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第三章 魔人救済編

259 問題発生

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 残暑が去った秋の初めの日のことだった。クインシーとヴァレリオから連絡があった。

「イツキ殿、陛下から返答があった。魔人國の様子を実際に目で見て確かめてから、条約を締結したいとのことだ。殿下が代表としてそちらへ赴くことになった」
「プルテリオンにはどういう経路で行ったのかな? 俺達も首都シャルワールに向かうことになったんだ」

 俺は魔道話越しに見えないのをいいことに、グッと握り拳を固めガッツポーズをした。よっしゃ、無事話しあいまで漕ぎつけたぞ。

「山越えがいいんじゃないか、大陸の南から海を経由すると、すげえ遠回りになっちまうからな。迎えを寄越すからナガル村で落ち合ってくれ」

 対抗戦の時にちょろっと見かけたレオンハルト殿下とやらが、ヴァレリオやクインシーその他おつきの者を引き連れて、大所帯でやってくるらしい。

 気合を入れて歓迎してやらなきゃな。魔人側の意識改革も、料理やリドアートの活躍により着々と進んでいる。

 交渉が決裂しないよう、選りすぐりの護衛もつけて万全な状態で迎え入れよう。

 クインシー達と念入りに予備交渉をし日時を打ち合わせて、魔道話の光を消した。

「いよいよだな、カイル……って、そうか。今日は会えないんだった」

 カイルには国境から城までの治安確認と、盗賊のアジトを徹底的に潰してもらえるようにお願いしたんだった。数日は帰ってこれないだろう。

 会えないって思うと会いたくなるんだよなあ……いっそのこと探しに……いや、まだやることが残っている。

 俺は涙をのんで仕事に着手した。くっそ、早く魔王なんてやめてやりたい。忙しすぎて社畜時代のトラウマが蘇りそうだ。

 自分のペースで仕事できるだけまだいいか……と気を取り直して、執務の優先事項や条約締結における抵抗点を確認したりした。





 レオンハルト殿下一行は、無事に山越えを果たしたようだ。あと数日で首都シャルワールまでやってくる。

 この段階になって、どうしても解決できない問題が浮上していた。

 執務室に呼び寄せたリドアートとキエルステンを、俺は厳しい目つきで睨む。クレミアは部屋の端で、そんな俺達を心配そうに見つめていた。

「だから、何度も言ってるだろ? 俺は向こうのヤツらに顔が割れてるんだ。交渉を滞りなく進めるためには、アンタらのどっちかが王座に座ってくれてなくちゃ困るんだよ」
「いやしかしだね、今回の件は君に一任するほうが上手くまとまると思うが。獣人の扱いについて一番詳しいのは、実際に市井で暮らした君だからな」

 リドアートは首を縦に振らず、のらりくらりと俺の主張を交わす。キエルステンをジロリと見上げると、彼は眉根を寄せて困った顔をした。

「私もイツキ陛下が交渉なさるのが、一番よいと進言致します。そもそも魔王に会うためにいらっしゃった面々に、私が代表として会うのは失礼ですよ」
「俺は魔王を辞めるつもりだって伝えてあるだろ? 最初からいなくなっちまうヤツより、今後もつきあいが続くヤツが引き受けた方がいいって」
「魔王を辞するなど.……ああ、やめてください、考えただけでも涙が……」
「おい嘘泣きはやめろよキエル」

 冷めた目で半眼になっても、彼は頑なに俺が交渉するべきと言って譲らない。最終兵器クレミアに力を貸してもらうべき時が来たようだ。

「クレー、アンタからもなんとか言ってやってくれ」

 俺が彼女に話を振ると、おろおろと俺達を見比べた後、覚悟を決めた様子でこちらにやってくる。

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