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しおりを挟むヴィクトールは重ねる。
「そういった連中ばかりではない。この辺りにはなにかと面倒な者達もうろついている。五体満足でいたければ、ひとりでこの家からは出ないことだ」
乃亜は、背筋がじわじわと冷えていく心地を覚える。
そして、そこまでの話を聞き、ふと感付いたことがあった。
乃亜はヴィクトールに問う。
「じゃあ……ヴィクトールさんは、私を助けてくれたんですか……?」
見知らぬ小娘を、あのまま放置するという選択肢もあったはずだ。なのに、彼はそれをしなかった。
わけのわからない言葉を繰り返す妙な女を、わざわざ自宅に招いたのである。
訊かれたヴィクトールは無言で淹れたばかりの茶にくちを付け、そうしてもうひとつの茶が入ったカップを乃亜に突き出した。
乃亜がカップを受け取ると、彼は背中を向ける。
「……たまたま見掛けたから、拾っただけだ」
言葉は素っ気なかったが、声には素直でない響きがあった。台詞ほど語調が冷たくはない事実に、果たして彼は気が付いているだろうか。
乃亜は声に出さずに笑って、カップにくちを付けた。
どうやら、彼は悪いひとではないらしい。
◇
「すまんが、ベッドはひとつしかない。贅沢を言われても対応は出来んぞ」
二階にあるヴィクトールの寝室に通され、乃亜はそう言われた。
部屋には、照明を置いたサイドテーブルにベッド、そして本棚しかない。必要なもののみを置いた、という印象である。
夕食を終え、風呂まで借りた乃亜は、さらに彼のシャツまで借りて、それをパジャマにしていた。ヴィクトールが高身長なおかげで、彼の服はワンピースのようになっている。
「じゃあな」
言って、部屋を出ていこうとするヴィクトールへ、乃亜はあわてて声をかけた。
「じゃあなって……えっ、どこに行くんですか」
「儂は一階のソファーで寝る。なにか問題があれば起こせ」
「ま、待ってください待ってください」
乃亜は彼の腕にしがみついて、相手を引き止める。
ヴィクトールが僅かに眉根を寄せた。
「……なんだ」
「ここ、ヴィクトールさんのおうちじゃないですか。私がソファーで寝ます」
彼の眉間のしわが、明らかに深くなる。
ヴィクトールは不機嫌そうな声を出した。
「……女をソファーで寝かせ、自分はベッドで眠れと?」
「駄目なんですか……?」
「……気が進まん」
ぷい、と彼はそっぽを向く。その仕草は少しばかり子供じみて、可愛らしく見えた。
解決策を求めて思考を巡らせた乃亜は、人差し指を立てて提案する。
「あ、じゃあ一緒にベッドで寝ましょう」
次の瞬間、ヴィクトールの鋭利な視線が乃亜を容赦なく貫いた。
まさかそこまでの反応をされるとは思わず、乃亜は声量を落とす。
「……駄目、ですか……?」
呆れたふうに深いため息を吐いた彼が、片手で自身の目許を覆った。
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