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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】
ワタリガラス。
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「はい、聖女様」
サイアが答えて歩き出すと、居並ぶ貴族達が騒めいた。
カナールの民達は不安そうな面持ちで恐る恐るそれに続こうとした、その時――
「聖女様、お待ちください!」
鋭い声が上がった。歩みを止めるサイア達。見ると、貴族の一人が列から離れて転び出るところだった。
「正気ですか!? 聖女様御自ら賤民を祝福なさるなど!」
それに触発されたのか、もう一人、また一人と人数が増えていく。
「ヴィアンリ・パント卿の言う通りです、国王陛下や我ら貴族達と同じ場所にいる事は勿論、神聖なるノートルサンテヴィヤージュに入る事を許されるような者達ではありません!」
「そうです、穢れが陛下に移ったらどう責任を取られるおつもりですか!」
まさかこの場で異議を唱える輩が出ようとは思ってもみなかった。
精神感応を使って探ってみる。
ふむ……口火を切った男はパント伯爵家の長男ヴィアンリ・パント。
成程、こいつはナヴィガポールをダージリン伯爵領に組み込んだ件を未だに根に持っているな。
「それに、祝福をしてやってどうなさるおつもりですか?」
「よもや、トラス王国中に自由に解き放つのではありませんよね?」
「そのような事になれば王国全体の治安が悪化し、穢れによる災厄も広まってしまいます!」
ヴィアンリ・パントに追随する形となった奴らはと言えば、それぞれネマランシ伯爵とムーランス伯爵の長男、加えてその寄り子貴族の子爵子息達であった。
親共々聖女にケチを付けたくて虎視眈々と機を伺っていたところに渡りに船、と。
いざとなったらヴィアンリ・パントが悪いと逃げるつもりのようだ。
彼らの暴挙に、貴族達は騒めき始める。各々の親は形だけ止めようとしているが、内心はもっとやれ、とほくそ笑んでいるのが分かった。
さて、どうしてくれようと思っていると。
「お気持ちは分かりますが、聖女様には聖女様のお考えがあられます。それは国王陛下もご臨席賜るこの場で騒ぎ立てる事ではないでしょう」
一人の青年貴族が出て来て彼らに対峙する。見覚えのあるその男は――
「トリスカル・ティヴリー卿、何を……!」
「何を悠長な……卿の領地とて穢れに晒されるかも知れないんですよ?」
「身の程を弁えられよ、子爵家如きが」
宿場町ポーで会食した、リプトン伯爵家の寄子貴族……だったと思う。
私は内心眉を顰めた。
こっちに味方してくれているようだが――何か引っかかるんだよな。どっちかというとあちら側に混ざってそうな貴族らしい人間。違和感半端ない。
そう思って精神感応を使うと、ああやっぱり。
私、というかキャンディ伯爵家に恩を売る事で鉄道優先権や商売の利益を得、上手く行けばリプトン伯爵家を乗っ取りたい、と。
フレールはトラス王国追放になってるし、現リプトン伯爵カーフィもアレマニアへ行ってしまった。元当主も父サイモンには頭が上がらない。
そういう動機で味方してくれてはいるが、こちらがどう出るか次第で裏切りもありの模様。このコウモリめが。
――全員後で覚えていろよ?
内心ビキビキしながら決意する。
馬の脚共が「聖女様のご前である、静まれ!」等と叫んでいるがいまいち効果は無いようだ。
私は精神感応で外にいるマイティ―とリーダーを呼ぶと、息を一つ吸い込み錫杖を床に打ち付けた。
「『静まれ!』」
直接全員の脳内に響かせる。
その効果は覿面で、一瞬にしてピタリと喧騒が止んだ。
二羽が聖堂内に飛来すると、前脚と後ろ脚の腕に止まる。
私はひた、とヴィアンリ・パント伯爵令息に視線を定めた。
「皆、よくお聞きなさい。彼らは私が選び、連れて来た私の民です。少なくとも王国や貴方の家には迷惑をかけることはない、と約束します」
そして、錫杖の先を突き付ける。
「彼らに関する責任は全て私が追いましょう――道を、あけなさい!」
マイティ―とリーダーは私の言葉と同時に飛び立つと、中央の道を塞ぐ男達に向かって飛んだ。
追い立てられて彼らが列に戻ると、二羽は再び馬の脚共の腕に戻る。
私は周囲に目配せをすると、祭壇から降りて真っ直ぐに歩き出した。
――ぬぐぐ、重い!
シナリオには無かったが仕方がない。少し慌てた様に馬の脚共が私の後ろに回ると、すぐに体が軽くなった。
引きずる部分を持ってくれたらしい。
グレイが手を取って支えてくれたので、一歩一歩、ゆっくりと進む。
何かを期待するようなトリスカル・ティヴリー子爵の前はスルー。恐縮するサイアの前まで来ると、私はグレイの手を離してその手を取った。
貴族達から小さな悲鳴が上がる。
『ごめん、支えて頂戴』
――今のマリーちゃんは、支え無しに歩けないの。
サイアは精神感応に目を見開いてんぐふっと鼻を鳴らしたが、直ぐに小さく頷いてグレイの代わりをしてくれた。
貴族共が騒いで小さな異変に気付かれなかったのは不幸中の幸いである。
再び祭壇に戻って儀式再開。
傾けた錫杖に頭を垂れるカナールの民達に、私は無事祝福を与えることが出来た。
グレイがサイア達にカラスが描かれた小物入れを渡していく。
ヴェスカルが厳かに告げた。
「虐げられ、苦しみながらも。聖女様を信じ、太陽神への信仰と希望を捨てなかったあなたがたに、聖女様はワタリガラスの紋章を授けられました。
今後、彼らは『コルボの民』と名乗ることになります。
この名には、エスパーニャ王国からやってきた太陽神の民、という意味が込められています」
カラスにも色々種類がいる。
何故『カラスの民』としなかったのかと言えば、外国人であった他、鳥ノ庄の隠密騎士に『カラス』の称号持ちが居たので慮ったのである。
ちなみにコルボの称号はこれまで使われたことはなかった。
「コルボの民は今後、ダージリン伯爵領に住まいと土地を与えられ、穏やかで静かな信仰と祈りの生活を送る事となるでしょう」
……というか、隠れ里めいたところに住んで貰う予定である。
聖女である私が祝福したとはいえ、先刻の貴族共を見て分かるように、差別意識はまだまだ根強い。
私とて彼らには幸せになって貰いたいと考えている。
サイアとも相談したが、最初は隔離された環境に住んで貰い、長い時間をかけて徐々に解放、そして同化へ、という流れでいくしかないという結論に至った。
仕事は砂糖製造に携わって貰えば一石二鳥である。その他、体力に自信があるならば金の採掘とか……金を稼がせて裕福になれば、同化も進めやすくなるだろう。
「我ら『コルボの民』、聖女様に全てをお捧げ致します! 聖女様の御為とあらば、命をも捨てる覚悟にございます!」
サイアが深く頭を垂れる。
コルボの民達は涙ぐみながら「聖女様万歳!」と口々に叫び出し、聖堂内に拍手が響き渡った。
トラス国王オディロンを始め、大半の貴族や聖職者達は「何と慈悲深い……!」等と称賛しているが、下心満載だからそう感動しないで欲しい。
罪悪感がちょびっと……いや、かなり頭をもたげるから!
サイアが答えて歩き出すと、居並ぶ貴族達が騒めいた。
カナールの民達は不安そうな面持ちで恐る恐るそれに続こうとした、その時――
「聖女様、お待ちください!」
鋭い声が上がった。歩みを止めるサイア達。見ると、貴族の一人が列から離れて転び出るところだった。
「正気ですか!? 聖女様御自ら賤民を祝福なさるなど!」
それに触発されたのか、もう一人、また一人と人数が増えていく。
「ヴィアンリ・パント卿の言う通りです、国王陛下や我ら貴族達と同じ場所にいる事は勿論、神聖なるノートルサンテヴィヤージュに入る事を許されるような者達ではありません!」
「そうです、穢れが陛下に移ったらどう責任を取られるおつもりですか!」
まさかこの場で異議を唱える輩が出ようとは思ってもみなかった。
精神感応を使って探ってみる。
ふむ……口火を切った男はパント伯爵家の長男ヴィアンリ・パント。
成程、こいつはナヴィガポールをダージリン伯爵領に組み込んだ件を未だに根に持っているな。
「それに、祝福をしてやってどうなさるおつもりですか?」
「よもや、トラス王国中に自由に解き放つのではありませんよね?」
「そのような事になれば王国全体の治安が悪化し、穢れによる災厄も広まってしまいます!」
ヴィアンリ・パントに追随する形となった奴らはと言えば、それぞれネマランシ伯爵とムーランス伯爵の長男、加えてその寄り子貴族の子爵子息達であった。
親共々聖女にケチを付けたくて虎視眈々と機を伺っていたところに渡りに船、と。
いざとなったらヴィアンリ・パントが悪いと逃げるつもりのようだ。
彼らの暴挙に、貴族達は騒めき始める。各々の親は形だけ止めようとしているが、内心はもっとやれ、とほくそ笑んでいるのが分かった。
さて、どうしてくれようと思っていると。
「お気持ちは分かりますが、聖女様には聖女様のお考えがあられます。それは国王陛下もご臨席賜るこの場で騒ぎ立てる事ではないでしょう」
一人の青年貴族が出て来て彼らに対峙する。見覚えのあるその男は――
「トリスカル・ティヴリー卿、何を……!」
「何を悠長な……卿の領地とて穢れに晒されるかも知れないんですよ?」
「身の程を弁えられよ、子爵家如きが」
宿場町ポーで会食した、リプトン伯爵家の寄子貴族……だったと思う。
私は内心眉を顰めた。
こっちに味方してくれているようだが――何か引っかかるんだよな。どっちかというとあちら側に混ざってそうな貴族らしい人間。違和感半端ない。
そう思って精神感応を使うと、ああやっぱり。
私、というかキャンディ伯爵家に恩を売る事で鉄道優先権や商売の利益を得、上手く行けばリプトン伯爵家を乗っ取りたい、と。
フレールはトラス王国追放になってるし、現リプトン伯爵カーフィもアレマニアへ行ってしまった。元当主も父サイモンには頭が上がらない。
そういう動機で味方してくれてはいるが、こちらがどう出るか次第で裏切りもありの模様。このコウモリめが。
――全員後で覚えていろよ?
内心ビキビキしながら決意する。
馬の脚共が「聖女様のご前である、静まれ!」等と叫んでいるがいまいち効果は無いようだ。
私は精神感応で外にいるマイティ―とリーダーを呼ぶと、息を一つ吸い込み錫杖を床に打ち付けた。
「『静まれ!』」
直接全員の脳内に響かせる。
その効果は覿面で、一瞬にしてピタリと喧騒が止んだ。
二羽が聖堂内に飛来すると、前脚と後ろ脚の腕に止まる。
私はひた、とヴィアンリ・パント伯爵令息に視線を定めた。
「皆、よくお聞きなさい。彼らは私が選び、連れて来た私の民です。少なくとも王国や貴方の家には迷惑をかけることはない、と約束します」
そして、錫杖の先を突き付ける。
「彼らに関する責任は全て私が追いましょう――道を、あけなさい!」
マイティ―とリーダーは私の言葉と同時に飛び立つと、中央の道を塞ぐ男達に向かって飛んだ。
追い立てられて彼らが列に戻ると、二羽は再び馬の脚共の腕に戻る。
私は周囲に目配せをすると、祭壇から降りて真っ直ぐに歩き出した。
――ぬぐぐ、重い!
シナリオには無かったが仕方がない。少し慌てた様に馬の脚共が私の後ろに回ると、すぐに体が軽くなった。
引きずる部分を持ってくれたらしい。
グレイが手を取って支えてくれたので、一歩一歩、ゆっくりと進む。
何かを期待するようなトリスカル・ティヴリー子爵の前はスルー。恐縮するサイアの前まで来ると、私はグレイの手を離してその手を取った。
貴族達から小さな悲鳴が上がる。
『ごめん、支えて頂戴』
――今のマリーちゃんは、支え無しに歩けないの。
サイアは精神感応に目を見開いてんぐふっと鼻を鳴らしたが、直ぐに小さく頷いてグレイの代わりをしてくれた。
貴族共が騒いで小さな異変に気付かれなかったのは不幸中の幸いである。
再び祭壇に戻って儀式再開。
傾けた錫杖に頭を垂れるカナールの民達に、私は無事祝福を与えることが出来た。
グレイがサイア達にカラスが描かれた小物入れを渡していく。
ヴェスカルが厳かに告げた。
「虐げられ、苦しみながらも。聖女様を信じ、太陽神への信仰と希望を捨てなかったあなたがたに、聖女様はワタリガラスの紋章を授けられました。
今後、彼らは『コルボの民』と名乗ることになります。
この名には、エスパーニャ王国からやってきた太陽神の民、という意味が込められています」
カラスにも色々種類がいる。
何故『カラスの民』としなかったのかと言えば、外国人であった他、鳥ノ庄の隠密騎士に『カラス』の称号持ちが居たので慮ったのである。
ちなみにコルボの称号はこれまで使われたことはなかった。
「コルボの民は今後、ダージリン伯爵領に住まいと土地を与えられ、穏やかで静かな信仰と祈りの生活を送る事となるでしょう」
……というか、隠れ里めいたところに住んで貰う予定である。
聖女である私が祝福したとはいえ、先刻の貴族共を見て分かるように、差別意識はまだまだ根強い。
私とて彼らには幸せになって貰いたいと考えている。
サイアとも相談したが、最初は隔離された環境に住んで貰い、長い時間をかけて徐々に解放、そして同化へ、という流れでいくしかないという結論に至った。
仕事は砂糖製造に携わって貰えば一石二鳥である。その他、体力に自信があるならば金の採掘とか……金を稼がせて裕福になれば、同化も進めやすくなるだろう。
「我ら『コルボの民』、聖女様に全てをお捧げ致します! 聖女様の御為とあらば、命をも捨てる覚悟にございます!」
サイアが深く頭を垂れる。
コルボの民達は涙ぐみながら「聖女様万歳!」と口々に叫び出し、聖堂内に拍手が響き渡った。
トラス国王オディロンを始め、大半の貴族や聖職者達は「何と慈悲深い……!」等と称賛しているが、下心満載だからそう感動しないで欲しい。
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