超好みな奴隷を買ったがこんな過保護とは聞いてない

兎騎かなで

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第一章 奴隷護衛編

100話記念SS ハロウィン(マーシャル滞在時、秋)

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「あ、カボチャ」

 黄色くて固いデカカボチャが、露天の店先で大量に売られていて、目につくままに呟いた。

「どうした、買いたいのか」
「そうだな、久しぶりに料理してみるか」

 この世界に来てから料理をしていないが、これでも日本で暮らしていた時はそれなりに自炊をしていたからな。作れなくはない。

「女将に頼んで、厨房を貸してもらおうぜ。カイルも食べるか?」
「いや……料理するんだろう? 魔力が抜ける……」

 彼は断ろうとしたが、思い直したように俺に振り向いた。

「食べる」
「無理しなくていいぞ」
「無理はしていない。一口分けてくれ」
「ああ、まあ……そこまで言うなら」

 というわけで、立派なカボチャを一つ買って帰ることにした。砂糖とバター、卵もついでに仕入れる。

「何を作るんだ?」
「スイートポテトって知ってるか?」
「知らないな」
「だよな、この世界で見たことねえし。それのカボチャバージョンを作る予定だ。まあ見てな」

 女将に厨房を貸してほしいとお願いすると、できた物をお裾分けしてくれるならいいわ、と許可をもらえた。

「イツキさんは料理をされるのね。探索だけじゃなくて料理もできるなんて、素敵よ」
「できるって言いきれるほどの腕前じゃねえが。今回作るのは得意料理だから、期待してていいぜ」

 味にうるさい姉貴のお墨付きだからな。厨房に立って、シンプルな黒のエプロンを借りる。

 興味深そうなカイルに見守られながら、調理をはじめた。

 レンジなんて便利な物はないので、薪に火をつけて、こっそり火魔法で火力を絶妙に調整しながら、カボチャを煮るための湯を沸かす。

「それにしても、でかいなこのカボチャ……」

 スイカほどもある大きなカボチャに、試しに包丁の刃を入れてみようとしたが、かなり固い。

 苦戦していると、カイルが手を添えて、ストンとヘタとその周辺部分を切り落としてくれた。

「お、ありがとな」
「皮を剥けばいいのか」
「いや、外側を残してくり抜きたいんだが……」

 カイルは器用に刃を滑らせて、内側だけをくり抜いてくれた。おお、これなら頭から被れそうだ。

「なあ、ここに切れこみを入れてくれよ」
「こうか?」
「そんで、こっちはギザギザにして……いい感じじゃねえか、ちょっと貸してくれ」

 目と鼻と口を切り抜いたカボチャを、頭からすぽっと被ってみた。

 ちょうどぴったり俺の目の位置と、カボチャに開けた穴の位置があわさって、バッチリ外が確認できた。

 カイルがなんとも言えない、呆れた表情でこちらを見ている。

「……なにをしているんだ」
「これを身につけていると、魂が取られないらしい」
「お前は何を言っているんだ?」
「わからねえよなあ……俺の故郷の祭の一つだと、思ってくれればいいよ」
「くり抜いたカボチャを被る祭か。不気味だな」

 実際ハロウィンは、不気味な祭りで正解だろう。日本じゃただの仮装大会、もしくは子どもがお菓子をもらえる日となっているが。

 ふざけるのはこのくらいにして、お菓子作りにとりかかる。カボチャの種を取り除いて一口大に切り、沸騰した湯の中に入れて煮こむ。

 煮えたらザルにお湯ごと入れて取りだして、ボールにカボチャを移して、砂糖とバターを入れて混ぜあわせる。

 火の側で加熱してベタつきをとったら、丸く成形する。その間にオーブンも用意しておく。厨房にオーブンがあってよかった。

「それで完成じゃないのか」
「ここから更に焼くんだ。そうすればもっと美味しくなるからな」
「それ以上魔力を抜いてどうするんだ」
「この状態でも食べれなくはないが。一口摘んでみるか?」

 指先でカボチャスイートポテトを、一口分すくいとって、カイルに差しだした。

 カイルの手のひらに落としてやろうと指を近づけると、ガシリと手首を掴まれる。

 形のいい唇が開いて、指先ごとカボチャを食べた。

「……っ」
「ん……甘いな」

 カイルはれろれろと指先を舐めまわして、丁寧にカボチャを舐めとった。

 舌先でつつくように指先を不規則に舐められると、ゾワッと身体中のうぶ毛が立った。

「カイル……っ! そろそろ食べ終わっただろ、離せって」
「お前の魔力は本当に美味い……」
「こら、俺は魔力じゃなくて、カボチャを味見させたんだ……っ、もう、つまみ食いしてんじゃねえよ!」

 グイッと手を取りかえすと、カイルは不満そうな顔で俺の指先を見据えた。魔力は昨日やったばかりじゃねえか。
 
「まだ食べたい」
「俺をおやつ扱いするんじゃねえ。こんなところで吸うのはやめてくれよ、部屋まで我慢してくれ」
「……わかった」

 しぶしぶながら納得してくれたので、お菓子作りを再開する。卵を割って黄身と白身に分けて、黄身を溶いてカボチャの上に塗りつけた。

「そんでこれをオーブンに入れて……しばらく待つ」
「魔力が完全に飛ぶな」
「獣人は魔力を食べてるわけじゃないから、これでいいんだよ」

 カイルはゲテモノ料理でも見るかのような視線を、オーブンに注いでいる。失礼な、いい感じの出来だと思うんだが。

 焼いているうちに、いい匂いが漂ってくる。女将や店員が、匂いにつられて厨房をのぞいてきた。

「そろそろ出来あがったのかしら、とてもいい匂いがするわね」
「もうできるぜ」

 焼き色がついたところで、オーブンから取りだした。辺り一面に甘い匂いが満ちる。女将はうっとりと厨房の空気を吸いこんだ。

「まだ熱そうだなあ、ちょっと待っててくれよ」
「これはなんていうお料理なの?」
「カボチャのスイートポテトだ」
「カボチャノスイ、トポテト? 変わった料理名ね」

 やはりこの世界には、スイートポテトは存在しないらしい。

 知らない言葉は翻訳されずにそのまま伝わるので、変な響きの料理だと、女将は首を傾げていた。

 ほどよく冷えた物を一口かじると、しっとりとしたカボチャの甘味が口いっぱいに広がる。うん、上手にできたな。

 女将と店員にもお裾分けすると、その場で食べて絶賛してくれた。

「とてもおいしいわね、レシピを教えてもらったりって、できるのかしら」
「いいぜ、俺が食べたい時に作ってくれるのなら」
「材料が仕入れられる季節であれば、大丈夫よ。ぜひその条件で、教えてほしいわ」

 女将にレシピを渡すと、ほくほく顔で宿の大将に声をかけに行っていた。俺達も残りのお菓子をインベントリに回収して、部屋に戻った。

「お菓子をみんなに配り歩くのも楽しそうだな。ハッピーハロウィンとか言ってさ」
「それも祭の催しの一部か?」
「そうそう……って、さっきからカイルにとっては意味不明な話ばっかしてるよな。悪い」

 カイルは涼しい顔で首を横に振った。

「別にいい。話したいなら話せばいい、お前の話なら聞いてやらないこともない」
「そうか? じゃあ、俺の故郷の話をしてやろうか」
「魔力のつまみにでも話してくれ」
「いや、それ集中して話せないからな?」

 魔力を吸わせてちょっぴりゾクゾクした後、宿の知り合い、フェルクやホセ、それからラベッタ達ギルド職員にも、お菓子を配り歩いた。

 もらった人はたいてい、不思議そうな顔をしていたが、俺が作ったというと喜んで受けとってもらえた。

「ちなみに、お菓子を贈るってのには、獣人的に何か特別な意味があったりしないよな?」
「聞いたことはない」

 カイルからも苦言は呈されなかったので、安心して配り歩いた。みんな、ハッピーハロウィン!


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