59 / 178
第二章 陰謀恋愛編
200話記念SS お別れ会
しおりを挟む
食べ頃の豚亭で、カイルと二人で明日の動きを確認していると、来客があると宿の従業員から告げられた。
「おーい、旦那方? 今大丈夫っスか?」
「犬っころ、何の用事だ」
カイルがジロリとテオを見下ろす。彼はハハッと口元を引きつらせながら笑ってみせた。
「お二人のところを邪魔してすみませんって。でもでも、明日出発でしょ? お別れは言ったけど、やっぱり送別会したいねって、レジーが」
「送別会?」
んなもん開いてもらうほどの、長いつきあいだったわけでもねえんだが……ずいぶんレジオットには懐かれてたからな。
またすぐ会えるとはいえ、寂しいんだろう。せっかくもてなしてくれるっていうなら、今晩の宿の夕飯はキャンセルして顔を出すか。
「行こうぜカイル」
「……仕方ないな」
カイルは面倒そうにしていたが、反論はせずについてくる運びとなった。テオがホッと胸を撫で下ろしている。
「よかったー! じゃ、日暮れ頃に邸に来てほしいんで、よろしくお願いするっス!」
宿でイチャつきながら、本を読んだり耳掻きしたりとのんびりして、日暮れと共にクインシーの邸に赴く。
兎メイドに案内された部屋に着くと、なにやら扉越しに話し声がするのが聞こえた。
「テオ、僕緊張してきた。イツキ達に喜んでもらえるかな」
「だーいじょうぶだってレジー、旦那方は絶対喜ぶって俺が保証するっス!」
「レジオット、落ち着かないのはわかるけどさ。そんなにウロウロしないで座って待っていた方が、気分も落ち着くんじゃないかな?」
コンコンとノックをすると、バタバタと忙しない足音が近づいてきた。
レジオットはそっと扉を開けて、俺達の顔を見つけると、はにかむような笑みを浮かべた。
「今日は来てくれてありがとう、イツキ、カイルさん」
「お招きありがとうよ、送別会なんて開いてもらって悪いな」
「僕が勝手にやりたかっただけだから、むしろつきあってくれてありがとう。どうぞ入って」
部屋の中にはいい匂いが漂っていた。部屋の中央のテーブルの上には、豪華な料理が所狭しと並んでいる。
「おお、美味そうだ」
「イツキ、お腹空いてる? だったら早速食べよう」
「乾杯が先っスよ、はいこれがイツキの旦那の分で、こっちがカイルの旦那ね」
「それじゃ、俺が音頭をとろうか。対抗戦の素晴らしい成績を讃えて、乾杯!」
渡されたワイングラスを掲げる。今日はカイルにもお酒を用意されたらしく、彼はちょっと目を見張った後、満足そうな表情で一口ワインを口に含んだ。
「まあまあだ」
「よかったです、お口にあったみたいで」
そっけないカイルの感想に、レジオットはホッとしたように頷きながら返答している。なんかこの二人のやりとり見てるのって面白いな。
「イツキの旦那、俺のおススメの端肉パンも食べてみてほしいっス! めっちゃ美味しいんで」
「これか? じゃあもらうわ……うん、美味いなコレ」
「でしょー? 使用人のまかないなんっスけど、今日はぜひ旦那方にもこの美味しさを知ってもらいたいと思って、わざわざ作ってもらったんだー」
端肉パンをかじっていると、レジオットもおずおずと料理を差しだしてきた。
「イツキ、これ僕が作ったんだ。食べてみてほしい」
「木の実パイじゃねえか、レジオットは料理もできるんだな」
「ううん。できないけど、これだけはどうしても作ってみたくて、厨房の人に教えてもらったんだ」
早速切り分けてもらって一口含む。カリッとした木の実が香ばしく、パイの甘みもちょうどよかった。
「美味しいぜコレ。カイルも食べてみろよ」
「火が通り過ぎていて味がしなさそうだ」
「もったいねえな、こんなに美味しいのに味わえないなんて」
嘆いているとカイルが俺の手を引き寄せて、味見をしてくれた。
しゃくしゃくと苦い顔で咀嚼し、一言。
「味がしない」
「本当に魔人の味覚って不思議だよな、どうなってんだよ」
「俺からすれば、魔力を味わえないお前達の方こそ、不可思議な存在だ」
異文化の壁は根深いな、果たして共存する道はあるのか……
真面目な思考に囚われそうになっていると、クインシーがちょいちょいと俺の肩をつついた。
ローストビーフの皿を両手で捧げ持つ彼は、満面の笑みで企むように笑いかけてくる。
「イツキ、俺もコレ作ってみたんだよ。食べてみてほしいなあ」
「いや、それ絶対ウソだろ」
「ボスは料理したことないはずっスよ。それに厨房の人が火を通してるところも見たんで」
「ちょっと、ネタバラシが早すぎるよテオ。料理くらいしたことあるからね? 一回だけだけど」
「え、料理したことあったんっスね? 知りませんでした、すみませんボス」
「そんな真正面から謝られても、返答に困るんだよね。もうちょっと一緒にふざけてくれて、よかったんだけどなあ」
ふざけてほしいと言われて、真面目なレジオットがキリッとした顔で便乗した。
「さすがクインシー様です。僕の尊敬するクインシー様なら、料理なんて朝飯前です。初めてでもプロ級に作れます」
「あはは、それほどでも……って、なんか虚しいねこの遊び。うん、やめようか」
その後もおおいに盛り上がり、楽しい時間を過ごした。
こいつらと話すのは気楽でいいよな。またこういう時間が、いつか持てるといいな。
「おーい、旦那方? 今大丈夫っスか?」
「犬っころ、何の用事だ」
カイルがジロリとテオを見下ろす。彼はハハッと口元を引きつらせながら笑ってみせた。
「お二人のところを邪魔してすみませんって。でもでも、明日出発でしょ? お別れは言ったけど、やっぱり送別会したいねって、レジーが」
「送別会?」
んなもん開いてもらうほどの、長いつきあいだったわけでもねえんだが……ずいぶんレジオットには懐かれてたからな。
またすぐ会えるとはいえ、寂しいんだろう。せっかくもてなしてくれるっていうなら、今晩の宿の夕飯はキャンセルして顔を出すか。
「行こうぜカイル」
「……仕方ないな」
カイルは面倒そうにしていたが、反論はせずについてくる運びとなった。テオがホッと胸を撫で下ろしている。
「よかったー! じゃ、日暮れ頃に邸に来てほしいんで、よろしくお願いするっス!」
宿でイチャつきながら、本を読んだり耳掻きしたりとのんびりして、日暮れと共にクインシーの邸に赴く。
兎メイドに案内された部屋に着くと、なにやら扉越しに話し声がするのが聞こえた。
「テオ、僕緊張してきた。イツキ達に喜んでもらえるかな」
「だーいじょうぶだってレジー、旦那方は絶対喜ぶって俺が保証するっス!」
「レジオット、落ち着かないのはわかるけどさ。そんなにウロウロしないで座って待っていた方が、気分も落ち着くんじゃないかな?」
コンコンとノックをすると、バタバタと忙しない足音が近づいてきた。
レジオットはそっと扉を開けて、俺達の顔を見つけると、はにかむような笑みを浮かべた。
「今日は来てくれてありがとう、イツキ、カイルさん」
「お招きありがとうよ、送別会なんて開いてもらって悪いな」
「僕が勝手にやりたかっただけだから、むしろつきあってくれてありがとう。どうぞ入って」
部屋の中にはいい匂いが漂っていた。部屋の中央のテーブルの上には、豪華な料理が所狭しと並んでいる。
「おお、美味そうだ」
「イツキ、お腹空いてる? だったら早速食べよう」
「乾杯が先っスよ、はいこれがイツキの旦那の分で、こっちがカイルの旦那ね」
「それじゃ、俺が音頭をとろうか。対抗戦の素晴らしい成績を讃えて、乾杯!」
渡されたワイングラスを掲げる。今日はカイルにもお酒を用意されたらしく、彼はちょっと目を見張った後、満足そうな表情で一口ワインを口に含んだ。
「まあまあだ」
「よかったです、お口にあったみたいで」
そっけないカイルの感想に、レジオットはホッとしたように頷きながら返答している。なんかこの二人のやりとり見てるのって面白いな。
「イツキの旦那、俺のおススメの端肉パンも食べてみてほしいっス! めっちゃ美味しいんで」
「これか? じゃあもらうわ……うん、美味いなコレ」
「でしょー? 使用人のまかないなんっスけど、今日はぜひ旦那方にもこの美味しさを知ってもらいたいと思って、わざわざ作ってもらったんだー」
端肉パンをかじっていると、レジオットもおずおずと料理を差しだしてきた。
「イツキ、これ僕が作ったんだ。食べてみてほしい」
「木の実パイじゃねえか、レジオットは料理もできるんだな」
「ううん。できないけど、これだけはどうしても作ってみたくて、厨房の人に教えてもらったんだ」
早速切り分けてもらって一口含む。カリッとした木の実が香ばしく、パイの甘みもちょうどよかった。
「美味しいぜコレ。カイルも食べてみろよ」
「火が通り過ぎていて味がしなさそうだ」
「もったいねえな、こんなに美味しいのに味わえないなんて」
嘆いているとカイルが俺の手を引き寄せて、味見をしてくれた。
しゃくしゃくと苦い顔で咀嚼し、一言。
「味がしない」
「本当に魔人の味覚って不思議だよな、どうなってんだよ」
「俺からすれば、魔力を味わえないお前達の方こそ、不可思議な存在だ」
異文化の壁は根深いな、果たして共存する道はあるのか……
真面目な思考に囚われそうになっていると、クインシーがちょいちょいと俺の肩をつついた。
ローストビーフの皿を両手で捧げ持つ彼は、満面の笑みで企むように笑いかけてくる。
「イツキ、俺もコレ作ってみたんだよ。食べてみてほしいなあ」
「いや、それ絶対ウソだろ」
「ボスは料理したことないはずっスよ。それに厨房の人が火を通してるところも見たんで」
「ちょっと、ネタバラシが早すぎるよテオ。料理くらいしたことあるからね? 一回だけだけど」
「え、料理したことあったんっスね? 知りませんでした、すみませんボス」
「そんな真正面から謝られても、返答に困るんだよね。もうちょっと一緒にふざけてくれて、よかったんだけどなあ」
ふざけてほしいと言われて、真面目なレジオットがキリッとした顔で便乗した。
「さすがクインシー様です。僕の尊敬するクインシー様なら、料理なんて朝飯前です。初めてでもプロ級に作れます」
「あはは、それほどでも……って、なんか虚しいねこの遊び。うん、やめようか」
その後もおおいに盛り上がり、楽しい時間を過ごした。
こいつらと話すのは気楽でいいよな。またこういう時間が、いつか持てるといいな。
46
お気に入りに追加
4,053
あなたにおすすめの小説
雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される
Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木)
読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!!
黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。
死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。
闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。
そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。
BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)…
連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。
拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
Noah
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜
N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間)
ハーレム要素あります。
苦手な方はご注意ください。
※タイトルの ◎ は視点が変わります
※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます
※ご都合主義です、あしからず
主人公に「消えろ」と言われたので
えの
BL
10歳になったある日、前世の記憶というものを思い出した。そして俺が悪役令息である事もだ。この世界は前世でいう小説の中。断罪されるなんてゴメンだ。「消えろ」というなら望み通り消えてやる。そして出会った獣人は…。※地雷あります気をつけて!!タグには入れておりません!何でも大丈夫!!バッチコーイ!!の方のみ閲覧お願いします。
他のサイトで掲載していました。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
不憫王子に転生したら、獣人王太子の番になりました
織緒こん
BL
日本の大学生だった前世の記憶を持つクラフトクリフは異世界の王子に転生したものの、母親の身分が低く、同母の姉と共に継母である王妃に虐げられていた。そんなある日、父王が獣人族の国へ戦争を仕掛け、あっという間に負けてしまう。戦勝国の代表として乗り込んできたのは、なんと獅子獣人の王太子のリカルデロ! 彼は臣下にクラフトクリフを戦利品として側妃にしたらどうかとすすめられるが、王子があまりに痩せて見すぼらしいせいか、きっぱり「いらない」と断る。それでもクラフトクリフの処遇を決めかねた臣下たちは、彼をリカルデロの後宮に入れた。そこで、しばらく世話をされたクラフトクリフはやがて健康を取り戻し、再び、リカルデロと会う。すると、何故か、リカルデロは突然、クラフトクリフを溺愛し始めた。リカルデロの態度に心当たりのないクラフトクリフは情熱的な彼に戸惑うばかりで――!?
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。