うりふたつ

片喰 一歌

文字の大きさ
9 / 29
サイカイ

サイカイ【9】

しおりを挟む

「途中で疲れたり眠くなったりしたら代わるので、遠慮なく言ってくださいね? 余計なお世話かもですけど」

 帰りの車に乗り込み、お願いしますの意味も込めてそう伝えると、彼はシートベルトの確認をしながら答える。

「ありがとね。その時はよろしく。でも、なるべくそうならないように頑張るよ。可愛い君が隣にいるんだ、気合入れて安全運転するさ」

 そんなリップサービスがちっとも嫌味にならないのは、ちょこんと上品に乗せられたホイップクリームみたいに、適量を守っているからだろうか。半分ほど残されたスティックシュガーが頭を過ぎる。

「……こうして、助手席に乗せてもらってると思い出します」

 走り出していた車は、するすると滑るように進んでいく。このあたりは信号がなくて快適だ。

「彼のことだね、わかるわかる」

「なんかさっきから微妙にキャラ変してません? 別にいいですけど。……あ、デート中に他の男の人の話するなんて無神経でしたね。配慮に欠けていて、すみません」

「気にしないで。俺、その人とそっくりなんでしょ? 思い出すなってほうが無理だと思うし。話したければ話してよ。嫌なら別の話題でもいいから。聞きたいなあ、君の話」

 気を悪くする風もなく、さらっと受け流されて拍子抜けする。そこまで不快な思いはさせなかったらしいという安堵感と少しも意識されていない悔しさとが鬩ぎ合う。

「……ありがとう、ございます」

「本音言うと妬けちゃうけど。人が、好きなひとのこと話してるのを聞くのが好きでさあ。それが可愛い女の子なら、なおさらね」

 こちらの思考を読んだかのように言って、ここぞとばかりにウインクを決める。次の瞬間にはなにもなかったかのように運転に集中していた彼の口元は、心なしか先程より緩んでいるような気がした。

 悔しいくらい様になる顔のつくりは鏡に映したルトさんのようだが、彼によく似た誰かとしてではなく、柔らかく笑む隣のハルトさんから目が離せない。

 ルトさんの浮かべる表情は、全体的にもっとぎこちなかった。表情筋の操縦が不得手な彼は、そもそも片目だけを選んで器用に瞑ることができただろうか。勢い余って両目を閉じてしまいそうな気がする。

 だが、これは私の勝手なイメージだ。彼に対して抱いている壮大な幻想であり、自分勝手な願望だ。恋人のウインクの能否さえ知らないという事実が胸を刺す。

 そんなのどっちでも構わないから、直接あなたに尋ねたかったよ。喉元まで出かかった言葉を押さえつけたら、今度は視界が歪み出す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【書籍化決定】アシュリーの願いごと

ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」 もしかして。そう思うことはありました。 でも、まさか本当だっただなんて。 「…それならもう我慢する必要は無いわね?」 嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。 すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。 愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。 「でも、もう変わらなくてはね」 この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。 だって。私には願いがあるのだから。 ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻1/19、タグを2つ追加しました ✻1/27、短編から長編に変更しました ✻2/2、タグを変更しました

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

処理中です...