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野々下 妍護 まだつづく

末広おじさんの素顔

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 ある日唐突に、末広おじさんは入院した。その当時の灯枇あけびは、再びのバイク事故が原因なのかと勘違いしていた。しかし末広おじさんは、病院でリハビリをしていた様子だが、怪我をしている様子は無かったため、どうも何かしらの病気が原因だったようだ。

 唐突に入院してからの末広おじさんは、いつも掛けていたサングラスをはずし、服装も病院着やパジャマで全然怖くなかったため、灯枇あけびは結構、末広おじさんになついていた。末広おじさんは、元々気さくで親しみやすい性格である為、灯枇あけびが従姉の叔父に連れられお見舞いに訪れると、かなり喜んで、帰り際にお菓子をくれるのだ。

だから灯枇あけびも、そのお礼として、当時灯枇あけび森次しんじが祖父宅でマイブームだった、アイロンビーズで、たしか謎の靴下型のコースターを作り、末広おじさん宛の手紙も書いて読み上げた。

「末広おじさんに、愛情を込めて作りました」

灯枇あけびはコースターと手紙を渡した後になって、

――流石に愛情なんて恥ずかし過ぎる。友情にしとけば良かった……。でも末広おじさんは親戚であって、友達じゃないから、やっぱり愛情で合ってるのか。うわ~恥ずかしかあ……

と、心の中で恥ずかしさにのたうち回って後悔したのだが、当の末広おじさんは、コースターを手紙共々、大事に取っておいてくれたらしい。その後も末広おじさんは、あちこちの病院をたらい回しにされ、転院を繰り返したが、ようやく受け入れ先が見付かり、とある介護福祉施設に腰を落ち着けた。ちなみに末広おじさんの奥さんも、どこぞの病院に入院して離れて暮らしていた。


 末広おじさんが居る介護福祉施設へお見舞いに行った際に、灯枇あけびは施設の駐車場で末広おじさんから、恐らくリハビリ用の手押し車の上に乗せられた。灯枇あけびがきょとんとしていると、末広おじさんはそのまま、手押し車を押しつつ猛ダッシュした。灯枇あけびはこれに痛快なスリルを感じて、きゃはははは! と大喜びで大爆笑し、押している末広おじさんも大変な笑顔で、しばらく走り続けてくれた。



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