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第一章 ダンジョンコアを手に入れました!?

第49話 堕ちた死神は絶望の使者となる

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 レイリーたちが一瞬で消えたことで、矢を放っていた兵隊たちがざわつく。

 「消えた? 何かの魔道具か? 全員がD級だと聞いていたが……。いやそれよりもバルガスが裏切っていることの方が問題か。お前たち、バルガスには一人で当たるなよ。生死は問わん。いけ!」
 
 どうやら俺たちの情報は完全に掴まれているような口ぶりだ。
 冒険者ギルドも敵に回ったのか?
 それならスタンピードを起こし、冒険者は魔物にやられたというように細工をする必要性まで出るかもしれない。
 話に聞く限り、冒険者ギルドは国と同じく厄介そうだからな。

 「それにしてもさすがB級。有名じゃないか?」
 「ははは、勘弁してください。あっしは今、ボスの横に立っているだけで冷や汗が出っぱなしです。動けば足がもつれそうですよ。こちらに向かって来ている兵隊たちにそれがわからないのが不思議でしょうがありませんぜ」

 おかしいな。
 レイリーにルーナたちを任せダンジョンに送ったことで、俺は冷静さを取り戻しているはずなんだがな。

 「お前の足が飾りなら、少しの間そこで見ていろ。ただし、参戦をする場合には、敵を一撃で倒すことは許さん。お前は素手だから難易度は上がってしまうが――」
 「領主に逆らう者は死ね!」

 俺たちが会話をしている所に兵が割り込み、剣を振り下ろす。
 俺はその兵の攻撃を躱すと、バルガスに聞こえるように話しながら攻撃する。

 「まずは、右肩。そして胸。順番はどちらからでも良いが、確実にその二点は攻撃してから殺すんだ。ルーナとヒナの矢が刺さった場所がそこだからな」

 俺はバルガスに説明をしながら、剣を振りあげている兵の右肩を剣で突く。
 そしてその男が肩を突かれたことで剣をとり落とす前に、肩から胸を攻撃し、そして最後に首を刎ね飛ばした。

 「こうやって、こう」

 俺はさらに迫りくる兵たちに対しても同じ攻撃を繰り返し、首を刎ね飛ばして行く。

 「どうだ? もしできそうにないなら、お前はそこで見ておけ」
 「ボスもお人が悪い。ここであっしが動かなかったら、信頼度が大幅に下がるんでしょう?」

 バルガスはそう言うと、回り込んで俺を攻撃して来ようとしていた兵の肩と胸を殴り悶絶させると、前屈みになったその男の首をゴキリとへし折る。
 俺はそれを見て手を挙げると、次々と敵を屠り指揮官の男のいる場所へと向かって行く。

 バルガスは俺が手を挙げたことで、『じゃあ皆殺しにしようか』という俺の合図を理解して、俺と同じく迫りくる兵たちを倒して行った。

 「ば、化け物……」

 最後の方は逃げ出す兵たちもいたが、それらをすべて処分した俺たちは指揮官の男の前へと到着する。
 そして俺は今までと同じく、指揮官の肩と胸を剣で突いた後で、解析を使い、指揮官の記憶を読みとった。

 「ボス? ボスの殺気でそいつ、泡を吹いて死んでますぜ。なにか見えたんですかい?」
 「何? コイツにはバジュラの傷を再現するつもりだったのだがな……。まあ死んだならそれで良いか。それと解析をしてわかったが、俺たちの冒険者ランクがバレていたのは俺たちを疎ましく思っている同じ冒険者からの情報のようだ。受付嬢……ルシオラはこの指揮官の聞き込みを断っていた。領兵の詰問を追い返せるなんて、やはりギルドの影響力は凄いんだな」
 「ああ、ルシオラ嬢。冒険者ギルドも色々ですから、情報を与えなかったのならルシオラ嬢とここのギルドマスターがしっかりしていたんだと思います。それにルシオラ嬢はBランクほどの強さがあると言われていますし、エルフですから人族の脅しには屈しないかと。まあ、それでもルシオラ嬢に近づけただけでも及第点では」

 なるほど。
 ここのギルマスとルシオラには感謝だな。
 と言うか、ルシオラは読み取る限りでは、俺たち……特にヒナが問題行動を起こすはずがないと上に報告をすることさえせずに情報提供を断っていた。
 しかしルシオラが威圧を周囲に振りまいていたことはやはりバルガスも知っていたか。

 ただ、今回は指揮官の能力というより、単にルシオラの威圧がほぼなくなっていることからルシオラが対応したように思える。
 そう考えると、俺が威圧の押さえ方を教えたことで、俺は守られたと言えるかもしれない。
 他の受付嬢なら兵に屈して俺たちの情報を話していた可能性があるからな。
 その場合は……、俺はギルドを許すことはなかっただろう。

 「ちなみに、今のは良い方の報告だ。俺たちが仮面を被っていても素性がバレたのは、仮面を購入した所の店主がバラしたせいだ。特に特徴的な俺の黒髪と黒目で俺だと断定をしたらしい。そこから俺とパーティを組んでいるルーナたちが狙われたわけだ」

 俺は死んだ指揮官をグチャリと地面に叩きつけるとアイテムボックスへと収納する。
 しかし、たった一日で犯人を調べて辿り着くとは。
 自らの利権を守るための行動だけはここの領主は優秀なのかもしれない。

 「さらに最悪なことがもう一つ。ナンナが攫われた。ナンナとルーナは捕まえて、それ以外は殺す予定だったようだな」
 「それじゃあ急いで救出に向かわないと……じゃないですか!」

 ああ、マワされるって表現をバルガスは濁したのか。
 もちろん急ぐ、急ぐんだが、さっきの指揮官は、ナンナ家へ数人を残して家や俺が作った畑の自動給水装置をご丁寧に壊してから、領主の館に連れて戻るように指示をしていた。
 壊す所を見せて、ナンナを絶望させることが目的らしい。

 ナンナ家は結構頑丈にできていたから、ドアを壊すだけならまだしも壁を壊そうとするなら1時間くらいはかかるだろう。
 そしてここに兵隊たちが移動する時間で約1時間。
 今から向かえば……ギリギリ、事が起きる前に向かえると思う。
 ただ問題は正面から乗り込んだ時に、ナンナを人質に取られてしまうってことなんだよな。
 
 いや、ルーナたちが襲われた時に、もし俺が少しでも近くにいたなら間に合っていた。
 そう考えるなら、1秒でも早くまずはナンナの無事を確かめる方が先決か。

 「よし、急ぐぞ!」
 「了解です」



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