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野々下 森次 まだつづく

拗ねる子供と拗ねない子供

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 野々下 灯枇あけびの上の弟である野々下 森次しんじは、可愛いと知人からたまに褒められるような顔立ちだった。

 確かに灯枇あけび森次しんじも連れて放課後遊ぶ約束を果たしている最中、妃鞠は森次しんじの顔立ちを褒めてそう言ったし、灯枇あけびの保育園時代に、既に自身にもちゃんと1人は弟が居たはずのルミが、何故か灯枇あけびには森次しんじが居て羨ましいと言ったのも、ひょっとすると森次しんじの見目が意外と良かったのも理由の一つかも知れない。

弟の森次しんじとは、特に母親の関心を奪い合うライバル関係にあった当時の灯枇あけびからすると、そんな事を言われてもにわかには信じられなかった。しかし後年クリスマスケーキを前にして撮られた幼い灯枇あけび森次しんじのツーショット写真などを確認すると、色白かつぱっちりした目で微笑む森次しんじは、結構可愛らしい顔立ちの子供である。


 しかしまあ、所詮は別家庭の他人であるルミや妃鞠には知る由もないのだが、実は森次しんじはほんの小さな頃から自立心旺盛な子供で、例えば靴を履くぐらいのことは自分でしたがった。

「自分で、す~る~!」

そして自身に納得のいかない事があれば、森次しんじは何時間でも拗ねつづける。その間は全く親達の言う事を聞かず、口をとがらせて沈黙を決め込むのだ。その習性はどこか、いつも不機嫌でアイス好きな祖父そっくりだった。

森次しんじは拗ねるが灯枇あけびは拗ねないという点において、母親はお利口さんないい子だと灯枇あけびを褒めた。当時は全くの無自覚であったが、森次しんじと比較すると容姿の劣る灯枇あけびのアドバンテージは、いつもでは無いにしてもその扱いやすさにあったのだ。


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