貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

文字の大きさ
上 下
393 / 689
うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

神の刻印。

しおりを挟む
「此度は貴殿のおかげで私の大切な家族が助かった。礼を言う」
王は立ち上がり俺に頭を下げたのだ。それに倣い、後ろに控える王子殿下、王女殿下。そして、両側に控えている貴族やお妃様方までただの人間兵器でしかない俺に頭を下げるのだ。
もはやパニック!!
「あ、え、い、あの、たいした事をしたわけではないのですから、お顔をどうかあげてください」
しどろもどろに俺が言葉を口にすると、漸く王が頭をお上げになってくださり、皆もそれに倣ってくれたので、俺は心底ほっとしたわ。
「貴殿が施したことがたいしたことなどないとは、絶対にそれはありえぬ。実際我らができぬことを貴殿が行ってくれた。感謝しかないのだよ」
「そのお気持ちだけで結構です。私ができることをしたまでですから。それにジオルド殿下のお気持ちが痛いほど私に伝わってきました。正直そのお気持ちがなければ私は行動を起こしておりません。感謝はジオルド殿下にお願いいたします」
実際、ジオルドの弟を思う気持ちがなければ俺は解呪をしていない。解呪をしたその先が不透明だからだ。だけど、彼の思いは純粋な愛が多分にあったから助けただけにすぎないのだ。
「そうであったか。ジオルド、お主のその気持ちがジルフォードとサーシャを救ったのだな。よい子を私は持った」
「有り難きお言葉」
陛下とジオルドの表情は心が安らぐくらい穏やかで、そして慈しみに溢れていた。
羨ましい。
俺には家族と呼べる者が一人もいなくて、慈愛など向けられたことすらない。
それに、
「しかし、スイ殿。何度も言うが、貴殿のおかげなのだ。貴殿がこの世界に召喚されていなければ、私はもう少しで愛おしい二人を亡くしていたのだ。何度でも礼を言わせてくれ」
もう堪らなかった。
我慢の限界だった。
目から止めどなく水が溢れ、止めることが難しいほど俺の感情は乱されて。
「スイっ!?」
ジオルドが俺に駆け寄ってきて、抱きしめてくれる。
「どうした?何が悲しいの?何が駄目だった?」
ジオルドの腕の中で俺は頭を横に振る。
「ちが、だ、って、俺、今まで感謝されたことない・・・・・心のこもった感謝なんて一度もないんだよ・・・」
「っ!!スイ、君はいったいどんな生活を強いられていたんだ・・・・・」
聞かれても応えられない。だって、その生活が「当たり前」だっただけで、決して不幸と思ったことはないのだ。だから「強いられた環境」だとは思ってもいなかった。
ジオルドは俺の頭をゆっくりと優しく撫で、
「いつか君のことをゆっくりでいいから教えてくれ」
言葉に出来ない俺は、頷くことしか出来なかった。
ジオルドは胸からチーフを取りだし、俺の目元をそっと拭う。
もう涙は涸れ、水滴だけが残っていたようだ。
「もう、大丈夫・・・・・ごめ・・・んじゃない、ありがとう」
「うん、どういたしまして」
ジオルドはその場から立ち上がり、元の位置に戻っていった。その姿はやはり神々しくて、そして、愛おしくて・・・・・・。
もう、俺の心はたぶん、ジオルドに捕まってしまったんだろうな。
と、一人感慨に耽っていたのに、こそっと「やはりジオルドの妃に相応しいわ!」というお言葉が聞こえて参りましたとも。このお声の主は絶対にジオルドのお母様のサーシャ様だ。
そのお姿を目に留めると、「うふふ☆」とにっこりと笑い、手を振ってくれるが、目が超マジで怖いんですけどぉぉぉぉぉ!!
「ごほん!もうそろそろ話を進めても良いかな?」
「あ、話の腰を折り大変申し訳ございません」
本当に本当に本当に申し訳ないし、人前で泣くなんて恥ずかしいし、つか何年ぶりに泣いた俺?記憶にございません!
「スイ殿、謝らなくて良い。話の続きだが、君に褒美を与えたいのだ。欲しい物は何かないか?何でも良い、金でも地位でも、私が与えられる物に限るが」
「では、私はこの世界に来たばかりで、衣食住全てを持ち合わせていません。ですので、仕事と住む家をいただきたい」
「それには心配は及ばん。ジルフォード」
「はい、陛下」
ジルフォードは手に黒の布を持って俺の前に来て、俺の服のエポーレットにその布を留めたのだ。
「スイレン・フウマ、貴殿に第四騎士団団長の任を与える」
「っ!!ドウイウコトデスカ?」
「俺は一生部屋から出ることが出来ないと思っていたから、専属の騎士団がないのだ。でも、スイのおかげで俺は国のために動くことができる。そのためには俺にも騎士団が必要だ。だから、その団長を君に勤めて貰いたい。ということで、これで職に関しては問題ないな。後は住居だけど・・・」
何故かジルフォードは兄のジオルドを見る。
「とりあえず住むところは何カ所か候補があるから心配はしなくていいよ。私が責任をもってスイの生活を支えるから」
と、何故か夫婦みたいな言い方をジオルドにされました。
だからさ~何でサーシャ様は喜んでんの!?めっちゃ「きゃっ☆」という声聞こえてますからね!!
「スイ殿、君が望んだ物は既にこちらで手配済みなので、他の物で欲しい物はないのか?」
「今は特にありません。不自由なく暮らせることが私の欲しい物です」
こちらの世界に来て、森で生きていこうと思った。俺にとって煩わしい人間に関わらず、動植物たちとだけ関わる生活を望んだ。だけど、愛しい者たちが出来てしまった。この者たちが不自由なく暮らせる世界を作りたい。それだけが本当の望みだ。しかし、俺の考えは陛下にはお見通しで、
「・・・・・・スイ殿の想いはとてつもなく重く、そして、愛おしい。約束をしよう。貴殿も不自由なく暮らせるよう誠心誠意尽くそうと」
「有り難き幸せ」
再び俺は頭を下げる。感謝でまた涙が出てきそうだ。俺こんなに涙脆かったか?
「それに、貴殿にはジオル、お、これはまだ言ってはならなんだな。ま~おいおい話していこう」
陛下、何か気になることをおっしゃられようといたしませんでしたでしょうか?どうか途中でお止めにならないでください!それが一番俺が知りたい内容かもしれないのですから!!
「さて、では、貴殿には我が国の騎士団の団長副団長と一戦を交えて貰う。それで、正式な騎士団長の就任となる」
「御意に」
しおりを挟む
感想 924

あなたにおすすめの小説

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。 レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。 【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)

この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

めぐめぐ
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。魔法しか取り柄のないお前と』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公が、パーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー短編。 ※思いつきなので色々とガバガバです。ご容赦ください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。 ※単純な話なので安心して読めると思います。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。