超好みな奴隷を買ったがこんな過保護とは聞いてない

兎騎かなで

文字の大きさ
上 下
34 / 91
第一章 奴隷護衛編

100話記念SS ハロウィン(マーシャル滞在時、秋)

しおりを挟む
「あ、カボチャ」

 黄色くて固いデカカボチャが、露天の店先で大量に売られていて、目につくままに呟いた。

「どうした、買いたいのか」
「そうだな、久しぶりに料理してみるか」

 この世界に来てから料理をしていないが、これでも日本で暮らしていた時はそれなりに自炊をしていたからな。作れなくはない。

「女将に頼んで、厨房を貸してもらおうぜ。カイルも食べるか?」
「いや……料理するんだろう? 魔力が抜ける……」

 彼は断ろうとしたが、思い直したように俺に振り向いた。

「食べる」
「無理しなくていいぞ」
「無理はしていない。一口分けてくれ」
「ああ、まあ……そこまで言うなら」

 というわけで、立派なカボチャを一つ買って帰ることにした。砂糖とバター、卵もついでに仕入れる。

「何を作るんだ?」
「スイートポテトって知ってるか?」
「知らないな」
「だよな、この世界で見たことねえし。それのカボチャバージョンを作る予定だ。まあ見てな」

 女将に厨房を貸してほしいとお願いすると、できた物をお裾分けしてくれるならいいわ、と許可をもらえた。

「イツキさんは料理をされるのね。探索だけじゃなくて料理もできるなんて、素敵よ」
「できるって言いきれるほどの腕前じゃねえが。今回作るのは得意料理だから、期待してていいぜ」

 味にうるさい姉貴のお墨付きだからな。厨房に立って、シンプルな黒のエプロンを借りる。

 興味深そうなカイルに見守られながら、調理をはじめた。

 レンジなんて便利な物はないので、薪に火をつけて、こっそり火魔法で火力を絶妙に調整しながら、カボチャを煮るための湯を沸かす。

「それにしても、でかいなこのカボチャ……」

 スイカほどもある大きなカボチャに、試しに包丁の刃を入れてみようとしたが、かなり固い。

 苦戦していると、カイルが手を添えて、ストンとヘタとその周辺部分を切り落としてくれた。

「お、ありがとな」
「皮を剥けばいいのか」
「いや、外側を残してくり抜きたいんだが……」

 カイルは器用に刃を滑らせて、内側だけをくり抜いてくれた。おお、これなら頭から被れそうだ。

「なあ、ここに切れこみを入れてくれよ」
「こうか?」
「そんで、こっちはギザギザにして……いい感じじゃねえか、ちょっと貸してくれ」

 目と鼻と口を切り抜いたカボチャを、頭からすぽっと被ってみた。

 ちょうどぴったり俺の目の位置と、カボチャに開けた穴の位置があわさって、バッチリ外が確認できた。

 カイルがなんとも言えない、呆れた表情でこちらを見ている。

「……なにをしているんだ」
「これを身につけていると、魂が取られないらしい」
「お前は何を言っているんだ?」
「わからねえよなあ……俺の故郷の祭の一つだと、思ってくれればいいよ」
「くり抜いたカボチャを被る祭か。不気味だな」

 実際ハロウィンは、不気味な祭りで正解だろう。日本じゃただの仮装大会、もしくは子どもがお菓子をもらえる日となっているが。

 ふざけるのはこのくらいにして、お菓子作りにとりかかる。カボチャの種を取り除いて一口大に切り、沸騰した湯の中に入れて煮こむ。

 煮えたらザルにお湯ごと入れて取りだして、ボールにカボチャを移して、砂糖とバターを入れて混ぜあわせる。

 火の側で加熱してベタつきをとったら、丸く成形する。その間にオーブンも用意しておく。厨房にオーブンがあってよかった。

「それで完成じゃないのか」
「ここから更に焼くんだ。そうすればもっと美味しくなるからな」
「それ以上魔力を抜いてどうするんだ」
「この状態でも食べれなくはないが。一口摘んでみるか?」

 指先でカボチャスイートポテトを、一口分すくいとって、カイルに差しだした。

 カイルの手のひらに落としてやろうと指を近づけると、ガシリと手首を掴まれる。

 形のいい唇が開いて、指先ごとカボチャを食べた。

「……っ」
「ん……甘いな」

 カイルはれろれろと指先を舐めまわして、丁寧にカボチャを舐めとった。

 舌先でつつくように指先を不規則に舐められると、ゾワッと身体中のうぶ毛が立った。

「カイル……っ! そろそろ食べ終わっただろ、離せって」
「お前の魔力は本当に美味い……」
「こら、俺は魔力じゃなくて、カボチャを味見させたんだ……っ、もう、つまみ食いしてんじゃねえよ!」

 グイッと手を取りかえすと、カイルは不満そうな顔で俺の指先を見据えた。魔力は昨日やったばかりじゃねえか。
 
「まだ食べたい」
「俺をおやつ扱いするんじゃねえ。こんなところで吸うのはやめてくれよ、部屋まで我慢してくれ」
「……わかった」

 しぶしぶながら納得してくれたので、お菓子作りを再開する。卵を割って黄身と白身に分けて、黄身を溶いてカボチャの上に塗りつけた。

「そんでこれをオーブンに入れて……しばらく待つ」
「魔力が完全に飛ぶな」
「獣人は魔力を食べてるわけじゃないから、これでいいんだよ」

 カイルはゲテモノ料理でも見るかのような視線を、オーブンに注いでいる。失礼な、いい感じの出来だと思うんだが。

 焼いているうちに、いい匂いが漂ってくる。女将や店員が、匂いにつられて厨房をのぞいてきた。

「そろそろ出来あがったのかしら、とてもいい匂いがするわね」
「もうできるぜ」

 焼き色がついたところで、オーブンから取りだした。辺り一面に甘い匂いが満ちる。女将はうっとりと厨房の空気を吸いこんだ。

「まだ熱そうだなあ、ちょっと待っててくれよ」
「これはなんていうお料理なの?」
「カボチャのスイートポテトだ」
「カボチャノスイ、トポテト? 変わった料理名ね」

 やはりこの世界には、スイートポテトは存在しないらしい。

 知らない言葉は翻訳されずにそのまま伝わるので、変な響きの料理だと、女将は首を傾げていた。

 ほどよく冷えた物を一口かじると、しっとりとしたカボチャの甘味が口いっぱいに広がる。うん、上手にできたな。

 女将と店員にもお裾分けすると、その場で食べて絶賛してくれた。

「とてもおいしいわね、レシピを教えてもらったりって、できるのかしら」
「いいぜ、俺が食べたい時に作ってくれるのなら」
「材料が仕入れられる季節であれば、大丈夫よ。ぜひその条件で、教えてほしいわ」

 女将にレシピを渡すと、ほくほく顔で宿の大将に声をかけに行っていた。俺達も残りのお菓子をインベントリに回収して、部屋に戻った。

「お菓子をみんなに配り歩くのも楽しそうだな。ハッピーハロウィンとか言ってさ」
「それも祭の催しの一部か?」
「そうそう……って、さっきからカイルにとっては意味不明な話ばっかしてるよな。悪い」

 カイルは涼しい顔で首を横に振った。

「別にいい。話したいなら話せばいい、お前の話なら聞いてやらないこともない」
「そうか? じゃあ、俺の故郷の話をしてやろうか」
「魔力のつまみにでも話してくれ」
「いや、それ集中して話せないからな?」

 魔力を吸わせてちょっぴりゾクゾクした後、宿の知り合い、フェルクやホセ、それからラベッタ達ギルド職員にも、お菓子を配り歩いた。

 もらった人はたいてい、不思議そうな顔をしていたが、俺が作ったというと喜んで受けとってもらえた。

「ちなみに、お菓子を贈るってのには、獣人的に何か特別な意味があったりしないよな?」
「聞いたことはない」

 カイルからも苦言は呈されなかったので、安心して配り歩いた。みんな、ハッピーハロウィン!


しおりを挟む
感想 150

あなたにおすすめの小説

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。