってあげたくってさ。獣人にとって服はマナーであり、愛情を示すための手段でもあるんだ。手作りの服を贈るのは愛の証なんだよ」
「へえ、そうなんだ」
「いつか愛する人ができたら、服を作ってあげたいと思っていたんだ。だから俺、細かいことは苦手だけど裁縫だけは一生懸命練習したんだ」

 あまり手先は器用ではないのに、裁縫だけは得意なのを意外に思っていたが、そんな意味合いがあったらしい。タオはいくつも布を腕に抱え込んでは、どれにしようかと首を捻っている。

「こっちの赤いのも可愛いだろうし、白もいいなあ……シズキはどれがいいと思う?」
「あまり派手なのはちょっと……白の方が好き」

 静樹は答えながらも、タオに似合いそうな深い緑色の生地を見つけて、惹かれるまま手に取った。

「僕も、タオに何か作ってみようかな」
「え、作ってくれるの? 楽しみだなあ!」

 冬でも薄着なタオだから、凝った服を作る必要はなさそうだが、どうなることやら。慣れない体験は苦手だったけれど、タオと一緒だと思うと楽しめそうだ。

「作り方、教えてくれる?」
「もちろんだよ! 一緒に作ろう」

 針と糸も買い足して、タオはいっぱいに膨れた買い物カゴを軽々と担ぐ。

「後はもやしをみつけなきゃね。他にやりたい事はある?」
「やりたいこと……そうだ、本って高いのかな。もっとたくさんの字を覚えたいんだ」

 ハオエンに手紙を書くために頑張らなければ。

 それに字の勉強を続ければ司書になれなくても、例えば手紙の代筆だとか、本を書き写す仕事とかがあるかもしれない。

「そうだね、そろそろ俺が教えられる字も全部覚えちゃったし、本を買おう。あと使いやすい筆記用具も探して買おう」
「あまり高価であればいらないよ」
「そんなこと言わないで、本に囲まれた場所で仕事をするのがシズキの夢なんでしょ? 俺に任せてよ、本が買えるくらいのお金は稼いでいるからね」

 質屋に赴き学習用の本はあるのか尋ねると、挿絵がたくさん載った図鑑のような本を提示された。これなら絵を見ながら字を覚えられそうだ。

 結構な金額がしたけれど、タオはためらうことなく筆記用具ごと購入してくれた。恐縮しながらお礼を伝える。

「ありがとう、大切に使うね」

 冬の間に読み込もうと、大切に本を胸の前で抱きしめた。
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