貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

北方諸国からの縁談。

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 トラス国王一家への挨拶をしたい旨を、順番を采配する侍従に告げ、名を呼ばれるのを待つ。
 リュサイの身分はカレドニアの女王であるので順番を早める事を提案されたが、あくまでもトラス王国や聖女の庇護を求める身。優遇により周囲の反感を買うのもどうかと思ったリュサイはそれを固辞することにした。

 呼ばれるまで大分時間があるので、少し腹ごしらえをしても良いかも知れない。匂いの左程強くないものを求め、飲み物や料理が所狭しと並べられたテーブルへと向かう。
 騎士ドナルドがそこに居た給仕に条件にあった食事を選んで渡すよう申し付けたところで、リュサイは斜め背後から誰かが近付いて来る気配に気が付いた。
 振り向くと、ワイングラスを片手に紳士の礼を取っている。銀に近い金髪に加えて肌の白さ。恐らく北方諸国の人間なのだろう。

 「カレドニア王国リュサイ女王陛下であらせられますな?」

 ――ヘンリク・シグルドソン・ファルク。イスフォル王国の使者です。身分は子爵。

 母国語でリュサイ達に囁いた後、カレドニア王国外交官タイグ・フレイザーは騎士ドナルドが前へ進み出そうとしたのを制して歩を進めた。

 「これはこれはファルク卿……身分が上の御方のお声掛けも待たず、飲み物を手にしたまま礼を取られるとは……流石は自由で気さくなイスフォルの国風といったところでしょうか?」

 「いえいえ、フレイザー卿。この場は目出度い新年の宴。多少の無礼講は許されるものと思っておりました故……リュサイ陛下のお気を害してしまったのであればご容赦を!」

 タイグの予想とは違い、相手はグラスを給仕に渡すとすぐさま声を張り上げ大げさな謝罪をする。何事かと周囲の目線がちらほらとこちらに向けられ始めた。
 タイグは目線でリュサイの意を窺う。なるべく穏便に済ますしかないだろう。リュサイは扇を広げてタイグの隣に立った。

 「ああ、私は別に気を悪くしてはおりません。このような体験はこれまでの人生で滅多に無かったものですから――少し驚いてしまいましたの」

 「我が女王陛下は寛大なお方でいらっしゃる」

 「それだけではなく、お美しい。リュサイ女王陛下のその美貌は北方諸国にも轟いております。
 丁度今しがた、聖女様のお慈悲を受けた国同士で新たな交易や商売等の話をしていたところなのですが、その時にリュサイ陛下の美貌も話題に上りましてね」

 言われて目線を動かすと、リュサイの視界――にこやかに話すファルク卿の背後には、北方諸国の特徴を持った貴族達が皿やグラスを片手にこちらを注目している。
 新たな交易や商売とやらに加われ、という事なのだろうか。あの新しいお酒――情報が漏れていた?
 その可能性に困惑するリュサイに構わず、ファルク卿は話し続ける。

 「海を隔て――時にはオイの領有を争うことがありましたが、我がイスフィオル王国と貴国はそれなりに交易を行って参りました」

 「諸島インシュですな」

 フレメズオイ諸島インシュニアフトラナッハも同じ島を指している。笑顔を崩さずカレドニア王国の呼び名で訂正したタイグにリュサイは一瞬ヒヤリと緊張したが、ファルク卿は気を悪くした様子も無い。

 「……そう言えば、陛下はもう王配をお決めになられていないとお聞き致しました。野心溢れるアルビオンの好色王に御身を狙われている、とも」

 そこで、でございますが――そう言ってファルク卿はリュサイに向かって紳士の礼を取った。

 「聖女様の庇護を受けられた国同士。結束を固める為にも我が国の第三王子殿下を伴侶としては如何でございましょうか? 悲しい歴史のある島につきましても、両国の島として新たに名付けることで生まれ変わりましょう」

 「な……」

 騎士ドナルドが何かを言いかけた、その時。

 「待たれよ、ファルク卿。貴国の第三王子殿下は御年十五。リュサイ陛下と年齢的な釣り合いが取れておらぬ。その点、我がソルスンド王国の第二王子殿下は二十五歳、リュサイ陛下の王配として御身と国を守るのに申し分ない!」

 「失礼だが、貴国の第二王子殿下は熊のような大男ではないか。リュサイ女王陛下には我がレヴォントゥリリケ王国の王弟殿下こそが相応しい。美丈夫で年齢も釣り合いが取れ、何より母君である王太后様はトラス国王陛下の姉君でいらっしゃる」

 「貴殿ら、我らステンマルク王国も忘れて貰っては困る。国土こそは小さいが、貿易において発展しており豊かだ。ステンマルク王国の第二王子殿下を選んで頂ければ、十分な援助をお約束出来る」

 それまで黙って様子を窺っていた他の北方諸国の使者達が次々に声を上げた。いずれも自国の王子をリュサイと結婚させようとしているのだ。挙句、互いにライバルとなる王子の欠点や悪口を言い合う始末である。
 タイグが「ここでそのようなお話をされても困ります」とお茶を濁そうとするも、事前に酒が入っているのも手伝ってヒートアップした彼らは、「決めるのはフレイザー卿ではなくリュサイ女王陛下だ」と決断を迫った。
 周囲の好奇の目に晒され困り果てながらも、リュサイが額に青筋を浮かべた騎士ドナルドを必死に宥めていると、ふと影が顔に落ちる。

 「イスフォル王国、ソルスンド王国、レヴォントゥリリケ王国、ステンマルク王国の方々とお見受け致します。私はキャンディ伯爵家の次男、カレルと申します。
 麗しきリュサイ女王陛下との縁談を望まれるのは理解出来ますが……ご覧ください。貴殿達の矢継ぎ早の申し出に、リュサイ陛下は顔色を悪くされております。
 実は陛下は先日まで体調が優れずに休養なさっておられたのです。尊き御身を預かっているキャンディ伯爵家の者としては見過ごせません。どうかご容赦頂きたいのですが」

 「カレル様……!」

 庇って貰えたことに胸が高まる。「いきなり何だね、貴殿は!」等と北方諸国の男達が不快を露わにするも、タイグの「カレル卿は聖女様の兄君でいらっしゃるのです」という言葉を聞くとすぐに怯んだように押し黙った。
 その時丁度侍従がリュサイ達を呼ぶ。

 「大丈夫ですか、リュサイ様。もし宜しければ、僭越ながら私がエスコートを致しましょう。虫除けぐらいにはなるでしょうから」

 「あ、ありがとうございます……!」

 カレルの申し出を、リュサイは有難く受けた。
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