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久遠は彼氏でもないし五十嵐課長の事をそんな風に言われるのも心外だし、もうどこから突っ込んでいいのかわからない。
けど。目を丸くして高塚さんを見る久遠に、胸がざわめいた。
やっぱり久遠も、高塚さんみたいなかわいい子に言い寄られたら悪い気はしないよね。
ぎゅ、と自分の胸元を握りしめる。
私がどれだけおしゃれに気をつかっても、高塚さんにはかなわない。精一杯のおしゃれをしてきたつもりだけど、そんな自分がみすぼらしく見えて恥ずかしい。
「名前……」
久遠が小さく呟いた。久遠の口から、満里奈なんて親し気な呼び方、聞きたくない。職場の人が呼んでも気になんてならないのに、久遠が名前を呼ぶのは……名前……
あっ!
そこであることに気づいて、ざ、と私の血の気がひいた。
「水無瀬……?」
久遠は、高塚さんではなく私を見ていた。
それは、久遠が知らない私の名前だ。そうだ、私まだ久遠にちゃんと名乗ってなかった!
「あの、久遠、実は……」
「くおんさんていうんですかあ? 素敵なお名前ですね。よかったらこの後……」
「うるせえ」
ふいに、久遠が低い声で言った。
「え?」
「うるせえって言ってんだ! どけよ」
すりよってきた高塚さんを押しのける。乱暴ではなかったけれど、拒絶されることに慣れていないんだろう。びくり、と高塚さんが体をこわばらせるのがわかった。
そのまま久遠は振り返らずにカフェから出ていく。
「待って、久遠!」
「誰だよ、五十嵐って」
前を向いたまま足を止めずに久遠が言った。低い声。……怒っているの?
「違うの、あれは……」
「彼氏はいないんじゃなかったのか? 嘘だったのかよ」
「嘘じゃないよ」
「どうだか。そいつの名前偽名に使うくらい好きなんだろ?」
はっきり偽名と言われて、思わず息を飲む。
「名前を偽ってたことはごめんなさい。でも、五十嵐課長は、本当にそんなんじゃないの。私は……」
立ち止まって顔だけ振り向いた久遠に、私も足を止めた。
冷たい目。そんな目を、一度見たことある。
初めて会った時、ナンパ男をにらんだあの目だ。
「騙してたのはどっちだよ」
「久遠……」
「帰る」
一言言うと、久遠は私に背を向けてもう振り返らなかった。
私は、追うこともできず、その背を見送った。
☆
けど。目を丸くして高塚さんを見る久遠に、胸がざわめいた。
やっぱり久遠も、高塚さんみたいなかわいい子に言い寄られたら悪い気はしないよね。
ぎゅ、と自分の胸元を握りしめる。
私がどれだけおしゃれに気をつかっても、高塚さんにはかなわない。精一杯のおしゃれをしてきたつもりだけど、そんな自分がみすぼらしく見えて恥ずかしい。
「名前……」
久遠が小さく呟いた。久遠の口から、満里奈なんて親し気な呼び方、聞きたくない。職場の人が呼んでも気になんてならないのに、久遠が名前を呼ぶのは……名前……
あっ!
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それは、久遠が知らない私の名前だ。そうだ、私まだ久遠にちゃんと名乗ってなかった!
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「うるせえ」
ふいに、久遠が低い声で言った。
「え?」
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すりよってきた高塚さんを押しのける。乱暴ではなかったけれど、拒絶されることに慣れていないんだろう。びくり、と高塚さんが体をこわばらせるのがわかった。
そのまま久遠は振り返らずにカフェから出ていく。
「待って、久遠!」
「誰だよ、五十嵐って」
前を向いたまま足を止めずに久遠が言った。低い声。……怒っているの?
「違うの、あれは……」
「彼氏はいないんじゃなかったのか? 嘘だったのかよ」
「嘘じゃないよ」
「どうだか。そいつの名前偽名に使うくらい好きなんだろ?」
はっきり偽名と言われて、思わず息を飲む。
「名前を偽ってたことはごめんなさい。でも、五十嵐課長は、本当にそんなんじゃないの。私は……」
立ち止まって顔だけ振り向いた久遠に、私も足を止めた。
冷たい目。そんな目を、一度見たことある。
初めて会った時、ナンパ男をにらんだあの目だ。
「騙してたのはどっちだよ」
「久遠……」
「帰る」
一言言うと、久遠は私に背を向けてもう振り返らなかった。
私は、追うこともできず、その背を見送った。
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