私は2度世界を渡る

リサ

文字の大きさ
4 / 45
過去編 (完結)

3.無茶苦茶だ――――!?

しおりを挟む
 次の日から国王が言った通り授業が始まったが、正直地獄だった。昨日の傷のせいで発熱したが、そんな奏にはお構いなしにそれぞれの授業に引っ張って行かれた。
 幸い世界をまたいだことにより、奏はチートと呼べる特技が身についたようだ。それが発覚したのは、それぞれの授業でだ。

 まず、この世界の言葉すべてを理解でき、読み書き会話に苦労することがなかった。それから1度見聞きしたものは絶対に忘れない絶対的な記憶力も得たようだ。
 これが発覚したのは、宰相の授業の時だ。熱で意識がもうろうとしている中でも、宰相が言ったことや自分が読んだ内容は一語一句すべて暗記できた。それに、だれがどう見ても多すぎるだろ! という宿題をこなすため、夜城の図書室で本を読んでいると、他国の本までスラスラと読めてしまったのだ。宰相は授業でわざと授業で行っていない他国の言葉を使ってくるが、それは全部日本語に聞こえた。
 奏はこれには文字通り泣いて喜んだ。
 何故なら、宰相の授業中、出された問題に間違えると、ひどい折檻が待っているのだ。


「それでは、『3年前この国で初めて魔物の被害が起きました。それがどこか答えなさい。』」
「『国境近くの村です。』」


 宰相が、隣国の言葉で奏に問題を出した。奏は、昨夜読んだ文献の中から、合致する情報を思い出し答えた。


「違う。」


 次の瞬間、宰相が持っていた鞭が空を切って容赦なく奏の腕に叩きつけられた。


「ッッッ!」
「被害が出たのは辺境伯領の中心近くの村数か所です。そこが国境だったのは100年以上も前の事ですよ。私は昨日、今日は100年以内の情勢の授業をすると言いました。伝えたことくらい完璧にきにこなしなすことは最低限の努力ですよ。お前に時間をかけてあげるほど私は暇ではないんですよ?」


 そう言いながら宰相は何度も奏に鞭を叩きつけた。痛みのあまり鞭から逃れようと奏が椅子から落ちて床の上で丸くなっても、その背中に執拗に鞭を打ち付けた。


(あぁ、失敗した。)

 背中に激しい痛みを感じながら、奏は内心呟いた。
 確かに昨日宰相は奏に今日の授業範囲を知らせていた。しかし、その内容は『100年以前の情勢について・・・・・・・・・・・・・の授業』だったのだ。それに付け加えて『今から100年間の内容は含まない・・・・・・・・・・・・・・・・』と告げられていた。わざわざご丁寧にこんなことを付け加えてくるのだから、もう少し警戒すればよかったと奏は昨夜の自分を呪った。
 最初は普通に次の授業範囲を知らされて問題を出されていた。勿論間違えれば今みたいに鞭が飛んでくる。
 しかし次の授業範囲は宰相から直接知らされるのではない。それは今もう1つ用意された机の前に座り、口元に笑みを浮かべながら奏を見下ろしている宰相の息子であるジークフリートからである。
 しかし、奏のチートとも呼べる記憶能力と言語理解能力のおかげで、ある程度は回避することはできるようになっていた。それが面白くないのか、ジークフリートは嘘の範囲を奏の教えるようになったのである。
 今回のように間違えたり答えられなかったりすると、鞭付きで予習不足をネチネチと攻めてくる。


「父上、本当にこの女が魔王との戦いの切り札になるのでしょうか?」
「すでに他国の言葉を完璧に理解しているところを見ると潜在能力はあるはずです。」
「しかしこのような有様では・・・・・・。」
「言いたいことは分かります。告げられたことの最低限の事すらできない有様では話になりません。しかし、最悪頭が残念でも我々がうまく使えばよいのです。」
「成程! 我々がしっかりしていればよいのですね!」


 痛みにうずくまる奏を気にかけるそぶりをかけらも見せず、それからしばらく親子の会話は続いた。

 この会話は本人を目の前にしてどうかと思ったが、奏にはもう慣れたものだった。それに、奏が告げられたことの最低限の事しかしないというのは本当の事だった。
 この授業が始まって1番最初から始めたのは、『最低限しか使えない人間を演じる』ことであった。特に知識面では、使えると判断されれば魔王討伐後に城に今以上に監禁されるかもしれない。
 そのため、奏は告げられたことの2倍ほどの知識を城の図書室で取り込み、それを最低限しか表に出さないようにしているのだ。


「いつまでサボっているのですか。早く席に着きなさい。授業を続けますよ。」


 ようやく親子の会話が終了したのか、宰相が床に蹲っていた奏を無理やり椅子に座らせた。
 その後も、奏に数えきれないほどの鞭が入れられたのは言うまでもない。


 余談だが、ここはマルティアノ王国というこの世界でもかなり大きい国らしい。驚くことに、暦や時間の感覚は日本と同じだった。





 運動面では、平均よりいい方だった運動神経や洞察力が跳ね上がった感じだ。
 最初は、何の基礎もせずにいきなり団長と何度も試合させられ、容赦なくぼこぼこに殴られていた。しかし今では、実力ではその団長をもしのぐほどになった。

 しかし、嫌がらせが始まった。なまじ毎日体を鍛えている騎士団からの嫌がらせは質が悪かった。
 彼らは要人や城を警護するのが主な仕事だが、時には魔獣や人間を相手にする。そのため、どこをどのくらい痛めつければ人が死ぬのかはいやというほど知っているのだ。裏を返せば、どこをどのくらい痛めつければ死なせない・・・・・のかも知っているということだ。
 奏が使っている模擬剣に細工して折れやすくしたり、骨折しているのに無理やり相手をさせたりしてきた。その筆頭は、もちろんキースだ。団長はいつも見て見ぬふりをしている。死ななければ何をしてもいいという雰囲気をビシバシ感じた。

 もちろん毎回傷を負いながら返り討ちにしている。頭脳面では使えないと判断された方が都合がいいが、武術では使えると判断された方が、魔王討伐の旅に出ても何かと動きやすいと判断したからだ。
 おかげで生傷が絶えることはない。


「お前は俺の息子なのに、なぜ剣を握ったことのない女1人に勝てない?」


たまたま、騎士団長室の前を通りかかった時、騎士団長の不満げな声が聞こえた。奏は聞いてはいけないと思いつつも、気になってしまい聞き耳を立てた。



―――☆―――

 騎士団長室は言いようのない緊張感が漂っていた。
 騎士団長は呆れた視線を隠しもせずに目の前にいる息子のジークを眺めていた。その視線を受けたジークは、居心地悪そうに視線を外すことしか出来なかった。

「しかし父上・・・・・・」
「言い訳は無用。いいか、お前には将来俺の後を継いでもらう。そんな人間が、今まで1度も剣を握ったことのない者に、ましてや女に歯が立たないなど言語道断だ。」


 ジークは悔しさを紛らわすように両手を握りしめた。
 
 ジークとて危機感を感じていないわけではない。最初は簡単に御せると信じて疑わなかった。しかし、奏の予想以上の成長ぶりに追いつけないでいるのだ。勿論、このままでいいなどとは思っていない。しかし今の時点で、自分が奏に実力で劣っているのは事実である。何も言い返せず黙って父親からの言葉を受け止めるしかないのだ。
 騎士団長はそんなジークに1つ溜息をついて続けた。


「いいか、魔王討伐が終わった後もしあの女が生きていれば2つの道がある。」


 騎士団長はジークに見えるように指を1本たてた。


「1つは内政に利用することだ。宰相が教育しているが、そこで使えると判断されれば生かさず殺さず使い続けることが出来る。」


 そして、もう1本指をたてた。


「2つ目は、城にたどり着く前に殺すことだ。不意を突いて殺せればいいが、気づかれた場合真正面から殺り合わねばならない。返り討ちに合ったり逃げられでもして他国にでも行かれれば、今回のこと召喚が他国に露見してしまう。そうなったら目も当てられん。」


 つまり、召喚は人道にも劣ることでそれを行ったと知れたら他国から蔑視の目で見られる。そうなってしまったら外交に支障が出てくるかもしれない。その上、用済みとなれば暗殺するなど言語道断。他国からこの国に付け入る隙を作るだけで何の理もない。周辺諸国が結託でもしたらいくら大国と言えど状況は厳しくなる。最悪、内乱が起こるかもしれないと言いたいのだ。

 言いたいことは分かるな? と視線だけで尋ねられたジークの出せる答えは1つしかなかった。


―――☆―――

 奏は呆れかえりながら扉から耳を離し、なるべく音を立てないように自室倉庫に戻った。
 自室倉庫に戻った奏は、大きく息を吐きこれからどうするかと考えた。

 宰相と言っていた“使う”とは方向性が違うが、騎士団長も魔王討伐が終わった後、奏をこき使う予定があるということが分かった。


(この2つは(魔王討伐が終わるまで)警戒は最低限でもいいかもしれない。)

 勿論痛いのは嫌いだし死ぬのはもっと嫌だ。しかし、一生飼い殺しもごめん被る。だから今後の自分の動き方をよく考えなければならない。
 知識面で使えると判断されれば内政で一生飼い殺しがほぼ確定してしまう。逆に、戦力面で使えないと判断されると、魔王討伐する前に殺されてまた次に誰かを召喚する可能性が高い。かといって戦闘力が高すぎると危険分子として魔王討伐後に消されるかもしれない。というかこの国の人間ならやりかねない。


(宰相の授業は現状維持で騎士団の方は力を付けた方がいいかな。危険分子に認定されても強ければ逃げられるかもしれないし。)

 あと残るは魔法師団だが、それもおいおい分かってくると思うので今は保留だ。
 今後の方針が決まったことで次に考えることは、ジーク含めた騎士団員から受けるであろう嫌がらせの対処法だ。


 この国には、騎士道精神のようなものがないようである。
 奏は深い深いため息を吐いたのだった。




――――――――――――――――――――


 読んでくださりありがとうございます!☆*: .。. o(≧▽≦)o .。.:*☆

 感想お待ちしています! いただいた感想には、基本的にすべて返事を書かせていただきます。また、『登場人物のこういったものが読みたい!』 『別の視点から見た話が読んでみたい!』 と言ったリクエストをいただけたら、番外編として書きたいと思っております。

 たくさんの感想&リクエストお待ちしています! 
 読んでいただいて、『面白い!!』と思ってくださった方は、ぜひお気に入り登録をお願いします。

 

※この度、「ファンタジー小説大賞」にエントリーさせていただきました。
 そちらの方もよろしくお願いいたします。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

処理中です...