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第七章 学園編3
第109話 中級魔法は難しい
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ルーシーは両手に魔力を込める。だが、複雑な術式のせいか魔力は霧散し、氷の欠片がこぼれる。
「むー。氷の中級魔法アイスジャベリン。私が最初に覚えたアイスニードルの発展形。もっとも得意な属性魔法だと思ってたのに……ぐぬぬ。無理だー。リリアナさん。私は来年はここには居られないー」
同じくリリアナも悪戦苦闘しているようだ。
リリアナの手からも氷の欠片がこぼれ落ちていた。
「うーん、私も中級魔法がここまで難しいなんて思わなかった」
そう、中級魔法は難しい。この歳で習得できるのは余程の天才である。
中級魔法の一つでも使えれば冒険者としては即戦力として優遇されるほどである。
魔法の才能ではニコラスは実質クラスでは二番目に高い。
だが彼ほどの才能があっても中級魔法は未だに使えないのだ。
ちなみに、既に中級魔法のほとんどが使えるソフィアは特別だった。
彼女は入学時点でマスター級の魔法使いである。
ではなぜ入学したのか、それは母の助言である。いかにマスター級といっても仲間がいないと何もできないのだと。
そんなソフィアは今はルーシーとは別の班である。
天才だからと言って教えるのが得意という訳でもない。
お互いの相性を踏まえての班分けだ。
「ふー。ちょっと休憩。ねえ、ニコラス殿下さっきから黙ってるけどどうしたの? 調子悪いとか?」
ルーシーはさっきから無言のニコラスを心配して彼の顔色を確認しようと、自身の顔を近づける。
「え? あ、ああ。大丈夫だよ……」
ニコラスはルーシーの顔を今だに直視できないでいた。
だが、筋力トレーニングのおかげか、煩悩は解け、すぐにいつもの調子を取り戻す。
そして聞かねばならない質問をルーシーに投げかける。
「それよりルーシー。地獄の女監獄長って本があったの知ってるか?」
いきなり何を聞いているのだろう、ニコラスはやはり冷静ではなかった。
「え? もしかして殿下。アレを読んだの?」
ルーシーも迂闊だった。その返事だとルーシーはその本の内容を知っていることになる。
だが、それはそれとしてニコラスはなぜそれを聞いてきたのかである。
年頃の男の子なら、あれくらいの過激な本は読むだろうが、それをなぜ自分に報告するのだろうか。
もしかして正体がバレたのか。だが、あれは何のヒントにもなっていない。ではなぜ。
ルーシーはニコラスの顔を覗き込む。だがニコラスはルーシーがそうすると避けるように視線を逸らす。
「あ、ああ、そうだな。酷い内容だが。文学としてはよくできていてな。つい最後まで読んでしまったんだ。というか驚きだな。ルーシーも読んだことが?」
「う、いやー。グプタにいたときに友人にお勧めされて、つい。でもえっちな本だよねー。あはは」
少し照れ笑いをするルーシーを見て、ニコラスは夢の記憶を思い出し自分も真っ赤になりうつむく。
「二人とも何の話してるの? なんか二人とも真剣な顔だし。私、席はずそっか?」
「いや、リリアナそんな話じゃないよ。そのままいてくれ、少し古い小説の話をしてただけだ。
偶然ルーシーも知ってたようで少し驚いただけだよ。さて、休憩は終わりにして魔法の鍛錬を再開しようじゃないか」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ、続きを始めましょうか。
……でもどうしよう、理論は理解できても、発動にまで至らないのが今の状況よね。今年中に中級魔法の一つを習得できなければ留年だし頑張らなきゃ」
リリアナには少し焦りがあった。リリアナも自分の魔力に劣等感を持っているのだ。
だが、ルーシーは確信する。リリアナならできる。彼女は勤勉で面倒見が良い、おかげで自分が初めての魔法を使えるようになったのだから。
「リリアナさん、時間はまだあるし大丈夫だよ。それにソフィアさん以外はまだ誰も使えないんだし。何とかなるでしょ?」
ルーシーは前向きであった。
ニコラスとて当初はライバル視していたレーヴァテイン伯爵のご息女を前に、若干の焦りがあったが、今ではそんなプライドからは完全に解き放たれていた。
そして今のルーシーの発言で改めて確信する。
ニコラスは皇族としてクラスでナンバー1になる必要などないのだと。
「ふっ、ルーシーの言うとおりだ。よし、リリアナ。魔法式をいったん紙に書き出してみよう。ルーシーはあれで初級魔法の習得が出来たんだろ? 後で考えれば、実はそれは凄いことだと思ったしな」
ニコラスは紙を取り出すと魔法式を文字で書きだした。
「ニコラス殿下はたまに良い事言う。よーし。リリアナさんも気を取り直して、早速取り掛かろうじゃないか、わっはっは!」
「むー。氷の中級魔法アイスジャベリン。私が最初に覚えたアイスニードルの発展形。もっとも得意な属性魔法だと思ってたのに……ぐぬぬ。無理だー。リリアナさん。私は来年はここには居られないー」
同じくリリアナも悪戦苦闘しているようだ。
リリアナの手からも氷の欠片がこぼれ落ちていた。
「うーん、私も中級魔法がここまで難しいなんて思わなかった」
そう、中級魔法は難しい。この歳で習得できるのは余程の天才である。
中級魔法の一つでも使えれば冒険者としては即戦力として優遇されるほどである。
魔法の才能ではニコラスは実質クラスでは二番目に高い。
だが彼ほどの才能があっても中級魔法は未だに使えないのだ。
ちなみに、既に中級魔法のほとんどが使えるソフィアは特別だった。
彼女は入学時点でマスター級の魔法使いである。
ではなぜ入学したのか、それは母の助言である。いかにマスター級といっても仲間がいないと何もできないのだと。
そんなソフィアは今はルーシーとは別の班である。
天才だからと言って教えるのが得意という訳でもない。
お互いの相性を踏まえての班分けだ。
「ふー。ちょっと休憩。ねえ、ニコラス殿下さっきから黙ってるけどどうしたの? 調子悪いとか?」
ルーシーはさっきから無言のニコラスを心配して彼の顔色を確認しようと、自身の顔を近づける。
「え? あ、ああ。大丈夫だよ……」
ニコラスはルーシーの顔を今だに直視できないでいた。
だが、筋力トレーニングのおかげか、煩悩は解け、すぐにいつもの調子を取り戻す。
そして聞かねばならない質問をルーシーに投げかける。
「それよりルーシー。地獄の女監獄長って本があったの知ってるか?」
いきなり何を聞いているのだろう、ニコラスはやはり冷静ではなかった。
「え? もしかして殿下。アレを読んだの?」
ルーシーも迂闊だった。その返事だとルーシーはその本の内容を知っていることになる。
だが、それはそれとしてニコラスはなぜそれを聞いてきたのかである。
年頃の男の子なら、あれくらいの過激な本は読むだろうが、それをなぜ自分に報告するのだろうか。
もしかして正体がバレたのか。だが、あれは何のヒントにもなっていない。ではなぜ。
ルーシーはニコラスの顔を覗き込む。だがニコラスはルーシーがそうすると避けるように視線を逸らす。
「あ、ああ、そうだな。酷い内容だが。文学としてはよくできていてな。つい最後まで読んでしまったんだ。というか驚きだな。ルーシーも読んだことが?」
「う、いやー。グプタにいたときに友人にお勧めされて、つい。でもえっちな本だよねー。あはは」
少し照れ笑いをするルーシーを見て、ニコラスは夢の記憶を思い出し自分も真っ赤になりうつむく。
「二人とも何の話してるの? なんか二人とも真剣な顔だし。私、席はずそっか?」
「いや、リリアナそんな話じゃないよ。そのままいてくれ、少し古い小説の話をしてただけだ。
偶然ルーシーも知ってたようで少し驚いただけだよ。さて、休憩は終わりにして魔法の鍛錬を再開しようじゃないか」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ、続きを始めましょうか。
……でもどうしよう、理論は理解できても、発動にまで至らないのが今の状況よね。今年中に中級魔法の一つを習得できなければ留年だし頑張らなきゃ」
リリアナには少し焦りがあった。リリアナも自分の魔力に劣等感を持っているのだ。
だが、ルーシーは確信する。リリアナならできる。彼女は勤勉で面倒見が良い、おかげで自分が初めての魔法を使えるようになったのだから。
「リリアナさん、時間はまだあるし大丈夫だよ。それにソフィアさん以外はまだ誰も使えないんだし。何とかなるでしょ?」
ルーシーは前向きであった。
ニコラスとて当初はライバル視していたレーヴァテイン伯爵のご息女を前に、若干の焦りがあったが、今ではそんなプライドからは完全に解き放たれていた。
そして今のルーシーの発言で改めて確信する。
ニコラスは皇族としてクラスでナンバー1になる必要などないのだと。
「ふっ、ルーシーの言うとおりだ。よし、リリアナ。魔法式をいったん紙に書き出してみよう。ルーシーはあれで初級魔法の習得が出来たんだろ? 後で考えれば、実はそれは凄いことだと思ったしな」
ニコラスは紙を取り出すと魔法式を文字で書きだした。
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