3024年宇宙のスズキ

神谷モロ

文字の大きさ
上 下
50 / 133
エピソード2

シンドローム8/27

しおりを挟む
「船長さんー、お肉が焼けたですー。熱いので気を付けるですー。アイさんにフーフーしてもらうといいですー」

 ……まったく。茶化すなよ。俺は子供じゃないんだ。
 そう、俺はもう大人なのだ、仕事終わりのビールだって美味く思えるようになったし、スパイシーな肉とビールの相性は最高だ。

 それにこの時代の缶ビールは馬鹿にできない。
 大学時代にサークルのコンパで嫌々飲まされた、格安居酒屋の生ビールよりも確実においしいのだ。……いや、待てよ。一杯200円の生中……あれは本当にビールだったのだろうか……。

 おっといけない、その疑問は今さらだ、千年前の出来事にいちいち難癖も良くないしな。

 喉が渇いていたのか、あっという間に一本飲み干してしまった。今日はもう一本いってもいいだろう。
 程よい炭酸とアルコールは疲れた脳を休めるのに効果的なのだ。

「船長さん! 空き缶は置きっぱなしにしないでください、ちゃんとリサイクルボックスに入れてください。ポイ捨ては罰金ですよ?」

 はいはい、サンバは相変わらず口うるさいな。

 でも何か違和感がある……。

「……はぁ、なんか寂しいな……」

「おや、マスターどうされましたか? やはり私がフーフーして差し上げましょうか?」

「いや、なんかな。バーベキューはいつやっても楽しいと思ってたけど、実は違ってたんだな。
 食べる人が俺だけだと逆に空虚というか。お一人様感が強調されてちょっとみじめになるんだ」

「難しい問題ですね。我々は物を食べる事ができませんし」

「船長さん、無い物ねだりは無意味ですよ。
 確かに子供達と一緒にやったバーベキューに比べれば、今の船長さんはお一人様でイキってる独身男性に見えますが」

「ふっ辛辣……、でもサンバ君の言うとおりだな……。そう、なんか違うんだよなー。もちろんミシェルンの作った料理は美味しいんだ……。けどなんか物足りないんだよなー」

「食べるって言っても私達ロボットは食べることが出来ないですー。
 あ、そういえばゲームの世界ではアイさんもサンバも食べてましたねー。スタミナ値の回復でしたっけ? でもあれはゲテモノのジャンルですー。ダークファンタジーの料理は船長さんにはお勧めしないですー。あれを再現しても臭いスープに煙たいコーヒーしかできないですー」

 まあ、そうだろう。リアルなダークファンタジーがテーマのゲームだ。
 味付けもろくにない野営料理なんて食べれたもんじゃないだろう。
 それにミシェルンが不味いって言ってるんだ。間違いない。

 とはいえ、あの世界では俺はマシーンだしな。
 スタミナ回復で食事をする必要が無いから食べる必要が無いのだ。

 ……そう言えばあの空間だけは立場が逆転してるんだよな。俺だけ機械で他の三人は生身の体がある。

「うん? そうだ! なら俺があの世界で君達をもてなそうじゃないか。俺だけ食べる一人バーベキューよりも余程有意義だ。
 ゲーム世界とはいえリアルな感覚があるのなら。……よーし、やる気がみなぎってきたぞ!」

「おや、マスター。どういった趣旨でしょうか。あの世界ではマスターは食事が出来ませんよ?」

「そう、どうせなら俺も食べてみたいけど、それはそれだ。
 現実世界で君達は食べれない。バーチャルの世界で俺は食べれない。
 それは公平な立場で、なんていうかな。上手く言えないけど。そう、友情を気付くために必要なんだ!
 ミシェルンすまん。
 せっかく準備してくれたのに今日は全部食べれそうにない。
 でも焼いた肉は……そうだな! 明日の朝食はそれでサンドウィッチにしてくれ、明日から俺は本気出す。
 君達もゲーム漬けの毎日だぞ! 狩りが終わったら俺が君達をご馳走しようじゃないか。ゲーム世界でもそれなりのレストランはある。
 ゲームマネーを支払うことで、かなりリアルな食事体験ができるそうだ。最初は腹に入らない飯になんで金を払うんだと思ってたけど、このためにあったんだってね」

「マスター、それはあれですね? ダイエットメニューを開発している食品メーカーのコラボで出来たバーチャルレストランですね。
 現実の食事制限に耐えられない人向けのコンテンツですが。なるほど、それなら人工生命体も食事ができます。
 食事の経験は霊子フラクタルメモリーに蓄積されますので。
 私達にとってもいい思い出になります。さすがはマスターです!」

「だろ? 我ながら良い案だと思うんだ。
 ロボットの君達だって満足な食事ができるし。俺は君達に食事をご馳走してニヤニヤできる、足長おじさんポジとして嬉しいしウィンウィンだろ? こんなこと考えたのは俺だけじゃね?」

「おお、船長さん、先程までと違ってやる気に満ち溢れています。さすがは我らの船長さんです」

「わーい。船長さん復活ですー。でもゲーム漬けとなると、明日からはちょっと簡易的なお弁当になりますけど、それでもいいですー?」

「うむ、栄養が取れればそれでいい。むしろ。ネトゲ症候群に効果のある栄養価のある食べ物だと嬉しい。
 アイちゃん。俺はあのゲームで君達ともっと友好関係を気付きたいんだ。
 そう、そのモチベーションで挑めば犯人にもたどり着ける。嫌々参加するネゴシエータでは出来ない、俺の仕事だ!」

「うふふ、さすがマスターですね。分かりました。でしたら私も全力でサポートさせていただきます」

「船長さん。燃えてるな。よし、ならばこのサンバも全力でやってやるですよ」

「おー! やってやるですー」

 一人用バーベキューコンロを囲いながら。俺達は新たな友情を築いたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

亂世 ~幾千万の声、幾億の無言~

るてん
SF
2041年、台湾を巡る国際情勢は緊迫の度を増していた。 中国軍の異常な動きを察知した台湾参謀本部は、戦争の兆しを確信する。 世界が再び戦火に包まれるのか?沢山の人々の運命が交錯していく。 ※実験的な側面のある小説です。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

『邪馬壱国の壱与~1,769年の眠りから覚めた美女とおっさん。時代考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁
SF
1,769年の時を超えて目覚めた古代の女王壱与と、現代の考古学者が織り成す異色のタイムトラベルファンタジー!過去の邪馬壱国を再興し、平和を取り戻すために、二人は歴史の謎を解き明かし、未来を変えるための冒険に挑む。時代考証や設定を完全無視して描かれる、奇想天外で心温まる(?)物語!となる予定です……!

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...