元英雄でSSSSS級おっさんキャスターは引きこもりニート生活をしたい~生きる道を選んだため学園の魔術講師として駆り出されました~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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第5章 おっさん、優勝を目指す

第106話 決戦前

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 ―――最終戦、総合競技前の1年A組待機所にて


 流れは確実に我が1年A組の方へと傾いた。
 体術競技に歴史的勝利を果たした後、競技は速やかに次の錬金術競技へと進んだ。
 だが錬金術競技ではさすがに相手も危惧感を示したか、徐々に力を解放されて一方的な敗北を味わうこととなった。次の剣術競技でも接戦の末に敗北、だが最終戦の前に行われた魔術競技で負けた分を見事取り返し、取られては取っての未だかつてない大接戦が繰り広げられていた。
 
 そして勝負の行方は全て総合競技へと充てられることとなったわけだ。

「次で最後……泣いても笑っても最終試合ってわけだ」
「ですね。でも私たちが勝つには……」
「勝利以外は不可能。そして引き分け以下なら敗北……ですよね?」

 そう。この一戦、我々1年A組が優勝をするには総合競技での勝利は必須条件だった。
 現時点で5競技が行われ、1年A組が勝ちを収めた競技は2種目、対する3年A組は3種目だ。
 つまりは3年A組側の方は最悪引き分けでも優勝は確定、負けなければいいってわけだ。
 
 そんな優勝か準優勝かの瀬戸際を彷徨い、1年A組の待機室では少々重苦しい空気が漂っていた。
 
「―――はぁ……勝たなきゃ負けか」
「―――勝てるのかな……私たち」

 所々から聞こえてくるのは不安の声。ここまで来たからには優勝したいと誰もが思っているだろう。
 それに、あの例年負けなしだった3年A組から初めて勝利をもぎとったのだ。最後の最後で一歩足らずなんてことになれば悔やんでも悔やみきれないほどになるのは確実だ。
 その上、最終決戦である総合競技では選出制ではなく、ランダム制が採用されるため誰が出場するのかはその時になってみないと分からない。

 誰が最終戦の任されるのか分からないという状況が皆を悩ませ、苦しませていたのだ。

(……このままでは支障が出るな。なんとか……)

 そんな時だった。

「み、みんなちょっと聞いて!」

 生徒たちはその声がする方向へ瞬時に振り向く。
 声をかけたのは学級委員長のフィオナであった。

「その……みんなはこの試合勝ちたいよね?」

 その質問に反応した男子生徒たちは口々に「当たり前だ」と言い出す。女子生徒たちも「勝ちたい」と口を揃える。
 
「な、ならさ、前を向こうよ! 下ばかり向いてちゃ、私はダメな気がするんだ」

 その後ろに長く束ねた金髪を揺らしながらフィオナは訴えかけるように話す。
 確かにフィオナの言う通りだ。下を向いていては気持ちを下がり、相対的に負の連鎖を呼び起こす原因となる。逆に顔をあげ、堂々としていればその逆の現象が起こるのだと前にエルナー統括が職員朝礼で力説していた。

 人間の心理的特徴であり、人はどこまでも進化できるという可能性があると言われる理由の一つでもあるのだ。
 魔術はまさにそれを体現しているかのようなものだった。精神的コントロールが上手な人間は必然的に魔力の扱いもうまい。心が高鳴ればより強大な力を得ることができるし、逆の減少が起きればどこまでも腐っていくことができる、それが人間ヒューマンという種族なのだ。

 フィオナはそんな不安で落ち込んだ皆の心を奮い立たせるために必死になっていた。

「わ、わたしもフィオナの言う通りだと思う」
「ああ、俺も否定はしない」

 それに便乗するかのようにリーフとガルシアも立ち上がる。
 そしてその人数は徐々に三人から四人、四人から五人へと増えていった。
 
 全てはフィオナとリーフ、そしてガルシアの三人が基点となりクラスメートたちの精神的不安を少しずつ取り除いていく。

(これが、人と人との絆……人間の可能性というやつか)

 昔の俺では決して見られなかったものだ。俺がこいつらと同じ年頃の時は力こそが全て、強ければ正義といった傲慢な考えを持っていた。
 絆なんて意味がない、他人と協力することに絶対的な価値が見いだせなかったのが今までの俺だった。
 だが魔術講師となり、他人と関わることの多い人生を始めてからはいつの間にか考え方も変わっていった。
 初めての体験ばかりで戸惑いはあったが、今ではそんなことも理解することができる。

「うむ、中々いい組織になってきたではないか」
「そうですねぇ~最初はどうなるかと思いましたけど……特に先生のやる気がなくて」
「うっ……!」

 ぽろっと言葉に出したことに反応したのはレーナだった。
 さらにそれに反応しハルカも、

「ホントですよ! 私が着任した時も『なんだこのせんせーは!』って思いましたよ」
「むっ……!」

 二人の言っていることに言い返すことができない。確かに着任当初の俺はあまりにも嫌で今すぐにでも逃げ出したいくらいだった。
 まぁ、今でも正直仕事はしたくはないし、早くニート生活に戻りたいというのは変わらない。
 だが前と比べ明らかに変わったのは人との出会いと関わりによる認識の変化だった。
 これは自身の中では一番影響があり、かつ人という生き物の『本来』の有様を知ることができた。

 今までが今までなだけに人を超越した能力を持った者としか関わりがなかったため、この変化は俺にとっては非常に大きなものだったのだ。
 
(……まさか俺が、こんな感情を抱くことになる日がくるとは……)

「……どうしたんですか? レイナード」

 俺の顔を覗き込み、じーっと見つめるレーナ。
 服が胸元を露出させているタイプなだけに屈みながら覗き込まれるとアングル的にはジャストポジションだった。
 その白い素肌からなる二つのお山さんは触ったらぽよんと跳ね返ってきそうな柔らかそうなものであった。

(ふむ、これも中々……って俺は何を考えている!)

 すぐさま我に返り、目線をすぐさま別の方向へ変える。
 そして目に入ったのは……

「……うーむ、ハルカは控えめなんだな」
「えっ……?」

 俺の目線はハルカの胸元へとピンポイントにシフトした。
 そしてそのレーナとの大きさのギャップからつい言葉に出してしまったのだ。
 
「れ、レイナード……」

 ハルカよりも先にレーナがそれに気づき、呆れたような声を出す。
 そしてハルカも俺の目線を見てすぐに気づき、

「ちょ、ちょっと先生どこみてるんですかーーーーーーー!」
「ぬおっっ!? い、いや違うんだハルカ!」

 たまたま、たまたま目に入っちゃってたまたまポロリと言葉が出てしまっただけなのだ。
 俺に悪気は全くなかった。
 だがそんなことは当然信じてもらえず、

「何が違うんですか! 決戦前にセクハラですか?」
「いや、ホントに。いやマジで誤解だって!」
「あのクールでそんなことは見向きもしないと思っていた先生が実はおっぱい好きだったなんて……」
「ちょっと待て、声がでかい! というかオレはおっぱい好きでもなんでもないし!」

 俺とハルカとの激しい言い合いを見ていた生徒たちはきょとんとした目を向けてくる。
 レーナもため息交じりに腰に手を当て、呆れ状態だった。

(いやマジでそんな目で見ないでくれ……誤解なんだぁぁぁぁぁ!)

 決戦前、最初は緊張感が漂っていた待機所は俺のひょんなミスによって混沌と化した。
 皆にはいい効果を発揮はしたが、俺の心にはある意味深い傷が残ることとなってしまったのだった。
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