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憧れの肩車
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タオの頭の毛に指先を埋めながらバランスを取る。
「う、わ……高い」
「支えてるから両手を離しても大丈夫だよ! 実に手が届くかな?」
「あ、うん届く……!」
視界が高くなり恐ろしくなったが、採りたかった実が目に入るとそちらに意識が集中した。むしり取って背中のカゴに放り込んでいく。
楽しく作業をしていると、自然と口元が綻んで鼻歌を歌ってしまっていた。ハッと気づいて中断すると、タオは声をかけてくる。
「シズキって声もかわいいよね、歌もとっても上手だ」
「え、そんなことは、ないと思うけれど」
恥ずかしくなって頬に熱が昇る。初めて言われた……この世界に来てから初めての経験ばかりで、心の中が忙しい。
特にタオに関することでは、気分を乱されてばかりだ。最初のうちは怖いだけだったけれど、最近はそうでもない。楽しいと思うことが増えてきた気がする。
「ねえ、もっとシズキの声が聞きたいな。何か話してよ」
「何かって、何を?」
「そうだなあ、例えばこの世界でやりたいこととか。雑技団に入っちゃうと旅の道中危険だし、遠くに行って会えなくなっちゃうから反対するけど。町の仕事だったらまだ会えるし、この家からも通えるかもしれないよ?」
「え、と……その、やりたい仕事はできなさそうなんだ」
「そうなの?」
「将来は司書になりたかったんだけど、この世界には図書館がないみたいだから……王城とかに行けばあるのかもしれないけど、そういうところで働くのは平民じゃ無理なんだよね?」
タオにわかるように司書の仕事内容や、日本の図書館について語ってみせると、彼は感心しながら唸った。
「そうか、うーん、難しいかもねえ……シズキのやりたい仕事に一番近いのは官僚だと思うけど、貴族の推薦がないと役人にはなれないって聞くよ」
国の役人になりたいわけではないと俯くと、タオは励ますように声を明るくした。
「シズキが本当に官僚になりたいっていうなら、王都まで行ってみるのもアリだと思うよ。俺も路銀を出すから」
「あ、いや、なりたいわけではないよ」
「そうなの? 遠慮しなくていいから、シズキの本当の気持ちを教えてよ。シショだっけ、それになりたいんでしょ?」
「そう、だったけれど……」
日常生活のお手伝いや字の読み書きもままならないのに、そんなに先のことまで考えられないというのが正直なところだった。
(そんな情けないことを、話してもいいのだろうか)
タオだったらバカにしないような気がする。シズキはしばらく迷ってから、勇気を出して気持ちを伝えた。
「今はまだ考えられない、かな」
「そっかあ。また気が変わったら相談してね」
大丈夫だったと、ホッと息を吐く。
(タオは僕の話を頭ごなしに否定したり、適当に流したりしないんだ)
ピクリと動いた虎耳を新鮮な気持ちで見下ろしていると、疑問が湧いてくる。尋ねてもいいか一瞬ためらったけれど、遠慮しなくていいと言われたので聞いてみることにした。
「……僕が仕事をすること自体は、嫌じゃないんだ?」
「んー、俺としてはここで静樹と一緒に暮らせるならなんでもいいかな。一緒に暮らせないほど遠くの仕事であっても、静樹が本当にやりたい仕事なんだったら……」
彼は苦悶の声を上げながら、静樹を下ろした。何を言いだすのだろうとドキドキしていると、タオは静樹の目の前で片膝をついて視線を合わせた。
「応援するよ、すごく寂しいけどね……! その時は俺も静樹と一緒に暮らせるような仕事を見つけたいな、協力してくれる?」
「……ずっと僕と一緒に暮らしたいの?」
「そうだよ。だって俺の一番大事な友達で、番になれたらいいなって思ってる人だから」
友達と番は両立しないんじゃないかと感じたけれど、ずっと一緒にいたいと思ってくれてるなんて、悪くない気分だった。
胸の奥がそわそわと騒いで、落ち着かなくなる。嬉しいような恥ずかしいような、この感覚はなんだろうと首を捻った。
「シズキ、頬が桃色になってるよ! 可愛い……っ!」
「え……」
言われて見れば頬が熱いと、慌てて両頬を手で押さえた。タオは静樹に触ろうとして、途中で勝手に触らない約束をしたのを思い出したらしく、残念そうに手を引っ込めた。
(また僕のことを、かわいいって言った……そういえばハオエンだって見た目は人間っぽいのに、タオは彼に見惚れたりしなかったな)
疑問を抱きつつじっと海色の目を見上げていると、タオは瞳を瞬かせた。
「どうかした?」
「いや、その……タオは僕のこと、なんで好きなんだろうなって気になって」
タオは立ち上がり、うーんと腕を組みながら首を捻る。
「なんでだろうね? 気がついた時には好きだなあ、番になってほしいなあって強烈に惹かれてたんだよね。見た目もかわいいし肌触りもいいし」
やっぱり見た目だけで惚れられていたのかと苦笑したが、彼は一生懸命に続きを話しているので耳を傾けた。
「それに色んなことを一緒にやろうとしてくれるのが嬉しいんだよね。行動の一つ一つが小動物みたいで可愛いし」
また可愛いと言われた……どうやら見た目だけでなく行動もキュートだと思われていそうで、居心地悪く腕を摩った。
「努力家なとこも真面目なとこも好きだな、知れば知るほど好きになっちゃう感じ。だからそんな静樹と友達になれて、一緒に住めて嬉しいよ」
「そ、そうなんだ……」
彼の笑顔には無理がなく朗らかで、本心からそう言っているように聞こえる。褒め倒されて恥ずかしくなり、木の実採りに戻るとタオもそれに習う。
黙々と作業をしたけれど、トオリの実はたくさんあった。カゴが満タンになってしまったため、その日は家に帰って次の日また出直すことにした。
「う、わ……高い」
「支えてるから両手を離しても大丈夫だよ! 実に手が届くかな?」
「あ、うん届く……!」
視界が高くなり恐ろしくなったが、採りたかった実が目に入るとそちらに意識が集中した。むしり取って背中のカゴに放り込んでいく。
楽しく作業をしていると、自然と口元が綻んで鼻歌を歌ってしまっていた。ハッと気づいて中断すると、タオは声をかけてくる。
「シズキって声もかわいいよね、歌もとっても上手だ」
「え、そんなことは、ないと思うけれど」
恥ずかしくなって頬に熱が昇る。初めて言われた……この世界に来てから初めての経験ばかりで、心の中が忙しい。
特にタオに関することでは、気分を乱されてばかりだ。最初のうちは怖いだけだったけれど、最近はそうでもない。楽しいと思うことが増えてきた気がする。
「ねえ、もっとシズキの声が聞きたいな。何か話してよ」
「何かって、何を?」
「そうだなあ、例えばこの世界でやりたいこととか。雑技団に入っちゃうと旅の道中危険だし、遠くに行って会えなくなっちゃうから反対するけど。町の仕事だったらまだ会えるし、この家からも通えるかもしれないよ?」
「え、と……その、やりたい仕事はできなさそうなんだ」
「そうなの?」
「将来は司書になりたかったんだけど、この世界には図書館がないみたいだから……王城とかに行けばあるのかもしれないけど、そういうところで働くのは平民じゃ無理なんだよね?」
タオにわかるように司書の仕事内容や、日本の図書館について語ってみせると、彼は感心しながら唸った。
「そうか、うーん、難しいかもねえ……シズキのやりたい仕事に一番近いのは官僚だと思うけど、貴族の推薦がないと役人にはなれないって聞くよ」
国の役人になりたいわけではないと俯くと、タオは励ますように声を明るくした。
「シズキが本当に官僚になりたいっていうなら、王都まで行ってみるのもアリだと思うよ。俺も路銀を出すから」
「あ、いや、なりたいわけではないよ」
「そうなの? 遠慮しなくていいから、シズキの本当の気持ちを教えてよ。シショだっけ、それになりたいんでしょ?」
「そう、だったけれど……」
日常生活のお手伝いや字の読み書きもままならないのに、そんなに先のことまで考えられないというのが正直なところだった。
(そんな情けないことを、話してもいいのだろうか)
タオだったらバカにしないような気がする。シズキはしばらく迷ってから、勇気を出して気持ちを伝えた。
「今はまだ考えられない、かな」
「そっかあ。また気が変わったら相談してね」
大丈夫だったと、ホッと息を吐く。
(タオは僕の話を頭ごなしに否定したり、適当に流したりしないんだ)
ピクリと動いた虎耳を新鮮な気持ちで見下ろしていると、疑問が湧いてくる。尋ねてもいいか一瞬ためらったけれど、遠慮しなくていいと言われたので聞いてみることにした。
「……僕が仕事をすること自体は、嫌じゃないんだ?」
「んー、俺としてはここで静樹と一緒に暮らせるならなんでもいいかな。一緒に暮らせないほど遠くの仕事であっても、静樹が本当にやりたい仕事なんだったら……」
彼は苦悶の声を上げながら、静樹を下ろした。何を言いだすのだろうとドキドキしていると、タオは静樹の目の前で片膝をついて視線を合わせた。
「応援するよ、すごく寂しいけどね……! その時は俺も静樹と一緒に暮らせるような仕事を見つけたいな、協力してくれる?」
「……ずっと僕と一緒に暮らしたいの?」
「そうだよ。だって俺の一番大事な友達で、番になれたらいいなって思ってる人だから」
友達と番は両立しないんじゃないかと感じたけれど、ずっと一緒にいたいと思ってくれてるなんて、悪くない気分だった。
胸の奥がそわそわと騒いで、落ち着かなくなる。嬉しいような恥ずかしいような、この感覚はなんだろうと首を捻った。
「シズキ、頬が桃色になってるよ! 可愛い……っ!」
「え……」
言われて見れば頬が熱いと、慌てて両頬を手で押さえた。タオは静樹に触ろうとして、途中で勝手に触らない約束をしたのを思い出したらしく、残念そうに手を引っ込めた。
(また僕のことを、かわいいって言った……そういえばハオエンだって見た目は人間っぽいのに、タオは彼に見惚れたりしなかったな)
疑問を抱きつつじっと海色の目を見上げていると、タオは瞳を瞬かせた。
「どうかした?」
「いや、その……タオは僕のこと、なんで好きなんだろうなって気になって」
タオは立ち上がり、うーんと腕を組みながら首を捻る。
「なんでだろうね? 気がついた時には好きだなあ、番になってほしいなあって強烈に惹かれてたんだよね。見た目もかわいいし肌触りもいいし」
やっぱり見た目だけで惚れられていたのかと苦笑したが、彼は一生懸命に続きを話しているので耳を傾けた。
「それに色んなことを一緒にやろうとしてくれるのが嬉しいんだよね。行動の一つ一つが小動物みたいで可愛いし」
また可愛いと言われた……どうやら見た目だけでなく行動もキュートだと思われていそうで、居心地悪く腕を摩った。
「努力家なとこも真面目なとこも好きだな、知れば知るほど好きになっちゃう感じ。だからそんな静樹と友達になれて、一緒に住めて嬉しいよ」
「そ、そうなんだ……」
彼の笑顔には無理がなく朗らかで、本心からそう言っているように聞こえる。褒め倒されて恥ずかしくなり、木の実採りに戻るとタオもそれに習う。
黙々と作業をしたけれど、トオリの実はたくさんあった。カゴが満タンになってしまったため、その日は家に帰って次の日また出直すことにした。
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