貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

グレイ・ダージリン(78)

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 泣き止んだマリーがイルカや白鯨達に何やら別れを伝える。
 すると、一頭のイルカが飛び上がって僕達のボートの上を飛び越えて行き、他のイルカ達も次々にそれに続いた。
 イルカ達なりの別れの挨拶なのだろう。
 イルカが去ると、今度は離れた場所で白鯨ともう一頭のクジラが飛び上がって海に沈んで行く。
 船の上から歓声が上がった。マリーが手を振り、それを見送っている。僕も感謝の気持ちを込めて黙礼した。
 まるでお伽話のような光景だった。

 船から鉤の付いた縄が下ろされ、マルコがボートの両端にある金具に引っ掛ける。

 「よし、引き上げてくれ!」

 僕達が船上に無事降り立つと、前脚と後ろ脚、サリーナががわっとマリーに群がった。口々にマリーの無事を喜び、また自分の油断を悔やんでいる。
 そんな彼らに自害等はせず二度目がないように、とマリーが宥める。三人共、真摯な表情で頷いていた。

 「皆さん、私を救出する為に尽力下さり、誠に感謝しております」

 マリーはナーテやエヴァン修道士、ファリエロ他皆に無事を祝われ、礼を述べている。
 サリーナが大きな吸水布を彼女の肩に掛けた。

 「マリー様、濡れたままだと風邪をひいてしまいます。お着替えを」

 「ありがとう、サリーナ」

 ナーテが僕にも着替えるように言ってきたけれど、僕は一人でも着替えられるからと断った。濡れたマリーは手早く着替えさせなければいけないのでサリーナを手伝って欲しいと頼む。
 船室へと消えていく彼女達を見送った僕は、予定通りコスタポリへ向かうように命じた。
 ガリア王国のシルヴィオ第一王子殿下にお会いして協力のお礼をするのが礼儀だし、海水で濡れて体を冷やしたマリーにも湯浴みが必要だ。

 手早く着替えて戻ると、ファリエロが他の船にもマリーの無事を伝達してくれていた。リノが『よかったな』と手旗を振り、こちらも『ありがとう』と振り返す。
 それが終わる頃には帆が再び張られており、船が進み始めた。

 多少手持無沙汰になると、やはり話題になるのは先程の光景で。

 「いやー、後にも先にもあんな奇跡の光景は二度とお目にかかれないだろうな」

 「本当に、船長殿。私も聖女マリアージュ様にお会いするまでは、いにしえに語られた初代聖女様の奇跡は誇張が入っていると考えておりましたが……今では実際に起こったことなのだと確信を強めています」

 「し、死ぬかと思いました……」

 「はっはっは、男を上げたなマルコ!」

 ファリエロとエヴァン修道士、船乗りのマルコのそんな会話。エヴァン修道士は器用にも手帳を片手に書き込みながら話に応じていた。
 気になった僕は、そっと横から覗いてみる。
 そこにはびっしりと書きなぐられた文字と、イルカに跨って白鯨達やイルカ達を従えるマリーの絵。

 これ、『聖女マリアージュ伝』とやらの何巻目かに書くつもり……なんだろうなあ。

 「エヴァン修道士はなかなか絵心があるんですね。でも、今回の事は誘拐犯が誘拐犯なので表沙汰には出来ませんよ?」

 僕やマリーが死んだ後ならまだしも、関係者が生きている今、この内容はちょっと外交的にも不味い。
 皇太子オスマンやアーダム皇子の悪事を明るみにすることは出来ない。
 そう言うと、エヴァン修道士は重々しく頷いた。

 「存じております。ご安心を、これは私だけの聖女様の記録なので。それと、伝記ですが初代聖女様の伝説としてでっちあ……ゴホン、見做すなどやりようは色々ありますよ」

 今、でっち上げって言った……?

 修道士なのにそんなんでいいんだろうか。衝撃を受けていると、背後のカールが忍び笑いをしている。

 「わかりました。一応、本にする前に僕やサイモン様にもちゃんと見せて下さいね」

 「勿論です。イルカやクジラ達は神の娘を助けた奇跡――聖獣と認定すべく教皇猊下に進言せねば!」

 一応釘を刺すも、意気込んでいるエヴァン修道士。大丈夫かなあ……。



 僕はこの時まだ知らなかったけれど、実はマリーは既にそう決めていたようだ。
 そして遠くない未来、イルカとクジラが聖獣として認定され、ナヴィガポール、コスタポリ、聖地に彫像が建つこととなる。


***


 「マリーは」

 「疲れが一気に出られたようで、お休みになっています」

 もう着替えただろうかと彼女を訪ねると、前脚ヨハン後ろ脚シュテファンが部屋の前に陣取っていた。
 サリーナによれば全身を拭いて着替えた後、生姜と蜂蜜入りの紅茶を飲んですぐに眠ってしまったらしい。

 「グレイ様、添い寝をしてマリー様のお体を温めて頂けないでしょうか?」

 「えっ?」

 その言葉に思わず頬が熱くなる。
 確かに船の上で暖炉は使えない。また、マリーに添い寝出来るのは夫である僕ぐらいなものだろう。
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