私は2度世界を渡る

リサ

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過去編 (完結)

4.芸は身を助く

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 そうこうしているうちに魔法の授業が、魔法塔と呼ばれる場所で始まった。ここは魔法の主に魔法の研究をする研究室が研究されている数だけ置かれている場所である。
 魔法師団では、魔法と一緒に薬学の研究をしているらしい。特に奏が真っ先に修得したかったのは、薬学の実践方法だった。薬学は宰相との授業の副産物として図書館の本で大体の知識はつけられたが、本格的、つまり実践に及んだことはなかった。
 

(一刻も早く魔法と薬学の知識を身に着けたい! そして、体中にできたこの傷を一刻も早く治したい!)

 そんな決意とともに、必死に知識を習得していった。
 
 魔法に関してのチートは、簡単に言えば才能がずば抜けていた。の一言に限る。
 師団長は騎士団長よりも、(イヤイヤそうだったが)かなり丁寧に教えてくれた。いわく魔力を体内に感じるのは、最初はかなり集中力を必要とするらしい。

 唯一の救いは、ベルンハルトが奏の前に全く姿を現さないことだ。
 ベルンハルトは奏のことが視界に移すのも嫌なようで、魔法塔どころか場内を歩いていても姿を見ることがなかった。彼の魔法能力は、師団長の次にレベルが高いと言われているらしいので、奏としては願ったり叶ったりだった。

 けれど、ベルンハルトがいないと言って嫌がらせが起こらないわけではない。ベルンハルトは他の師団員たちに奏に魔法を放つように指示を出していた。そのため、奏がいざ集中しようとするとどこからか魔法が飛んでくる。かわさなければ大怪我を負うため、一切気が抜けず集中しずらい。
 練習を師団長の目の前でしなくてはいけないため他の師団員も必ずどこかしらで作業(研究)をしているのだ。そのため夜遅く自室に戻ってから本格的に練習するので、魔力を感じるのに少し時間がかかってしまった。が、魔力が感じられればこっちのものだった。





 魔法とは、鮮明なイメージと、そのイメージを具現化するために適切な量の魔力を放出しないと発動しない。そのタメ慣れないとどうしても発動までに時間がかかってしまう。
 けれど奏は底無しの魔力と、鮮明なイメージでタイムロス0でどんな大魔法も瞬時に発動できるようになった。珍しいとされている治癒魔法も自力で覚えた。
 そのおかげで生傷が跡形もなく消えたのだから嫌がらせに耐えた甲斐があるというものだ。


 そんなこんなで奏は数々の反則的すぎるチート能力のおかげで、地獄をなんとか乗り切っていた。けれどそれをよく思はないのがそれぞれの子供たちだ。
 彼らは最初自分よりも何もかもが格下のはずの奏をこれでもかというほど見下していた。しかし、奏が必死に力を身に付けるうちにあっという間に実力を追い抜かされ、焦って空回り(嫌がらせ)を行うもどうにもならず、その果てに親から毎日お説教を食らっているようだ。
 少し気の毒だとは思うが、同情などしない。いや、気の毒とすら思っていなかった。

 城ではキース、ジークフリート、ベルンハルトが奏を嫌っているということは公然の秘密であった。しかし、クリスティーナが奏を嫌っているということは些細な噂話にも話題に上がらなかった。
 

「カナデ、今日はこの後わたくしと共にマナーの授業をお受けなさい。」


 ある日、クリスティーナは騎士団の授業が終わってくたくたになっている奏の下にやってきて言った。


「すみません王女様。私はこの後宰相様との授業があるので王女様と一緒に授業を受けることはできません。」


 またか。と思いながら奏は一応断りの意志を入れる。
 クリスティーナは、ことあるごとにこうやって奏にマナーの練習を一緒にさせようと誘ってくる。この誘いには勿論奏の今後の予定などは考慮されておらず、クリスティーナの気まぐれで不定期に行われる。
 奏も毎回、断りの意志は示しているのだが聞き入れられたことは1度としてあったためしはなかった。


「カナデ、以前にも言いましたが、あなたはこの国の英雄という立場なのです。今後多くの夜会やお茶会などに招待されるでしょう。その時マナーがなっていないまま参加して恥をかくのはあなたなのですよ?」


 クリスティーナは困ったように微笑んだ。いかにも奏の今後を心配していますよ、というように。
 クリスティーナの後ろにいる侍女やメイドたちは、クリスティーナを目を輝かせて見つめていた。その反面、奏に送る視線には敵意がこもっていた。『こんなにもお優しい王女様のお気遣いを断るなんて何様だ!!』という声が今にも聞こえてきそうであった。
 この提案が本当に親切心からの物であったなら、百歩譲って相手の予定を考えず誘ったことに目をつむれば彼女たちの奏への心象は正しいかもしれない。しかし実際はそんなことは一切なく、完璧な嫌がらせである。




 奏がクリスティーナに対して持っている印象は、“自分の容姿や身分を理解し使い分けがものすごく上手”であった。
 クリスティーナは、基本的他人の目があるときは理想の王女様を演じている。しかし、ひとたび奏を含めた魔王討伐メンバーのみの場となると、本性を現すのだ。


 最初に誘われたときも怪我を理由に断った。しかし、無理やり引っ張り出された。
 その次は断った後すぐにその場を離れた。しかしその日の夜中に呼び出され、ひどい折檻を受けた。


 怪我を見せれば他者の同情を買えるかもしれないが、この国では女性が他者に必要以上に肌を見せることははしたないと認識されている。医者ですら例外的に女医相手にのみ多少寛容になるくらいである。そのため、奏の普段の服装も長袖長ズボンになってしまい怪我を見せることが出来ない。見せたとしても、はしたない女というレッテルが張られ自分の立場を今以上に悪くすることが分かっていながら、そう言った行為に踏み切ることが出来なかった。
 マナーレッスンの時は簡易的なドレスに着替えさせられるため、着替えを手伝う侍女たちは奏の体の傷にも気づいているはずなのだが、これも見事にスルーされマナーレッスンに送り出されるのがクリスティーナの提案からのいつもの流れであった。


「宰相にはわたくしが言っておきますから、ドレスに着替えていつもの部屋に似らっしゃい。」


 そう言ってにっこりと美しく笑い、クリスティーナは奏の返事も聞かずに侍女たちを連れてどこかへ行ってしまった。


(これは絶対に伝えないな。)

 奏は溜息をつき、いつも宰相がいる執務室へ向かった。
 クリスティーナの伝えておくは信用できないのだ。以前同じことを言われ、その場で部屋に連行されマナーレッスンを受けたが、そのことを宰相に伝えず、ちゃんと報告しなかった罰ということで気が遠くなるほど鞭で叩かれたことは記憶に新しい。
 宰相の下へ行くと部屋に行く時間が少し遅くなってしまうが、鞭で叩かれるよりはましだ。



 唯一の救いは奏のマナー教師のロッテンマイヤ女史が、何の事情も知らず奏を1生徒と認識している事だった。
 彼女はマルティアノ一のマナー教師であるが体罰が大好きな性格異常者と噂で、ほんの些細なことでも容赦なく鞭で打たれるらしい。
 親切なメイドたちがわざわざ教えてくれた。彼女たちは普段奏の存在事無視しているが、こういったことは積極的に教えてくれるのだ。
 彼女たちからしたら奏を怯えさせてやろうという魂胆なのだろうが、奏はその情報をもとに自分の危機を出来る限り回避しているため、奏にとって数少ない貴重な情報源にしかなっていないことを知らないでいた。勿論奏もそのことに気づいているが、貴重な情報源のため放置していた。


 しかし! 奏は日本人! マナーを大切にするお国柄の人間(自称)である。しかも親からはためになると言われ、家での食事はすべてテーブルマナー講座とかす徹底ぶりというちょっと変わった環境で育ったのだ! 

 最初こそ、勝手がわからず容赦なく鞭で叩かれたが、ロッテンマイヤ女史は噂とは違い、発する言葉に理論性があり決して理不尽な罰を与えなかった。その上、説明も分かりやすく質問すれば丁寧に教えてくれる上、褒めるところはきちんと褒める人物であった。
 彼女がこの国一のマナー教師であるのも頷けた。

 一方、同じ部屋で別の教師から授業を受けているクリスティーナはというと、最初の頃は奏がロッテンマイヤ女史に容赦なく鞭で打たれるのを自分のマナー教師と共に愉快そう眺めていた。しかし、回数を重ねるたびロテンマイヤ女史から認められていく奏に、悔しそうに顔を歪めていた。






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 読んでくださりありがとうございます!☆*: .。. o(≧▽≦)o .。.:*☆

 感想お待ちしています! いただいた感想には、基本的にすべて返事を書かせていただきます。また、『登場人物のこういったものが読みたい!』 『別の視点から見た話が読んでみたい!』 と言ったリクエストをいただけたら、番外編として書きたいと思っております。

 たくさんの感想&リクエストお待ちしています! 
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※この度、「ファンタジー小説大賞」にエントリーさせていただきました。
 そちらの方もよろしくお願いいたします。
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