酒涙雨で終わりにしようか?君の心臓を天に捧ぐから。

蘇 陶華

文字の大きさ
43 / 75

憎しみは、時代を超えて

しおりを挟む
魔猫は、目の前に立つ青年の姿を見上げていた。青い光をたたえた二つの瞳は、魔猫のしなやかな体を捉えていた。
「随分と、長い時間を超えていたんだね」
今までの、醜い容貌とは異なり、ナチャの声は軽く涼やかだ。
「一体、どのくらいの時間を超えてきたのか」
「時間を超えたのではない。時間が止まっていたのだ」
「君は?」
ナチャは、何かを思い出すかのように目を細めた。
「キリアスのせいで、主を失った者」
「彼女は、多くの者を苦しめてしまった」
「苦しめただけでは、なかろう」
「以前は、そうではなかった。全て・・・僕らのせいなんだ」
「ふ・・」
魔猫は、笑った。
「誰のせいかは、知らん。それは、私には、関係ない。我が主人の死が、キリアスである事は、変わらん」
「何を言っても、聞いてはもらえない様だね」
魔猫は、ナチャを襲う事を諦めてはなかった。
「だけど・・・」
ナチャは言った。
「どうして、僕が蜘蛛の姿だったか、わかるかい?」
ナチャは、右手をかざすと、掌の中が青白く輝き始めた。幾重もの蜘蛛の糸が重なり、渦巻き始めた。
「呪いに閉じ込められたのは、元々の僕らの血のせい」
掌から、舞い上がった蜘蛛の糸は、伸び縮みを繰り返し、空間に解き放たれる。
「僕ら、地這いの一族と出会ったせいなんだ。」
解き放たれた蜘蛛の糸は、魔猫が逃げる先へと周り、美しい被毛が、蜘蛛の糸に絡み取られてしまう。
「どうして、醜く臆病な僕が変わったか?って」
ナチャは、糸を操り、魔猫を締め上げていく。
「それは、僕が本当の姿になったからだよ」
「純真な下僕と思っていたがね」
ナチャは、笑う。
「そうだよ。そうなるように、僕は、自分に呪いをかけた。僕の全てを賭けて、僕自身を眠らせたんだ。あの人に、会うために」
魔猫は、締め上がる糸に、争い顔を顰める。
「下僕の癖に、よく考えたじゃないか」
「やっと、会えたんだ。邪魔はさせないよ」
「また、地にあけた通路を抜けて、逃げるつもりか?」
魔猫の言葉に、ナチャは、その整った顔を歪めた。
「随分と、知っているじゃないか?」
ナチャは、糸をさらに絞り上げる。
「それでなければ、どうして、地の裏の国に行き来できる。キリアスをここに呼んだのも、私の主人が出会ったのも、お前のせいだ」
「すべて繋がるとでも?」
ナチャは、大きく手を振った。
「地の裏が、すべて繋がっているのではない。地上が繋がり、地の裏には、ポストとなる石棺があるだけだ」
「ふん・・・どうりで」
魔猫の顔は、締め付けられ、爆発しそうに膨らんでいった。開いた目は、充血し、口は、耳元まで酒、牙の間からは、涎が滴っていた。
「これで、終わると思うな」
首がちぎれるかと思っていた魔猫の体だが、抵抗がなくなった華と思うと、水のように締め付ける糸の間から、すり抜けると、地面の上に、こぼれ落ちるように移動した。追いかけるように、ナチャの糸がすぐ、張り付くが、再び、液体の様になり、二度と、糸に体を取られる事はなかった。
「お前も、キリアスも、許さない。」
言葉だけを残して、魔猫は、ナチャの目の前から消えていった。
「許さないか・・・」
ナチャは、魔猫を取り逃した事を悔しがる様子はなかった。
「キリアスなのか、シャルなのか・・・逢いにいくよ」
ナチャは、そう呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。

潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化! 転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

投資の天才”を名乗る臣民たちよ。 その全財産、確かに受け取った。 我が民のために活かそう』 〜虚飾を砕く女王の経済鉄槌〜

しおしお
恋愛
バブルに沸くアルビオン王国。 「エルドラド株」を持たぬ者は時代遅れ―― そう嘲笑いながら、実体のない海外権益へ全財産を注ぎ込む貴族たち。 自らを“投資の天才”と称し、増税に苦しむ民を見下す日々。 若き女王リリアーナは、その狂騒を静かに見つめていた。 やがて始まる王室監査。 暴かれる虚偽契約。 崩れ落ちる担保。 連鎖する破綻。 昨日まで「時代の勝者」を気取っていた特権階級は、一夜にして無一文へ。 泣きつく彼らに、女王はただ微笑む。 ――“皆様の尊いご投資、確かに受け取りましたわ” 没収された富は国庫へ。 再配分された資源は民へ。 虚飾を砕き、制度を再設計し、王国を立て直す。 これは復讐譚ではない。 清算と再建の物語。 泡沫の王国に、女王の鉄槌が下される。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

処理中です...