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第5章 おっさん、優勝を目指す
第107話 暗躍
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―――ボルグタンク地下迷宮、王の間
「……イルバーン様、食事の準備が整いました。こちらへ」
「うむ」
黒く屈強な身体とケンタウロスを連想させる角を持った魔族が一体、豪勢な玉座からその身を起き上がらせる。
迷宮の使用人に導かれ、イルバーンはダイニングルームへと案内される。
そして部屋に入ると複数の魔族が長テーブルに鎮座しており、イルバーンの到着を待っていた。
「イルバーン様、お忙しい中お時間を割いていただき、感謝いたします」
「気にするな、お前たちに依頼したのはこの私だ。例を言うべきはこちらの方だ」
イルバーンは長テーブルの最奥にある上座にゆっくりと座する。
そして周りを一通り見渡して使用人に確認を取る。
「これで全員か?」
「はい。欠席者は0名、各地方の筆頭領主10名様全員出席にあります」
「ご苦労。では下がってよいぞ」
「はっ」
使用人は静かにその場を後にする。
そしてイルバーンは目を瞑り、息を吐くと、
「十選大公爵の諸君、よくぞ集まってくれた。感謝するぞ」
「いえいえ、そんなこと……」
「イルバーン様がお呼びとなればたとえ火の中水の中……」
「我々はすぐに駆けつける所存です!」
貴族集団は口々にそう述べる。
彼らは魔界でも特別地位と権力を誇る十人の貴族たち。表向きの仕事は地方領主というどこにでもいる一般貴族であるが、裏の仕事は魔王イルバーンを補佐する官僚たち。
イルバーン本人が従えたいと思った十人を魔界に住む有力者の中から選定し、選ばれたのがここにいる十人だった。
「皆の者、今日は一応定例会議という名目であるがただ議論をし合うのでは楽しみに欠けると思ってな。食事を用意させた。遠慮なく食してくれ」
そういうとイルバーンは手元にある小さなベルを摘み、耳元でそっと鳴らす。
すると次の瞬間、柱に息を潜めていた使用人たちが一斉に現れ、即座に食事の準備が整われる。
次々とテーブルに豪勢な食事が置かれていく。バリエーションは多岐に渡り、肉料理や魚料理はもちろんのこと各地方の領主である彼らに合わせた地方名物の特産品を用いた創作料理などもあった。
「おお……これまたすごいですな」
「イルバーン様、本当に食事を共にしてもよろしいのでしょうか?」
一人の貴族がイルバーンがこう言うと、
「構わない。むしろ私がそうしたいと提案したのだ。退屈なまま話し合いをしても良い案は出ぬ」
「……なるほど。さすがはイルバーン様、よくお考えで」
しばらくしてすべての料理がテーブルに運ばれてきた。
もう料理はないかと確認を取り、イルバーンは静かに席を立ちあがる。
「それではこれより、人間界侵攻のための定例会議を行う。たくさんの案を提示してくれるのは結構だが食事の方も是非楽しんでほしい。では乾杯いこう」
乾杯の音頭を取るのは魔王イルバーンの側近であり右腕の暗黒魔術師、アヴァン。この日のために鍛錬された前置きを話し、乾杯をする。
(始まったな)
今回で3回目となる定例会議はこれまで以上の盛り上がりでスタートしたのだった、
■ ■ ■
定例会議が始まって早30分が経った。
俺は早々にメインディッシュの肉料理を食し、そっと言う。
「さて皆の者、そろそろ本題に移るとしようか」
そう聞いた途端、筆頭貴族たちは食事の手を止めイルバーンの方へと向く。
「今日の定例会議は他でもない。例の件についてだ」
例の件とは人間界の侵略活動における障害の調査。いわゆる自分たちにとって脅威となるえる存在の確認だった。
十数年前、魔王イルバーンは一人の男魔術師によってあっけなくその生涯に幕を閉じた。人間界統治を掲げ、幸先良いスタートを切ったというものの途中で思わぬ相手と遭遇することとなったのだ。
「―――アーク・シュテルクスト……」
自身を一瞬で倒した男の名だ。決して忘れることはない。
今でも思い出すだけで身体が疼く。そして奴に斬られた身体の傷が痛み始めるのだ。
あいつさえいなければ……
言い訳に聞こえるかもしれないがイルバーンにとっては唯一無二の脅威だった。
「―――次こそは」
あの雪辱を果たすため、そして人間界を手中に収めるためにも今は綿密な準備が必要だった。
身体は復活しても力までは完全復活を遂げていないイルバーンにとって今は情報集めと充電期間。攻め込まれたら非常に厄介なため侵略計画をすぐには実行せず、息を潜めていたというわけだ。
「それでホブスよ、良い報告があると聞いたのだが?」
名指しで一人の貴族にそう問う。
ホブスという小太りな男はコクリと頷き、
「先日、例の契約を交わした聖剣使いたちに小都市レイブンに駐在する神魔団施設を襲撃させました」
「ほう。それで何か手掛かりは?」
「はい。一つ、神魔団の簡易データベースから気になる情報がありまして……」
「それは?」
「その……アーク・シュテルクストという魔術師ですが……」
その言葉にイルバーンはピクっと反応する。
ホブスは手元の資料を持ち、数秒をほど間を開ける。
そして静かに口を開いた。
「し、死亡……となっていました」
「……!? どういうことだ?」
「原因は病死とのこと。イルバーン様を封印した後、すぐの出来事です」
イルバーンはその話を聞くとしばらく沈黙を保ち、ニヤリと不吉な笑みを浮かべる。
「病死……そうか。ふふふふふ」
この大広間という広大な空間の中で、彼は静かなる笑い声をあげた。
「……イルバーン様、食事の準備が整いました。こちらへ」
「うむ」
黒く屈強な身体とケンタウロスを連想させる角を持った魔族が一体、豪勢な玉座からその身を起き上がらせる。
迷宮の使用人に導かれ、イルバーンはダイニングルームへと案内される。
そして部屋に入ると複数の魔族が長テーブルに鎮座しており、イルバーンの到着を待っていた。
「イルバーン様、お忙しい中お時間を割いていただき、感謝いたします」
「気にするな、お前たちに依頼したのはこの私だ。例を言うべきはこちらの方だ」
イルバーンは長テーブルの最奥にある上座にゆっくりと座する。
そして周りを一通り見渡して使用人に確認を取る。
「これで全員か?」
「はい。欠席者は0名、各地方の筆頭領主10名様全員出席にあります」
「ご苦労。では下がってよいぞ」
「はっ」
使用人は静かにその場を後にする。
そしてイルバーンは目を瞑り、息を吐くと、
「十選大公爵の諸君、よくぞ集まってくれた。感謝するぞ」
「いえいえ、そんなこと……」
「イルバーン様がお呼びとなればたとえ火の中水の中……」
「我々はすぐに駆けつける所存です!」
貴族集団は口々にそう述べる。
彼らは魔界でも特別地位と権力を誇る十人の貴族たち。表向きの仕事は地方領主というどこにでもいる一般貴族であるが、裏の仕事は魔王イルバーンを補佐する官僚たち。
イルバーン本人が従えたいと思った十人を魔界に住む有力者の中から選定し、選ばれたのがここにいる十人だった。
「皆の者、今日は一応定例会議という名目であるがただ議論をし合うのでは楽しみに欠けると思ってな。食事を用意させた。遠慮なく食してくれ」
そういうとイルバーンは手元にある小さなベルを摘み、耳元でそっと鳴らす。
すると次の瞬間、柱に息を潜めていた使用人たちが一斉に現れ、即座に食事の準備が整われる。
次々とテーブルに豪勢な食事が置かれていく。バリエーションは多岐に渡り、肉料理や魚料理はもちろんのこと各地方の領主である彼らに合わせた地方名物の特産品を用いた創作料理などもあった。
「おお……これまたすごいですな」
「イルバーン様、本当に食事を共にしてもよろしいのでしょうか?」
一人の貴族がイルバーンがこう言うと、
「構わない。むしろ私がそうしたいと提案したのだ。退屈なまま話し合いをしても良い案は出ぬ」
「……なるほど。さすがはイルバーン様、よくお考えで」
しばらくしてすべての料理がテーブルに運ばれてきた。
もう料理はないかと確認を取り、イルバーンは静かに席を立ちあがる。
「それではこれより、人間界侵攻のための定例会議を行う。たくさんの案を提示してくれるのは結構だが食事の方も是非楽しんでほしい。では乾杯いこう」
乾杯の音頭を取るのは魔王イルバーンの側近であり右腕の暗黒魔術師、アヴァン。この日のために鍛錬された前置きを話し、乾杯をする。
(始まったな)
今回で3回目となる定例会議はこれまで以上の盛り上がりでスタートしたのだった、
■ ■ ■
定例会議が始まって早30分が経った。
俺は早々にメインディッシュの肉料理を食し、そっと言う。
「さて皆の者、そろそろ本題に移るとしようか」
そう聞いた途端、筆頭貴族たちは食事の手を止めイルバーンの方へと向く。
「今日の定例会議は他でもない。例の件についてだ」
例の件とは人間界の侵略活動における障害の調査。いわゆる自分たちにとって脅威となるえる存在の確認だった。
十数年前、魔王イルバーンは一人の男魔術師によってあっけなくその生涯に幕を閉じた。人間界統治を掲げ、幸先良いスタートを切ったというものの途中で思わぬ相手と遭遇することとなったのだ。
「―――アーク・シュテルクスト……」
自身を一瞬で倒した男の名だ。決して忘れることはない。
今でも思い出すだけで身体が疼く。そして奴に斬られた身体の傷が痛み始めるのだ。
あいつさえいなければ……
言い訳に聞こえるかもしれないがイルバーンにとっては唯一無二の脅威だった。
「―――次こそは」
あの雪辱を果たすため、そして人間界を手中に収めるためにも今は綿密な準備が必要だった。
身体は復活しても力までは完全復活を遂げていないイルバーンにとって今は情報集めと充電期間。攻め込まれたら非常に厄介なため侵略計画をすぐには実行せず、息を潜めていたというわけだ。
「それでホブスよ、良い報告があると聞いたのだが?」
名指しで一人の貴族にそう問う。
ホブスという小太りな男はコクリと頷き、
「先日、例の契約を交わした聖剣使いたちに小都市レイブンに駐在する神魔団施設を襲撃させました」
「ほう。それで何か手掛かりは?」
「はい。一つ、神魔団の簡易データベースから気になる情報がありまして……」
「それは?」
「その……アーク・シュテルクストという魔術師ですが……」
その言葉にイルバーンはピクっと反応する。
ホブスは手元の資料を持ち、数秒をほど間を開ける。
そして静かに口を開いた。
「し、死亡……となっていました」
「……!? どういうことだ?」
「原因は病死とのこと。イルバーン様を封印した後、すぐの出来事です」
イルバーンはその話を聞くとしばらく沈黙を保ち、ニヤリと不吉な笑みを浮かべる。
「病死……そうか。ふふふふふ」
この大広間という広大な空間の中で、彼は静かなる笑い声をあげた。
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