酒涙雨で終わりにしようか?君の心臓を天に捧ぐから。

蘇 陶華

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憎しみは、時代を超えて

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魔猫は、目の前に立つ青年の姿を見上げていた。青い光をたたえた二つの瞳は、魔猫のしなやかな体を捉えていた。
「随分と、長い時間を超えていたんだね」
今までの、醜い容貌とは異なり、ナチャの声は軽く涼やかだ。
「一体、どのくらいの時間を超えてきたのか」
「時間を超えたのではない。時間が止まっていたのだ」
「君は?」
ナチャは、何かを思い出すかのように目を細めた。
「キリアスのせいで、主を失った者」
「彼女は、多くの者を苦しめてしまった」
「苦しめただけでは、なかろう」
「以前は、そうではなかった。全て・・・僕らのせいなんだ」
「ふ・・」
魔猫は、笑った。
「誰のせいかは、知らん。それは、私には、関係ない。我が主人の死が、キリアスである事は、変わらん」
「何を言っても、聞いてはもらえない様だね」
魔猫は、ナチャを襲う事を諦めてはなかった。
「だけど・・・」
ナチャは言った。
「どうして、僕が蜘蛛の姿だったか、わかるかい?」
ナチャは、右手をかざすと、掌の中が青白く輝き始めた。幾重もの蜘蛛の糸が重なり、渦巻き始めた。
「呪いに閉じ込められたのは、元々の僕らの血のせい」
掌から、舞い上がった蜘蛛の糸は、伸び縮みを繰り返し、空間に解き放たれる。
「僕ら、地這いの一族と出会ったせいなんだ。」
解き放たれた蜘蛛の糸は、魔猫が逃げる先へと周り、美しい被毛が、蜘蛛の糸に絡み取られてしまう。
「どうして、醜く臆病な僕が変わったか?って」
ナチャは、糸を操り、魔猫を締め上げていく。
「それは、僕が本当の姿になったからだよ」
「純真な下僕と思っていたがね」
ナチャは、笑う。
「そうだよ。そうなるように、僕は、自分に呪いをかけた。僕の全てを賭けて、僕自身を眠らせたんだ。あの人に、会うために」
魔猫は、締め上がる糸に、争い顔を顰める。
「下僕の癖に、よく考えたじゃないか」
「やっと、会えたんだ。邪魔はさせないよ」
「また、地にあけた通路を抜けて、逃げるつもりか?」
魔猫の言葉に、ナチャは、その整った顔を歪めた。
「随分と、知っているじゃないか?」
ナチャは、糸をさらに絞り上げる。
「それでなければ、どうして、地の裏の国に行き来できる。キリアスをここに呼んだのも、私の主人が出会ったのも、お前のせいだ」
「すべて繋がるとでも?」
ナチャは、大きく手を振った。
「地の裏が、すべて繋がっているのではない。地上が繋がり、地の裏には、ポストとなる石棺があるだけだ」
「ふん・・・どうりで」
魔猫の顔は、締め付けられ、爆発しそうに膨らんでいった。開いた目は、充血し、口は、耳元まで酒、牙の間からは、涎が滴っていた。
「これで、終わると思うな」
首がちぎれるかと思っていた魔猫の体だが、抵抗がなくなった華と思うと、水のように締め付ける糸の間から、すり抜けると、地面の上に、こぼれ落ちるように移動した。追いかけるように、ナチャの糸がすぐ、張り付くが、再び、液体の様になり、二度と、糸に体を取られる事はなかった。
「お前も、キリアスも、許さない。」
言葉だけを残して、魔猫は、ナチャの目の前から消えていった。
「許さないか・・・」
ナチャは、魔猫を取り逃した事を悔しがる様子はなかった。
「キリアスなのか、シャルなのか・・・逢いにいくよ」
ナチャは、そう呟いた。
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