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アルバートとサンサ大魔導師
魔女見習いは王女の復讐の依頼を受けた
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晩餐会が終わり、アルバートの横に座っていた母シャーロットが、ほっとしたように席を立った。
毒を盛られて以来、すっかり虚弱体質になってしまったシャーロットが、普段は出席しない王族の集まりに顔を出したのは、ひとえにアルバートの行く末を思ってのことだろう。
エリザ王女との間に何があったのか知らないシャーロットは、王女の心象をよくするために、かなり無理をしたようだ。よろよろと立ち上がったシャーロットの腕を支え、アルバートは骨が浮き出た母の手を自分の肘に絡ませた。
帝王学を学んでいたときに、ティータイムに出た毒入り茶菓子を食べたアルバートが、生死を彷徨ったあと、犯人の証拠集めをしようとあちこち嗅ぎ回ったのが王妃の逆鱗に触れ、母が犠牲になった。
ガキ過ぎて、正攻法でしか戦うことを知らなかったとはいえ、第二の母であるカルラが刺客に刺されて血に塗れて絶命し、次いでシャーロットが吐血しながらのたうち回った姿はアルバ―トの脳裏に深く刻まれ、今でも夢に出てきて、アルバートを恐怖と苦しみのどん底に陥れる。
アルバートが、ガルレア王妃とハインツの配下に下ると決めたとき、シャーロットは病床で涙を流し、悲しそうに首を振った。
後ろ盾もなく、まだ少年でしかない自分が生き抜くためには、道は一つしかないと断腸の思いで決心したアルバートだが、シャーロットは震える手でアルバートの手を握り、自分を置いて他国に亡命するようにと、もう一つの道を勧めた。
できるわけがない。自分が逃げたせいで母が殺されたら、アルバートは一生自分の意気地の無さを呪うだろう。
母を逃がすことができたなら、アルバートは喜んで己の命と引き換えに、ガルレア王妃を殺す覚悟がある。そう思いながら、皇太子の継続権が得られる一八歳を迎え、ブリティアン王国にとって希望の光になったかもしれない王女エリザを、目の前で失った。
だが、奇蹟なのか、悪魔の仕業なのか、王女は生きていて、この国にやってきた。しかも、魔術師ではないかと思われる少女を伴って。
アルバートがマリルから事件の詳細を聞くために、東の離宮に行こうとしたとき、鳥がアルバートを襲撃して、マリルを逃がしたことが彼女の正体を疑うことになったきっかけだ。
もしかしてマリルが魔法を使ったのではないかと疑念を抱いたアルバートは、マリルと会う機会を待つことにしたが、さきほどその答えを得た。
椅子に真っすぐ背筋を伸ばして腰かけた王女の肩に、美しい花と一緒に留められたブローチ。ドーム型のガラスの中で、まるで生きているように動いた人形はマリルにそっくりだった。
人形が動いたのは、百歩譲って王女の言う通りに素材の柔らかさのせいであったとしよう。
だが、王女のフルートグラスから飛び出した煙が、空気に溶けるように色を失いながらも、弾丸の勢いでハインツのグラスに向かっていったのは、いったい誰の仕業だろうか?
あの部屋にいた王族や給仕の者たちはみな、ガルレア王妃に注目していたから気づかなかっただろうが、アルバートだけは、グラスの中を覗いたときのエリザ王女の僅かな動揺を見ていた。
もやが移動した先にいたハインツの様子がおかしくなったのは、あの得体のしれない物体を飲んだせいに違いない。
王妃はハインツを部屋に連れていく際、医者ではなく、ルーカスを呼ぶように従者に伝えた。ということは、王女が飲むはずだったフルーツワインには、最初からルーカスが仕込んだ魔物が入っていて、それに気が付いた誰かがエリザ王女を護るために、誰かが魔法を使って取り除いたことになる。
部屋には見知った顔の者たちのみ。だとしたら魔法を使ったのが誰かは、おのずと答えが出る。ブローチの中のミニチュア人形は、マリルが小さく変身したものであることに、ほぼ間違いはないだろう。
帝王学を学んだ時に、魔術師の存在と契約の仕方を学んだことがあるアルバートは、大抵の魔術師はサポートする妖精の力を借りるため、魔術に偏りがあることを知っている。
例えば、春の妖精と手を結べば、気温の上昇や動植物の繁殖や繁栄が得意だが、他の物体に直接働きかけることはできない。
ところがマリルは、鳥を使い、身体を小さく変え、物を転移させる能力を持つ。ルーカスがそうであるように、魔力量が多いために妖精の力を必要としない、類まれなる魔術の使い手なのかもしれない。
ふとアルバートの頭に、サンサという大魔導師の名前が浮かんだ。
ルーカスと肩を並べるほどの大魔導師サンサ。ひょっとしたら、マリルと言う名と姿は仮のもので、本当はサンサが潜り込んだのではないだろうか。
ルーカスがやってみせた転移魔法は、サンサの加護魔法によって力をセーブされていると本人に聞いた。ルーカスを抑えることができるなら、サンサ大魔導師はルーカスよりも魔術量があるのだろう。
ルーカスは、サンサはスパナン王国の手先だと言ったが、あの事故の場所にスパナン王国の痕跡は一切残されていなかったことから、今なら単にアルバートをはめるための作り話だったと分かる。
もしかしてサンサなら、母を国外に転移させることは可能なのではないか。一度はブリティアン王国に害をなす存在と認識したくせに、サンサに希望を見い出すなど調子がよすぎるが、背に腹は代えられない。
ザイアンがエリザ王女と一緒に、この国の未来を拓くというのなら、その前に立ちはだかるガルレアを倒して、自分の役割を終えたい。
ルーカスが後ろについている以上命がけなのは覚悟のこと。それで王女が味わった恐怖と痛みを償えるのなら、己の命に未練はない。
国を統べるのは、私利私欲に溢れた王妃ではなく、国の繁栄を見据えて対策を練り、諸侯などの特権階級のみに限らず、民の生活をも顧みることのできる王でなくてはならない。情に厚く心の広いザイアンなら良い王になるだろう。
思いをめぐらせながら、アルバートがシャーロットを伴い東の離宮へ向っていると、本城からの伝達でシャーロットを迎えにきた東の離宮の近衛兵に出くわした。母に別れを告げたアルバートは、踵を返して西の離宮へと歩いて行った。
暗闇の中、所々ランプを吊るした柱と屋根だけの渡り廊下を進んでいたアルバートの目の端を、ふわりと飛ぶ影が横切った。
ガサリと木々の枝を揺らして何かが止まる。立ち止まって目をこらすと、マリルを逃がすためにアルバートを襲った鳥がいた。
「マリ……サンサ大魔導師か」
アルバートが問いかけると鳥がブルッと震えて硬直し、その直後アルバートは、眩暈を覚えたときのように周囲の景色が揺らぐのを感じた。
元来た方を振り返ると、歩みの遅い母親と付き添いの兵士の姿も消えている。焦って引き返そうとするアルバートの耳に、女性の声が届いた。
『安心召されよ。結界を張っただけだ』
木の枝に止まった鳥の目から光線が地面へと流れ、一人の女性の幻影が現れる。黒くて長い髪に、琥珀色の瞳。いつか見たルーカスの色に似ているが、こちらは光を帯びたように身体が光り、闇夜でも髪の艶やかさと紅茶のように暖かな瞳が見て取れた。
「やっぱり、大魔導師サンサ殿だったのか」
『いかにも。私はサンサだ。どうして私だと分かられた』
「俺の周りで多種の魔法が使われているから、扱えるのは大魔導師に違いないと思っていたのだ。その姿が本物なのだな」
『何もかも当てずっぽうではあるが、推理としてはいい線をついておられる。そなたはアルバート殿下だったか。私は元からこの姿だが、誰かと間違えていらっしゃるのでは?』
「なんと、マリルは仮の姿ではないのか。俺は勘違いをしていたのだな。だが、ちょうど良かった。大がかりな魔法を扱えるあなたと話がしたかったのだ」
いきおいこんで話しかけたアルバートだが、サンサ大魔導師の態度と返事は素っ気なかった。
『ルーカスの手下かもしれない殿下に、私が手を貸すとお思いか?』
「ルーカスの手下だと? とんでもない。命をかけてでも倒したいと思う相手の言いなりなどなるものか」
渡り廊下から飛び出して、鳥が映す映像の前に立ったアルバートの目は、怒りでギラギラと光っている。サンサ大魔導師の幻影は、アルバートの真意を測るように無言で立ち尽くすばかりだ。ようやく口を開いたかと思えば、「口では何とでも言える」だった。それでも諦めきれずに、アルバートは食い下がった。
「ならば、どう証明すればいい? 大魔導師ならば俺が嘘をついているかぐらい判定できるのではないか?」
「それほど言うなら試して進ぜよう。ここにあるのは真実のリング。纏った部位に合わせてリングの輪が狭まるので、好きなところに着けられるがよい」
アルバートがサンサ大魔導師の幻影から放たれた直系三十CMほどのリングを掴んで腕を潜らせると、リングはぐんぐん環を縮めてブレスレットになった。
『では、お尋ねするが、マリルの所在は?』
何だ。そんなことかと、アルバートは拍子抜けした。
もっと事件のことや、王妃とルーカスの陰謀について核心をついてくるかと思っていたのに……。
「もし、俺が思っている通りマリルが魔術を使えるのなら、マリルはエリザ王女のブローチの中で人形のふりをして王女を守っている。今は王女と共にザイアンと西の塔にいるはずだ。俺も向かう途中だった」
『ふむ。そなたはマリルの変身を知っていて、王妃やルーカスに告げなかったのだな。もし、真実の輪がそなたの気から嘘を感じ取ったなら、今頃腕を締め付ける痛みで、真実を吐くか地面に転げ回っているだろう。私もそなたを信じたいところだが、マリルは三階に移動した後気配を消したのだ』
「何だって? 一階の会場から渡り廊下を通っていくのに、わざわざ三階に上がったりはしない。三階は王妃やハインツの私室が……」
アルバートは、王女がハインツへ届けるように渡したカゴを思い出し、ハッとした。
「まさか、あの中に……。サンサ殿、西の離宮に行って、王女に確かめたいことがある。案内するからついてきてくれ」
『ダメだ。この城の中は、一般人には感じられないルーカスの探知網が張り巡らされていて、魔術師が侵入すれば、ルーカスの知るところとなる。いずれは相まみえるとしても、今はその機会ではない。外から回っていくから調べて欲しい』
「分かった。この真実の輪は俺でも扱えるだろうか? もしできるなら他にも攻撃魔法の道具を借りられないだろうか?」
サンサ大魔導師は静かに首を振った。
『白魔術は人を助けるためのもで、攻撃の道具ではない。真実の輪は、悪人を見つけるために貸し出されるものだから誰でも使えるが、効果は三度だけで消滅するし、本当のことを言えば緩むから攻撃には向かない』
「そうか、あなたがどれだけ公明正大な大魔導師なのか分かった。それに比べ悪事に魔術を利用するルーカスは化け物だ。サンサ殿とゆっくり話がしたいが、今は先を急ごう」
サンサ大魔導師が杖を振り、アルバートはまた軽い眩暈に襲われた。結界が解けたことを感じ取り、アルバートは西の塔へと走り出した。
毒を盛られて以来、すっかり虚弱体質になってしまったシャーロットが、普段は出席しない王族の集まりに顔を出したのは、ひとえにアルバートの行く末を思ってのことだろう。
エリザ王女との間に何があったのか知らないシャーロットは、王女の心象をよくするために、かなり無理をしたようだ。よろよろと立ち上がったシャーロットの腕を支え、アルバートは骨が浮き出た母の手を自分の肘に絡ませた。
帝王学を学んでいたときに、ティータイムに出た毒入り茶菓子を食べたアルバートが、生死を彷徨ったあと、犯人の証拠集めをしようとあちこち嗅ぎ回ったのが王妃の逆鱗に触れ、母が犠牲になった。
ガキ過ぎて、正攻法でしか戦うことを知らなかったとはいえ、第二の母であるカルラが刺客に刺されて血に塗れて絶命し、次いでシャーロットが吐血しながらのたうち回った姿はアルバ―トの脳裏に深く刻まれ、今でも夢に出てきて、アルバートを恐怖と苦しみのどん底に陥れる。
アルバートが、ガルレア王妃とハインツの配下に下ると決めたとき、シャーロットは病床で涙を流し、悲しそうに首を振った。
後ろ盾もなく、まだ少年でしかない自分が生き抜くためには、道は一つしかないと断腸の思いで決心したアルバートだが、シャーロットは震える手でアルバートの手を握り、自分を置いて他国に亡命するようにと、もう一つの道を勧めた。
できるわけがない。自分が逃げたせいで母が殺されたら、アルバートは一生自分の意気地の無さを呪うだろう。
母を逃がすことができたなら、アルバートは喜んで己の命と引き換えに、ガルレア王妃を殺す覚悟がある。そう思いながら、皇太子の継続権が得られる一八歳を迎え、ブリティアン王国にとって希望の光になったかもしれない王女エリザを、目の前で失った。
だが、奇蹟なのか、悪魔の仕業なのか、王女は生きていて、この国にやってきた。しかも、魔術師ではないかと思われる少女を伴って。
アルバートがマリルから事件の詳細を聞くために、東の離宮に行こうとしたとき、鳥がアルバートを襲撃して、マリルを逃がしたことが彼女の正体を疑うことになったきっかけだ。
もしかしてマリルが魔法を使ったのではないかと疑念を抱いたアルバートは、マリルと会う機会を待つことにしたが、さきほどその答えを得た。
椅子に真っすぐ背筋を伸ばして腰かけた王女の肩に、美しい花と一緒に留められたブローチ。ドーム型のガラスの中で、まるで生きているように動いた人形はマリルにそっくりだった。
人形が動いたのは、百歩譲って王女の言う通りに素材の柔らかさのせいであったとしよう。
だが、王女のフルートグラスから飛び出した煙が、空気に溶けるように色を失いながらも、弾丸の勢いでハインツのグラスに向かっていったのは、いったい誰の仕業だろうか?
あの部屋にいた王族や給仕の者たちはみな、ガルレア王妃に注目していたから気づかなかっただろうが、アルバートだけは、グラスの中を覗いたときのエリザ王女の僅かな動揺を見ていた。
もやが移動した先にいたハインツの様子がおかしくなったのは、あの得体のしれない物体を飲んだせいに違いない。
王妃はハインツを部屋に連れていく際、医者ではなく、ルーカスを呼ぶように従者に伝えた。ということは、王女が飲むはずだったフルーツワインには、最初からルーカスが仕込んだ魔物が入っていて、それに気が付いた誰かがエリザ王女を護るために、誰かが魔法を使って取り除いたことになる。
部屋には見知った顔の者たちのみ。だとしたら魔法を使ったのが誰かは、おのずと答えが出る。ブローチの中のミニチュア人形は、マリルが小さく変身したものであることに、ほぼ間違いはないだろう。
帝王学を学んだ時に、魔術師の存在と契約の仕方を学んだことがあるアルバートは、大抵の魔術師はサポートする妖精の力を借りるため、魔術に偏りがあることを知っている。
例えば、春の妖精と手を結べば、気温の上昇や動植物の繁殖や繁栄が得意だが、他の物体に直接働きかけることはできない。
ところがマリルは、鳥を使い、身体を小さく変え、物を転移させる能力を持つ。ルーカスがそうであるように、魔力量が多いために妖精の力を必要としない、類まれなる魔術の使い手なのかもしれない。
ふとアルバートの頭に、サンサという大魔導師の名前が浮かんだ。
ルーカスと肩を並べるほどの大魔導師サンサ。ひょっとしたら、マリルと言う名と姿は仮のもので、本当はサンサが潜り込んだのではないだろうか。
ルーカスがやってみせた転移魔法は、サンサの加護魔法によって力をセーブされていると本人に聞いた。ルーカスを抑えることができるなら、サンサ大魔導師はルーカスよりも魔術量があるのだろう。
ルーカスは、サンサはスパナン王国の手先だと言ったが、あの事故の場所にスパナン王国の痕跡は一切残されていなかったことから、今なら単にアルバートをはめるための作り話だったと分かる。
もしかしてサンサなら、母を国外に転移させることは可能なのではないか。一度はブリティアン王国に害をなす存在と認識したくせに、サンサに希望を見い出すなど調子がよすぎるが、背に腹は代えられない。
ザイアンがエリザ王女と一緒に、この国の未来を拓くというのなら、その前に立ちはだかるガルレアを倒して、自分の役割を終えたい。
ルーカスが後ろについている以上命がけなのは覚悟のこと。それで王女が味わった恐怖と痛みを償えるのなら、己の命に未練はない。
国を統べるのは、私利私欲に溢れた王妃ではなく、国の繁栄を見据えて対策を練り、諸侯などの特権階級のみに限らず、民の生活をも顧みることのできる王でなくてはならない。情に厚く心の広いザイアンなら良い王になるだろう。
思いをめぐらせながら、アルバートがシャーロットを伴い東の離宮へ向っていると、本城からの伝達でシャーロットを迎えにきた東の離宮の近衛兵に出くわした。母に別れを告げたアルバートは、踵を返して西の離宮へと歩いて行った。
暗闇の中、所々ランプを吊るした柱と屋根だけの渡り廊下を進んでいたアルバートの目の端を、ふわりと飛ぶ影が横切った。
ガサリと木々の枝を揺らして何かが止まる。立ち止まって目をこらすと、マリルを逃がすためにアルバートを襲った鳥がいた。
「マリ……サンサ大魔導師か」
アルバートが問いかけると鳥がブルッと震えて硬直し、その直後アルバートは、眩暈を覚えたときのように周囲の景色が揺らぐのを感じた。
元来た方を振り返ると、歩みの遅い母親と付き添いの兵士の姿も消えている。焦って引き返そうとするアルバートの耳に、女性の声が届いた。
『安心召されよ。結界を張っただけだ』
木の枝に止まった鳥の目から光線が地面へと流れ、一人の女性の幻影が現れる。黒くて長い髪に、琥珀色の瞳。いつか見たルーカスの色に似ているが、こちらは光を帯びたように身体が光り、闇夜でも髪の艶やかさと紅茶のように暖かな瞳が見て取れた。
「やっぱり、大魔導師サンサ殿だったのか」
『いかにも。私はサンサだ。どうして私だと分かられた』
「俺の周りで多種の魔法が使われているから、扱えるのは大魔導師に違いないと思っていたのだ。その姿が本物なのだな」
『何もかも当てずっぽうではあるが、推理としてはいい線をついておられる。そなたはアルバート殿下だったか。私は元からこの姿だが、誰かと間違えていらっしゃるのでは?』
「なんと、マリルは仮の姿ではないのか。俺は勘違いをしていたのだな。だが、ちょうど良かった。大がかりな魔法を扱えるあなたと話がしたかったのだ」
いきおいこんで話しかけたアルバートだが、サンサ大魔導師の態度と返事は素っ気なかった。
『ルーカスの手下かもしれない殿下に、私が手を貸すとお思いか?』
「ルーカスの手下だと? とんでもない。命をかけてでも倒したいと思う相手の言いなりなどなるものか」
渡り廊下から飛び出して、鳥が映す映像の前に立ったアルバートの目は、怒りでギラギラと光っている。サンサ大魔導師の幻影は、アルバートの真意を測るように無言で立ち尽くすばかりだ。ようやく口を開いたかと思えば、「口では何とでも言える」だった。それでも諦めきれずに、アルバートは食い下がった。
「ならば、どう証明すればいい? 大魔導師ならば俺が嘘をついているかぐらい判定できるのではないか?」
「それほど言うなら試して進ぜよう。ここにあるのは真実のリング。纏った部位に合わせてリングの輪が狭まるので、好きなところに着けられるがよい」
アルバートがサンサ大魔導師の幻影から放たれた直系三十CMほどのリングを掴んで腕を潜らせると、リングはぐんぐん環を縮めてブレスレットになった。
『では、お尋ねするが、マリルの所在は?』
何だ。そんなことかと、アルバートは拍子抜けした。
もっと事件のことや、王妃とルーカスの陰謀について核心をついてくるかと思っていたのに……。
「もし、俺が思っている通りマリルが魔術を使えるのなら、マリルはエリザ王女のブローチの中で人形のふりをして王女を守っている。今は王女と共にザイアンと西の塔にいるはずだ。俺も向かう途中だった」
『ふむ。そなたはマリルの変身を知っていて、王妃やルーカスに告げなかったのだな。もし、真実の輪がそなたの気から嘘を感じ取ったなら、今頃腕を締め付ける痛みで、真実を吐くか地面に転げ回っているだろう。私もそなたを信じたいところだが、マリルは三階に移動した後気配を消したのだ』
「何だって? 一階の会場から渡り廊下を通っていくのに、わざわざ三階に上がったりはしない。三階は王妃やハインツの私室が……」
アルバートは、王女がハインツへ届けるように渡したカゴを思い出し、ハッとした。
「まさか、あの中に……。サンサ殿、西の離宮に行って、王女に確かめたいことがある。案内するからついてきてくれ」
『ダメだ。この城の中は、一般人には感じられないルーカスの探知網が張り巡らされていて、魔術師が侵入すれば、ルーカスの知るところとなる。いずれは相まみえるとしても、今はその機会ではない。外から回っていくから調べて欲しい』
「分かった。この真実の輪は俺でも扱えるだろうか? もしできるなら他にも攻撃魔法の道具を借りられないだろうか?」
サンサ大魔導師は静かに首を振った。
『白魔術は人を助けるためのもで、攻撃の道具ではない。真実の輪は、悪人を見つけるために貸し出されるものだから誰でも使えるが、効果は三度だけで消滅するし、本当のことを言えば緩むから攻撃には向かない』
「そうか、あなたがどれだけ公明正大な大魔導師なのか分かった。それに比べ悪事に魔術を利用するルーカスは化け物だ。サンサ殿とゆっくり話がしたいが、今は先を急ごう」
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