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相生 眞祝 まだつづく

しゃがれた声で気難し屋の可愛いアメリカ水兵さん

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 相生あいおい しゅうの母親は、野々下 灯枇あけびの母親の末妹である。現在の氏名を相生あいおい 糸織しおり、旧姓名を野々神ののがみ 糸織しおりという。

野々下 灯枇あけびは彼女から見れば、長姉の娘で初の姪っ子に当たる。灯枇あけびがまだ幼かった頃、まだ年若く結婚をしていなかった彼女は、まるでアニメのフグ田タラオが、磯野カツオや磯野ワカメを叔父や叔母とは呼ばないように、きょうだい親戚一同から叔母ではなく、「糸織しおりちゃん」と呼ばれていた。

 糸織しおりちゃんは灯枇あけびの知る限りでは、灯枇あけびの母親とは違って地元の高校生となり、親元の天草郡で青春時代を過ごして卒業した。手先の器用な糸織しおりちゃんは、自身の母親に当たる灯枇あけびの祖母から素晴らしい縫製技術を受け継いだ、もしくは灯枇あけびの祖母が所有するミシンや布地が常に実家にあるという、整った環境下で自力習得していた。


 この環境は、灯枇あけびの自宅でも若干程度再現されており、後年意外とミシン好きな弟の森次しんじが、多少はそれを使ってあれこれやっていた。

ちなみにミシンは灯枇あけびの場合、ヒヲス小学校の家庭科の授業で一通りの使い方は伝授されたものの、灯枇あけびの母親のミシンは小学校の備品よりは古かった。その為違うタイプであるミシンの使い方を一から覚え直すのは至極面倒であり、またそれがどんなミシンであろうが、下糸を通す作業はクラスメイト達全員が苦手とするところで、同じく灯枇あけびにとっても非常に難しく、灯枇あけびはヒヲス小学校の授業中にミシンの下糸が無くなってしまうと、いつもペアを組んだ相手に頼んでやって貰っていた。


そんな苦行で時間を浪費するぐらいなら、いっそ気楽な手縫い派の灯枇あけびとは違って何事にも根気強く、ミシンに関しては素質もあった森次しんじはさておき、手先の器用な糸織しおりちゃんは、例えば大人サイズのワンピース、他にはちゃんとしたチャックや裏地も備わって、しっかりとした金具で両取っ手も取り付けられた、雑貨屋の売り物とも遜色ないようなハンドバッグ等々を見事作り上げ、時たま贈ってくれるような、大変有り難く気前のよい人物だった。


 また糸織しおりちゃんの車には、ディズニーキャラクターであるドナルド・フォントルロイ・ダック、通称・ドナルドダックのティッシュケースが置かれていた。実は灯枇あけび糸織しおりちゃんも、そのドナルドダック好きという共通点があったのだ。


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