酒涙雨で終わりにしようか?君の心臓を天に捧ぐから。

蘇 陶華

文字の大きさ
上 下
31 / 75

命の灯を凍らせよ

しおりを挟む
犀花が、意識を失った瞬間、地に沈む白夜狐の姿が目に映った。
「どこかで、見覚えがある」
地に落ちながら、白夜狐の姿は、人間の姿に変容していくのだ。冴えない少年の姿。眼鏡をかけたら、誰かに似ている。そう、あれは、柊雨。
「柊雨!」
叫んだが、声にならなかった。黒衣の騎士は、黙ったまま、阿黄を後ろに乗せると、雲の中を駆け抜けていく。濃い雲の塊と抜ける青い空の中を抜けている間に、聞き慣れた女性の声が研ぎて途切れに聞こえる。争うような声。犀花の目の前では、馬の首から下がったランプの中で、青い炎が揺れている。消えそうになりながら、やっと、燃えている。どこかで、見た事がある。犀花は、炎を見ていると意識がどこかに、飛びそうだった。炎に、意識を奪われそうになりながら、やっと、黒衣の騎士から、解放されたのは、見知らぬ鳥居が幾千も並ぶ山の頂上だった。
「あなたは・・・」
顔を見ようにも、顔はなく、ただのフードと衣服だけが浮かび上がっているだけdった。どこが、顔なのか、わからないのに、フードの中から声だけが響いてくる。
「そこに、横になるように」
山の頂上には、寂れた管理棟があり、そこは、祀られている社の管理棟の様だった。誰もいないのを亜黄が確認すると、中に入り、寝台を見つけると、そこにあった毛布を敷いた。
「少し、休むように」
「休んだ方がいいよ」
亜黄は、犀花に気を使った。
「どうして、あなたは、白夜狐を裏切ったの?」
亜黄は、不満そうな顔をした。
「裏切った訳ではない。最初から、違かっただけ」
思い鎖の音がして黒騎士が壁を背にして、座り込む様子が見えた。太くて長い鎖が、片足の自由を奪うように絡みつき、その先には、鉄の大きな玉が見えた。
「彼は、何者?」
「本当に、忘れたんだね」
亜黄は、寂しい顔をし、黒騎士の側に佇む黒馬に目をやった。首元に下がるランプの中で、青い炎が踊っている。
「綺麗な炎でしょ」
亜黄は、黒馬の側に立ち鼻先を撫でた。
「僕らが、どんな想いでここまで、お連れしたか、覚えてないんですよね」
黒馬の瞳が、犀花を責めていた。
「さっき、何かを思い出しかけたけど」
何か、心の中で、湧き上がってきた思いがあった。だが、白夜狐が地に沈む姿を見た時に、その思いは、沈んでいってしまった。この沈んだ思いは、なんなのか・・・
「僕が、犀花を楽にしてあげるんだよ」
亜黄は、黒馬のランプを取り外し、犀花の目の前に、差し出した。
「さぁ・・・戻っておいで」
青い炎は、燃え上がり、犀花の、体へと吸い込まれていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

あなただけが私を信じてくれたから

樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。 一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。 しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。 処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

貴様とは婚約破棄だ!え、出来ない?(仮)

胸の轟
ファンタジー
顔だけ王子が婚約破棄しようとして失敗する話 注)シリアス

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

悪役令嬢ですか?……フフフ♪わたくし、そんなモノではございませんわ(笑)

ラララキヲ
ファンタジー
 学園の卒業パーティーで王太子は男爵令嬢と側近たちを引き連れて自分の婚約者を睨みつける。 「悪役令嬢 ルカリファス・ゴルデゥーサ。  私は貴様との婚約破棄をここに宣言する!」 「……フフフ」  王太子たちが愛するヒロインに対峙するのは悪役令嬢に決まっている!  しかし、相手は本当に『悪役』令嬢なんですか……?  ルカリファスは楽しそうに笑う。 ◇テンプレ婚約破棄モノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

処理中です...