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しおりを挟む脱力した乃亜は、テーブルにうつ伏せる。うつ伏せるというより、もはやテーブルに貼りつくのに近かったが。
そんな乃亜へ、ヴィクトールは落ち着いた低音の声で言う。
「そう焦ることもあるまい」
「……と、言いますと?」
「この国には、ときおりお前のように異世界から来る住人が現れると聞く」
乃亜は勢いよく顔をあげた。
「……それって……」
「二十年か三十年に一度ほどらしいがな。そんな記録が記されている書物を読んだことがある」
それを聞いて、乃亜は眉をひそめる。
「……定期的に魔法で事故を起こすひとがいるってことですか?」
「……そういうことになるな」
「そんなんでいいんですか?」
「儂に言われても困る」
ヴィクトールは肩をすくめた。
つまり、だ――と彼は続ける。
「探せば、お前がもとの世界に戻る方法が見つかるやもしれん。魔術の事故の原因をさぐることで、なにかわかることもあろうよ」
その言葉は、乃亜に明確な希望を与えた。
現状の原因をさがし、そこから解決策を見出す。
現実逃避をしたり途方に暮れるより、よほど地に足がついているではないか。
帰れるかもしれない。その希望は、今の乃亜にとって大きな支えとなる。
すると、ヴィクトールが付け加えた。
「……もっとも、保証は出来んが」
「なんで上げて落とすんですか」
「事実をくちにしているまでよ」
彼は薄く笑い、改めて乃亜を見つめる。
「それまでは、異世界の者と共に過ごすのも悪くはないな。儂は野次馬ではないが、珍しいものに興味がないほど淡泊でもない」
「……ひとを珍獣みたいに」
「嫌なら出ていってもかまわんが、野獣ばかりでなく、もっとたちの悪いもんに捕まる可能性もあるぞ」
ヴィクトールの台詞を不思議に感じた乃亜は、彼に訊き返した。
「……たちの悪いもの?」
ああ、とヴィクトールは継ぐ。
「珍しいものを捕まえて見世物にするような――罪悪感の欠片もなさそうな連中に、な」
返ってきた答えに、乃亜は固まった。
「……見世物って……」
「異世界の住人は、それだけで捕まえる価値があろう。捕まったら最後、どうなることかな」
乃亜は、檻に入れられて見物客に晒される己を想像して、気分が悪くなる。
日本にいた頃では、考えられないことだ。
魔法が存在するこの世界では、そんなふうに日本では考えられなかった出来事がいくつも存在するのだろう。
それはつまるところ、たちの悪い者に捕まれば、どんな暴力が振るわれるかわからないということでもある。
未知の世界に来るということの恐怖を、乃亜は改めて知った気がした。
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