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源野 進

Yes We can ?

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 生徒会長などフィクションの中の存在でしかなかったが、中学生になって初めて、灯枇あけびは生徒会が実在するのだと知った。しかし彼らが普段何をしているかは謎のままであり、行事の際に出てくる以外、顔も知らない上級生の一集団に過ぎなかった。

 季節は流れ、生徒会選挙が開催されることになった。どうやら全生徒の投票で、会長1名・副会長2名(※男女各1人)とたしか書記1名が決まるらしい。立候補は、他薦と自薦両方可。
まだ1年生の灯枇あけびのクラスからは、ヒヲス小時代から良い意味で目立ちたがりやの、馬楽ばらく君が自薦で副会長に立候補した。ちなみに彼は不思議男子でもある。

1年で副会長!?と、担任に驚かれていたので、一般的には書記立候補が1年生のスタンダードだったのかも知れない。蓋を開けてみれば、他にも1年の立候補者は居たのだが。

「Xくんってホントいい奴でさー! 俺らクラス全員で応援しとったい! 灯枇あけびちゃんもXYばヨロシクね、それがフルネームだけん」

同じく1年で別クラスの柾谷から朝の登校時にそう言われ、灯枇あけびは力強くうなずいた。それには理由がある。

『僕が全部考えっけん。馬楽ばらく君はそのまーんましゃべりゃよかよ。でさ、今あれが流行ってるじゃん?』

灯枇あけびは偶然クラスの教室内で、元初恋の片思い相手源野君と、馬楽ばらく君の選挙戦略を聞いてしまったのである。灯枇あけびはいくら源野君が初恋だろうと、もはや特にもうなんとも思っていないので、義憤にかられるだけだった。

――馬楽ばらく君は自分で立候補したとに、頭の良い源野君に考えてもらうつもり? 源野君もなんか面白がってるし! そんなのよくない、ズルだ!

それは柾谷のクラスがやったような、朝から校門近くで手作り横断幕を広げ、やって来る登校生たちに「XYへ清き一票を!」と呼びかける地道な活動とはほど遠いものだった。

柾谷のクラスは傍から見ても異様なまでに結束力があり、最終日まで毎朝のようにそれを続けていたが、灯枇あけびのクラスではそういったことは要求されず、いよいよ生徒会選挙当日を迎えた。

給食メニューがどうだとか、掃除がどうだとか、休み時間がどうだとか無理筋なアピールをする者、
無難ながらまともな内容に終始する者、
先生ウケが良さそうな他薦の優等生、色々な候補者が居たのだろうが、あまり印象には残らなかった。いよいよ馬楽ばらく君の出番が来た。

「~~だから、ぼくたちはできる! Yes, We can!」

体育館は爆笑の渦につつまれ、上級生の座る方からも何だアイツ~、おもしれーじゃん!といった声が聞こえてきた。すかさず登壇した源野君が、今度はまともに馬楽ばらく君の長所短所を巧みに語り終える頃には、「yes we can」が全校生徒間のあだ名になる勢いで定着しつつあった。

そう、当時はアメリカ大統領選のバラク・オバマ氏の名言として有名なセリフだったのだ。早い話それをパクっただけである。見事源野君の選挙戦略は的中し、馬楽ばらくは圧倒的多数で副会長に当選した。そこに悪気がなかろうが、灯枇あけびには半ばお遊びで当選したようにしか見えなかった。



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