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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】
燃え上が~れ~♪燃え上が~れ~♪
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『お前達、会話を引き延ばして時間稼ぎをしろ』
『はっ』
『仰せの通りに』
私はカラスのリーダーに仲間集めを命じると、グレイ、カレル兄、女王リュサイに事の顛末を簡単に話した。
カレル兄が「まずいことになったな。どうする?」と囁くと、グレイが顔を上げる。
「身分証明は僕の印章だから、ここは僕が出るべきかと思う」
「他ならぬラブリアン辺境伯爵家のこと、私も出ましょう」
女王リュサイも名乗りを上げたところで、私はストップをかけた。
「皆、ちょっと待って。あの男を相手にしても、最終的な責任を取り切れないから意味ないわ。かと言ってラブリアン辺境伯に連絡しても間に合わない。ここは関所の責任者であるガストン男爵を引きずり出すべきね」
ガストン男爵を透視すると、何と娼婦とお楽しみだったようでベッドで高鼾。
良いご身分だ。実務を取り仕切るアントワーヌがここの実権を握っていることで増長するのも頷ける。
アントワーヌは内心男爵を見下しており、いつか成り代わってやろうという野望を抱いていた。
簡単に知らせるだけはしておこう、と精神感応でラブリアン辺境伯に現状を伝える。
辺境伯は『あやつめ、聖女様申し訳ございません!』とガストン男爵を罵り、『すぐに知らせを送ります!』と慌てふためいている。
間に合わないだろうと思ったが……成程、旗信号リレーをするようだ。頑張れば一時間程で伝わるだろう。
もし間に合わなければこちらで対処しても宜しいかしら、と訊くと、分かりました、と言質を貰う。
よし。
カァー! カァー! カァー!
馬車の遥か上ではリーダーとその仲間達が飛び回りながら救命の鳴き声を張り上げ始めていた。近隣の野性カラス達が集まるまで、何分かかかるだろう。
外では馬の脚共達が時間稼ぎを頑張っていた。
***
やや遠巻きではあるが、領兵に囲まれて一触即発の状態。流石に武器を抜き放った騎士相手に戦いとなれば非常にまずい状況になるのは理解しているらしい。
領兵達も、戸惑っている様子でアントワーヌを窺い見つつ武器を構えていた。
馬に乗った前脚が、領兵達を睨みつける。
「領兵で貴人の馬車を囲むなど! これは何の真似だ! ラブリアン辺境伯家はダージリン伯爵家、ひいては聖女マリアージュ様やキャンディ伯爵家と敵対するおつもりか!」
大音声で言い放つと、領兵達に動揺が走った。
それに追いうちをかけるように騎士ドナルドとエヴァン修道士も馬を動かして名乗りを上げる。
「私はカレドニア王国リュサイ女王陛下直属の高地の騎士、ドナルド・マクドナルド! 陛下はラブリアン辺境伯家とは浅からぬ血縁である! 貴殿らの主家の血筋の御方に無体を強いるのであれば、この剣が物を言うぞ!」
「私は聖女様の記録係をしているソルツァグマ修道院の修道士エヴァンと申します。忠告しておきます。武器を下ろさねば、大変なことになりますよ」
ざわざわと「これは流石にまずいのでは、」「大丈夫なのか」「聖女様の記録は教会で読んだことがある。その著者が確か修道士エヴァンだったような……」等と囁き合って顔を見合わせている。
領兵達の間から進み出て来たアントワーヌは、前脚達の言葉に多少怯んだようだった。
精神感応を使うと、聖女や王族まで出て来る可能性に、自分の置かれた状況のヤバさを今更ながら自覚。
如何にして男爵に責任を押し付け保身に走るかを脳裏で目まぐるしく計算している。
「申し訳ございません、私の合図が兵達に誤解を与えてしまったようです。手荒な真似をする気はありません。馬車の中に貴人がおられるのならば、警護も必要になると思っての事」
アントワーヌは愛想笑いを浮かべた直後、ぎろりと領兵達を睥睨する。彼らは慌てて武器を下ろした。
「この通り、兵達がお守りしておりますので、馬車からお出になっても安全かと存じます。関所破りについて、何かご存知でしたらお話をお聞かせ願いたいのですけれどねぇ?
ああ、そう言えばキーマン商会は私のようなものでも知っている大商会。それなりの誠意を見せて頂ければ、こちらとしても関所破りの被害に多少目をつぶりお通しすることはやぶさかではありませんが」
「何だと?」
私は馬の脚共に指示を飛ばした。
したたかなアントワーヌの狙いは、関所破りを捕まえる事から水増しした賠償を受け取って稼ぐ事にシフトしたようだ。男爵家に成り代わる為にも功績や先立つものが必要になる。
そもそも領都からの戒厳令はアントワーヌにとって賄賂を貰うボーナスステージ。因みにラブリアン辺境伯領から他領へ出る外国の商人達にも袖の下を要求していた。
金で解決するのは簡単だが……カナールの民による盗みや関所破りの件は、ラブリアン辺境伯と直々に話し合った方が良いだろう。
アントワーヌの要求に従うことは、身分の序列を乱し増長に拍車をかけて金を余計に取られるだけではなく、ラブリアン辺境伯の面子も潰すことだ。
無能のお飾り男爵にしろ、ラブリアン辺境伯の手で処断させねばならない。
頑張れ旗信号!
「関所破りや賠償の件は、ラブリアン辺境伯閣下と直々に話し合われると仰っている。そなたでは話にならぬ、この関所の責任者で一番身分の高いガストン男爵を今すぐ呼ぶが良い! それならば我が主たちが話をしても構わぬであろう」
「……男爵様をお呼びしろ」
馬車に近付き御用聞きの振りをした後、そう言い放った後ろ脚。ぐっと押し黙ったアントワーヌは、不機嫌そうに領兵の一人に命じた。
領兵が去っていった後――関所周辺の森が目覚め始める。
塒から飛び立ち、こちらへ真っ直ぐと向かって来る夥しい数のカラス達。
黒き太陽神の断罪の翼は、瞬く間に青空を埋め尽くした。
「ひぃ、何だあれは!?」
「な、何かカラスが沢山集まって来てない……か?」
「たまたまだ。怯むな! 邪魔であれば撃ち落とせ――っ!?」
動揺する領兵達。
彼らを叱咤しつつ銃に火を付けようとしたアントワーヌの手に、石がぶつけられた。
「何をする! 今のは敵対行為と見做すが良いか!?」
「それはこちらの台詞だ! 恐れ多くも太陽神の化身に武器を向けるなど、神敵になりたいのか! 神を恐れぬ罰当たり者共よ!」
銃を取り落として睨みつけ怒鳴るアントワーヌに、負けじと怒鳴り返す前脚。
「そう言えば聞いたことがある。神の化身たるカラス達は聖女様をお守りしているのだと」
「ま、まさか……あの馬車には、聖女様が」
「ひぃっ、申し訳ございません、申し訳ございません!」
震え声で会話する領兵達に、アントワーヌは顔面蒼白になった。
神の使いであるカラスに攻撃を仕掛けた事もそうだが、聖女が馬車に居る事が確定したも同然だからだ。
恐れを抱いた領兵の一人が震えながら贖罪の言葉を口にした時、ガストン男爵を呼びに行った兵が気まずそうに戻って来た。
「も、申し訳ありません、男爵様は今……その、お取込み中でして。話を碌に聞いて頂く間も無く、責任は全て男爵様が被るのでよきに計らうように仰せられてしまい……」
「まずい、このままでは私の責任問題に……首に縄を掛けてでもお連れするのだ!」
「しかし!」
リーダーの視界から切り替えてガストン男爵を再び透視すると、今まさに真っ裸で二回戦をしようとしていた。
汚い尻とある一点に、思わず冷笑が漏れる。
ふっ……粗末な。
真昼間からお熱いことである。親切な私は、そんなガストン男爵の情熱の為に少々燃え上がるお手伝いをしてやろう。巨大ロボットアニメの主題歌のようにな!
それから数分もしない内。
関所から燃えてズタボロになった衣服を身に纏ったガストン男爵が、カラスや犬に追い立てられ慌てふためいて転び出て来るのが見えた。
『はっ』
『仰せの通りに』
私はカラスのリーダーに仲間集めを命じると、グレイ、カレル兄、女王リュサイに事の顛末を簡単に話した。
カレル兄が「まずいことになったな。どうする?」と囁くと、グレイが顔を上げる。
「身分証明は僕の印章だから、ここは僕が出るべきかと思う」
「他ならぬラブリアン辺境伯爵家のこと、私も出ましょう」
女王リュサイも名乗りを上げたところで、私はストップをかけた。
「皆、ちょっと待って。あの男を相手にしても、最終的な責任を取り切れないから意味ないわ。かと言ってラブリアン辺境伯に連絡しても間に合わない。ここは関所の責任者であるガストン男爵を引きずり出すべきね」
ガストン男爵を透視すると、何と娼婦とお楽しみだったようでベッドで高鼾。
良いご身分だ。実務を取り仕切るアントワーヌがここの実権を握っていることで増長するのも頷ける。
アントワーヌは内心男爵を見下しており、いつか成り代わってやろうという野望を抱いていた。
簡単に知らせるだけはしておこう、と精神感応でラブリアン辺境伯に現状を伝える。
辺境伯は『あやつめ、聖女様申し訳ございません!』とガストン男爵を罵り、『すぐに知らせを送ります!』と慌てふためいている。
間に合わないだろうと思ったが……成程、旗信号リレーをするようだ。頑張れば一時間程で伝わるだろう。
もし間に合わなければこちらで対処しても宜しいかしら、と訊くと、分かりました、と言質を貰う。
よし。
カァー! カァー! カァー!
馬車の遥か上ではリーダーとその仲間達が飛び回りながら救命の鳴き声を張り上げ始めていた。近隣の野性カラス達が集まるまで、何分かかかるだろう。
外では馬の脚共達が時間稼ぎを頑張っていた。
***
やや遠巻きではあるが、領兵に囲まれて一触即発の状態。流石に武器を抜き放った騎士相手に戦いとなれば非常にまずい状況になるのは理解しているらしい。
領兵達も、戸惑っている様子でアントワーヌを窺い見つつ武器を構えていた。
馬に乗った前脚が、領兵達を睨みつける。
「領兵で貴人の馬車を囲むなど! これは何の真似だ! ラブリアン辺境伯家はダージリン伯爵家、ひいては聖女マリアージュ様やキャンディ伯爵家と敵対するおつもりか!」
大音声で言い放つと、領兵達に動揺が走った。
それに追いうちをかけるように騎士ドナルドとエヴァン修道士も馬を動かして名乗りを上げる。
「私はカレドニア王国リュサイ女王陛下直属の高地の騎士、ドナルド・マクドナルド! 陛下はラブリアン辺境伯家とは浅からぬ血縁である! 貴殿らの主家の血筋の御方に無体を強いるのであれば、この剣が物を言うぞ!」
「私は聖女様の記録係をしているソルツァグマ修道院の修道士エヴァンと申します。忠告しておきます。武器を下ろさねば、大変なことになりますよ」
ざわざわと「これは流石にまずいのでは、」「大丈夫なのか」「聖女様の記録は教会で読んだことがある。その著者が確か修道士エヴァンだったような……」等と囁き合って顔を見合わせている。
領兵達の間から進み出て来たアントワーヌは、前脚達の言葉に多少怯んだようだった。
精神感応を使うと、聖女や王族まで出て来る可能性に、自分の置かれた状況のヤバさを今更ながら自覚。
如何にして男爵に責任を押し付け保身に走るかを脳裏で目まぐるしく計算している。
「申し訳ございません、私の合図が兵達に誤解を与えてしまったようです。手荒な真似をする気はありません。馬車の中に貴人がおられるのならば、警護も必要になると思っての事」
アントワーヌは愛想笑いを浮かべた直後、ぎろりと領兵達を睥睨する。彼らは慌てて武器を下ろした。
「この通り、兵達がお守りしておりますので、馬車からお出になっても安全かと存じます。関所破りについて、何かご存知でしたらお話をお聞かせ願いたいのですけれどねぇ?
ああ、そう言えばキーマン商会は私のようなものでも知っている大商会。それなりの誠意を見せて頂ければ、こちらとしても関所破りの被害に多少目をつぶりお通しすることはやぶさかではありませんが」
「何だと?」
私は馬の脚共に指示を飛ばした。
したたかなアントワーヌの狙いは、関所破りを捕まえる事から水増しした賠償を受け取って稼ぐ事にシフトしたようだ。男爵家に成り代わる為にも功績や先立つものが必要になる。
そもそも領都からの戒厳令はアントワーヌにとって賄賂を貰うボーナスステージ。因みにラブリアン辺境伯領から他領へ出る外国の商人達にも袖の下を要求していた。
金で解決するのは簡単だが……カナールの民による盗みや関所破りの件は、ラブリアン辺境伯と直々に話し合った方が良いだろう。
アントワーヌの要求に従うことは、身分の序列を乱し増長に拍車をかけて金を余計に取られるだけではなく、ラブリアン辺境伯の面子も潰すことだ。
無能のお飾り男爵にしろ、ラブリアン辺境伯の手で処断させねばならない。
頑張れ旗信号!
「関所破りや賠償の件は、ラブリアン辺境伯閣下と直々に話し合われると仰っている。そなたでは話にならぬ、この関所の責任者で一番身分の高いガストン男爵を今すぐ呼ぶが良い! それならば我が主たちが話をしても構わぬであろう」
「……男爵様をお呼びしろ」
馬車に近付き御用聞きの振りをした後、そう言い放った後ろ脚。ぐっと押し黙ったアントワーヌは、不機嫌そうに領兵の一人に命じた。
領兵が去っていった後――関所周辺の森が目覚め始める。
塒から飛び立ち、こちらへ真っ直ぐと向かって来る夥しい数のカラス達。
黒き太陽神の断罪の翼は、瞬く間に青空を埋め尽くした。
「ひぃ、何だあれは!?」
「な、何かカラスが沢山集まって来てない……か?」
「たまたまだ。怯むな! 邪魔であれば撃ち落とせ――っ!?」
動揺する領兵達。
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「何をする! 今のは敵対行為と見做すが良いか!?」
「それはこちらの台詞だ! 恐れ多くも太陽神の化身に武器を向けるなど、神敵になりたいのか! 神を恐れぬ罰当たり者共よ!」
銃を取り落として睨みつけ怒鳴るアントワーヌに、負けじと怒鳴り返す前脚。
「そう言えば聞いたことがある。神の化身たるカラス達は聖女様をお守りしているのだと」
「ま、まさか……あの馬車には、聖女様が」
「ひぃっ、申し訳ございません、申し訳ございません!」
震え声で会話する領兵達に、アントワーヌは顔面蒼白になった。
神の使いであるカラスに攻撃を仕掛けた事もそうだが、聖女が馬車に居る事が確定したも同然だからだ。
恐れを抱いた領兵の一人が震えながら贖罪の言葉を口にした時、ガストン男爵を呼びに行った兵が気まずそうに戻って来た。
「も、申し訳ありません、男爵様は今……その、お取込み中でして。話を碌に聞いて頂く間も無く、責任は全て男爵様が被るのでよきに計らうように仰せられてしまい……」
「まずい、このままでは私の責任問題に……首に縄を掛けてでもお連れするのだ!」
「しかし!」
リーダーの視界から切り替えてガストン男爵を再び透視すると、今まさに真っ裸で二回戦をしようとしていた。
汚い尻とある一点に、思わず冷笑が漏れる。
ふっ……粗末な。
真昼間からお熱いことである。親切な私は、そんなガストン男爵の情熱の為に少々燃え上がるお手伝いをしてやろう。巨大ロボットアニメの主題歌のようにな!
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「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
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