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異常事態
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タオの提案に頷いて広場から離れようとしたその時、天幕の中から誰かの悲鳴が上がった。
複数の悲鳴はとどまることを知らず周囲に伝播していき、天幕の中から獣人達が飛び出してくる。彼らは恐怖に塗れた表情で、口々に叫んでいた。
「檻が破られたぞ、逃げろ!」
「ああっ、痛い……! 腕をやられた!」
「助けて、ママー!」
異常事態を感じ取るなり、タオは静樹を腕の中に抱えて群衆から距離をとった。広場の端まで駆けて細い路地の前に静樹を下ろしたところで、騒ぎに気づいて駆けつけたユウロンと出くわす。
「タオ! ちょうどいいところに居てくれた、お前も手伝え!」
「でも、シズキが!」
「路地の隅に隠れてりゃ大丈夫だろ。むしろここで奇怪獣を逃して森にでも逃げ込まれたら、後々コイツが危ねえ目に遭うんだぞ⁉︎」
ユウロンは金色の目をギラギラ光らせながら、タオの襟を掴む。
「俺とお前でヤツを仕留めるんだ。わかったな?」
「自警団は?」
「まともに奇怪獣と戦えるヤツらは遠征に出てんだよ、間の悪いことにな」
「……仕方ない、シズキに護衛をつけてくれるなら手伝うよ」
ユウロンはタオを解放すると、背後についてきていた狐獣人に命令を下した。
「うっし! おい、お前! 死ぬ気でコイツを守れ」
「はい!」
事態についていけず突っ立ったままの静樹の両肩に、タオは手を置いた。
「シズキ、しっかり隠れててね。すぐ戻ってくるから」
痛いくらいの力で肩を掴まれて、タオが心の底から静樹を心配していることが伝わってくる。眉根を下げながら頷いた。
「絶対に天幕の方に近づいちゃ駄目だよ!」
「おいタオ、早くしろ!」
「わかってる! そこの君、シズキを頼んだよ!」
「あ……」
あまりにも突然のことで、何も返事を返せないまま見送ってしまった。揺れる縞模様の尻尾は、あっという間に人混みに紛れて見えなくなる。
悲鳴を上げて広場から離れていく獣人達に、静樹は恐怖を隠せず引きつった顔を向けた。
「大丈夫ですよ! 小隊長もお連れの方も、とてもお強いですから。気をしっかり保ってくださいね」
「は、はい……」
静樹と同じくらいの背丈の狐獣人に励まされて、なんとか返事を返した。若々しい声だし獣人にしては背も低いから、きっと彼は成人前か、なりたての若者なのだろう。
(しっかりしなくちゃ、怯えている場合じゃない……!)
年下の獣人に心配をかけているなんて、情けなさすぎる。静樹はフッと短い息を吐くと、気合いを入れて胸の前で拳を握り込んだ。
天幕から逃げ出す獣人が少なくなると、凄まじい唸り声と金属がぶつかり合うような音が、外まで響いてくるようになった。
タオとユウロンは無事だろうか。どうか二人が怪我をしませんようにと、両手を合わせて祈る。
やがて音が止んだ。決着がついたのだろうか……? 路地から身を乗り出して天幕の方向に意識を集中させていると、聞いたことのある声の悲鳴が耳に届いた。
(今の悲鳴は……ハオエンだ!)
静樹は弾かれたように路地から飛び出す。
「なりません、まだ隠れていてください!」
「ごめんなさい、でも友達が……!」
せっかくできた友達が危ない目に遭っているのかもしれないと思うと、居ても立っても居られなかった。
(奇怪獣は怖い、でも……友達を失うのは、もっと怖い!)
静止する狐獣人を置いて、一目散に天幕の側まで駆けていく。
複数の悲鳴はとどまることを知らず周囲に伝播していき、天幕の中から獣人達が飛び出してくる。彼らは恐怖に塗れた表情で、口々に叫んでいた。
「檻が破られたぞ、逃げろ!」
「ああっ、痛い……! 腕をやられた!」
「助けて、ママー!」
異常事態を感じ取るなり、タオは静樹を腕の中に抱えて群衆から距離をとった。広場の端まで駆けて細い路地の前に静樹を下ろしたところで、騒ぎに気づいて駆けつけたユウロンと出くわす。
「タオ! ちょうどいいところに居てくれた、お前も手伝え!」
「でも、シズキが!」
「路地の隅に隠れてりゃ大丈夫だろ。むしろここで奇怪獣を逃して森にでも逃げ込まれたら、後々コイツが危ねえ目に遭うんだぞ⁉︎」
ユウロンは金色の目をギラギラ光らせながら、タオの襟を掴む。
「俺とお前でヤツを仕留めるんだ。わかったな?」
「自警団は?」
「まともに奇怪獣と戦えるヤツらは遠征に出てんだよ、間の悪いことにな」
「……仕方ない、シズキに護衛をつけてくれるなら手伝うよ」
ユウロンはタオを解放すると、背後についてきていた狐獣人に命令を下した。
「うっし! おい、お前! 死ぬ気でコイツを守れ」
「はい!」
事態についていけず突っ立ったままの静樹の両肩に、タオは手を置いた。
「シズキ、しっかり隠れててね。すぐ戻ってくるから」
痛いくらいの力で肩を掴まれて、タオが心の底から静樹を心配していることが伝わってくる。眉根を下げながら頷いた。
「絶対に天幕の方に近づいちゃ駄目だよ!」
「おいタオ、早くしろ!」
「わかってる! そこの君、シズキを頼んだよ!」
「あ……」
あまりにも突然のことで、何も返事を返せないまま見送ってしまった。揺れる縞模様の尻尾は、あっという間に人混みに紛れて見えなくなる。
悲鳴を上げて広場から離れていく獣人達に、静樹は恐怖を隠せず引きつった顔を向けた。
「大丈夫ですよ! 小隊長もお連れの方も、とてもお強いですから。気をしっかり保ってくださいね」
「は、はい……」
静樹と同じくらいの背丈の狐獣人に励まされて、なんとか返事を返した。若々しい声だし獣人にしては背も低いから、きっと彼は成人前か、なりたての若者なのだろう。
(しっかりしなくちゃ、怯えている場合じゃない……!)
年下の獣人に心配をかけているなんて、情けなさすぎる。静樹はフッと短い息を吐くと、気合いを入れて胸の前で拳を握り込んだ。
天幕から逃げ出す獣人が少なくなると、凄まじい唸り声と金属がぶつかり合うような音が、外まで響いてくるようになった。
タオとユウロンは無事だろうか。どうか二人が怪我をしませんようにと、両手を合わせて祈る。
やがて音が止んだ。決着がついたのだろうか……? 路地から身を乗り出して天幕の方向に意識を集中させていると、聞いたことのある声の悲鳴が耳に届いた。
(今の悲鳴は……ハオエンだ!)
静樹は弾かれたように路地から飛び出す。
「なりません、まだ隠れていてください!」
「ごめんなさい、でも友達が……!」
せっかくできた友達が危ない目に遭っているのかもしれないと思うと、居ても立っても居られなかった。
(奇怪獣は怖い、でも……友達を失うのは、もっと怖い!)
静止する狐獣人を置いて、一目散に天幕の側まで駆けていく。
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