貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

舌戦が繰り広げられる社交界。

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 「『お待ちください、我が女王モ・バウンリ。先程の事、お聞かせ願いたい』」

 聖女マリアージュとの歓談が終わった後。トラス王家への挨拶へ向かわんとしたリュサイを引き留めたのは、貼り付けたような笑顔のカレドニア王国外交官タイグ・フレイザーであった。
 そのまま大広間の隅の人気が少ない場所に移動すると、タイグは軽く周囲を見渡して溜息を吐く。

 「『聖女様の庇護国となる事を求められた事です。せめて事前に一言相談して頂きたかったですな。突然の陛下の申し出にも関わらず、聖女様は快く受け入れて下さいましたが――もしあの時断られていたらどうなさるおつもりだったのです? 今後は土壇場でこのような事は困りますぞ』」

 「『……フレイザー卿の仰る通りかと。私も肝を冷やしました、我が女王モ・バウンリ。何という無茶をなさるのか……』」

 外交官タイグ・フレイザーと高地の騎士ハイランダードナルド・マクドナルドの両名からカレドニア母国語で口々に諫言を受け、思い当たる事しかなかったリュサイは眉を下げた。
 先刻は良い思い付きだと申し出てしまったが、山岳国家ヘルヴェティアを始めとする北方諸国や東方小国群等の国々に便乗する形になり、かつ聖女マリアージュの人柄と友誼を頼みに土壇場でしでかしたのは否めない。
 しかも、トラス王国のみならず諸国の人間の集まる場である。事前に話を通していた訳でもなく、国の行く末を決めるには非常に軽率で危険な賭けだったのだと思い直したリュサイは、正直に臣下達に謝罪した。

 「『それは……申し訳なかったと思います。しかし、今後の事を考えれば決して悪い手では無かったわ』」

 「『結果的にはカレドニアも聖女様の庇護を受けた事実が知れ渡る事で、アルビオンへの牽制になるでしょうな。
はぁ……陛下におかれましては、私が帰国する前までにオーエン摂政閣下への一筆を頂戴致したく。出来ましたら、私が陛下をお止め出来なかった事に対するお叱りが軽くなるような内容でお願い致します』」

 タイグの報告を受ければ、リュサイの叔父、摂政オーエン伯に厳しく詰められる――それは間違いないだろう。溜息を吐いて肩を落とし観念したタイグの様子に、リュサイは思わずクスリと笑った。

 「『ええ、勿論。叔父様にはフレイザー卿の事を叱らないで欲しいと書いておくわ』」

 「『宜しくお願い致します……それでは、トラス王陛下方にご挨拶へ参るとしましょうか』」

 「『ええ』」

 大広間を進み、王族席へと向かう。その間にも、リュサイ達は諸外国の人間やトラス貴族から次々に挨拶を受けた。無視する訳にいかず軽く歓談するのだが……。

 「聞きましたぞ。リュサイ陛下はこの国にいらっしゃった折、幸運にも聖女様に巡り合われたとか」

 「先程も聖女様の庇護を受けられた事で、実質トラス王国という大国の大船に乗ったも同然。今後の統治は心安らかにあられ、カレドニア王国は安泰でございますな。その点、我が国は大きく、おいそれとは動けませぬから貴国が羨ましい事です」

 時折、言葉の端々から感じる女王や小国に対する侮りに心が凍り付く。
 相手の言う通り幸運であったと思うし、統治を放り出してアルビオンの好色王の魔の手から逃げて来た自覚があるリュサイには言い返す言葉が無い。

 「我が女王陛下は貴殿らのお言葉に感動して言葉が出ないご様子。陛下に代わり、私タイグ・フレイザーが御礼申し上げます。
 聖女様に巡り合うという僥倖は、ひとえに敬虔たる我が女王陛下への神のご加護の賜物……今後、聖女様の庇護を受ける国は数多出て参りましょうが、ヘルヴェティアと共にその先陣を切る事が叶いました。聖女様とご友誼を結ばれているリュサイ女王陛下のご英断は、後の世に語り継がれていく事でしょう!
 何とも素晴らしいお言葉を下さった貴殿らのことは、きっと我が女王陛下から聖女様のお耳に入れて下さいますとも」

 口の立つタイグ・フレイザーがリュサイに代わりにこやかに応答すると、相手は「いや……お耳汚しを」「お忘れ下さい」等ともごもごしながら退散していく。
 しかしその後も、

 「以前、貴国の伝統――格子模様の衣装を聖女様達がお召しになるのをお見掛けしましたが、特にダージリン猊下! 生まれつき貴国の人間だと思える程によくお似合いになっていらっしゃいましたな」

 等と、カレドニアに多い赤毛に対する侮蔑を口にするものが現れた。また、聖女と親しいリュサイから利を引き出そうとする者達もちらほらと。都度、タイグが相手に不都合を感じさせる言葉でやり込め、時折リュサイも援護する。
 精神的疲労を感じてきた時、やっと途切れたと思ったのも束の間、今度はリュサイがアルビオンの好色王に狙われている話をどこかで聞いたのか、リュサイの王配になろうと狙う男達が集まって来たのである。
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