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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】
グレイ・ダージリン(7)
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サイモン様の執務室。
僕はカーフィ・リプトン伯爵の報告に立ち会っていた。
神聖アレマニア帝国から来るであろうちょっかいに対し、僕達は王都を離れて逃げ回る選択を取る事を決めていた。
僕としても拝領したダージリン伯爵領を見て手入れをしないといけないから丁度良かったと思う。
領地への旅は何とサイモン様も付いてきて下さる事になった。だからその前にカーフィを呼び出し、リプトン伯爵家の状況報告を訊こうという訳だ。
ちなみに王都へ残るのはトーマス様とキャロライン様のお二人。サイモン様曰く、「丁度良い試練だ」との事。
そんな事を思い出しながら 僕は目の前のカーフィを見つめた。
彼は椅子にゆったりと座るサイモン様の御前に跪き、「サイモン閣下、そしてグレイ枢機卿猊下――ご機嫌麗しく」等と挨拶の口上を述べている。
立ち上がる事を許されたカーフィに、サイモン様が報告を催促した。
「それで。カーフィよ、リプトン伯爵領の報告を聞こうか」
「ははっ、試験的に導入された少額の銀行券は着実に広まっております。移行期間が終わる頃には根付くでしょう」
そう――リプトン伯爵領は現在貨幣を銀行券に移行する実験が行われていた。
移行期間に限り、銀行券に両替した場合一割多く貰える。キーマン商会の支店や僕達の支配下にある店や行商人でも両替を受け付け、買い物は銀行券に限った。
店で働く従業員も銀行券で給料を貰うようにしている。
領地から出て行く際等、銀行券から王国貨幣に両替する際は逆に手数料を取るようにした。
その結果、銀行券は無事に広まったようだ。
両替された王国貨幣は銀行の金庫へ預けられている。領内を出回っているのは銀行券。リプトン伯爵家のお金は一見元の二倍になっている状態にあった。
マリーはここから調整しながら銀行券を刷り、領内の教育や産業に投資して生産量を増やしていくと言っていた。
物が増えて余れば銀行券の価値が上がるので物価が下がる。逆も然り。
要は調整の問題で、銀行券は物価が2%上がる程度に刷るのが良いのだそうだ。生産量を増やしながら人々への給金も上げていく。
生産量が増え、給料として渡される銀行券も増えれば人々はこぞって買い物をするので豊かになっていく。
豊かになれば研究する余裕も出来、技術も新たなものが生まれたり向上したりしていく。その好循環を生み出す事が目標らしい。
カーフィは報告を続けた。
「作付けでは、寒さに強い蕎麦、ジャガイモ、カブや葉物野菜類を増やしている真っ最中でございます。
昨年一昨年豊作だった小麦を一部使って保存食作りも大分進んでおります。
特に聖女様の仰った『パスタ』や『マカロニ』は瓶詰めにすれば数年保存可能とか。
これで試験的に仕込ませた新しいワインが実現すれば言う事無しなのでございますが」
新しいワインは『貴腐ワイン』というそうだ。白ワイン用の葡萄で、灰白カビが生えて萎びるまで放置してから仕込む。
勿論この知識はマリーからもたらされたもの。とろりと蜂蜜のように甘く香り高いワインが出来るという。
リプトン伯爵家の領地は平地が多く、葡萄の他、小麦や大麦と言った穀物を豊富に産出している。ここ数年は豊作になり過ぎて穀物価格が下落する程。
かつてチャーリー・リプトン前伯爵に危険な投資をさせ借金を負わせるカーフィの企みが成功したのもそれが大きな理由だったのだろうと思う。
マリーの予言があって、僕はトラス王国へ帰ってすぐ小麦の確保に走った。
勿論、サイモン様にも進言したのでリプトン伯爵家が抱えていた余剰小麦在庫は全て売約済み。カーフィが報告したように、小麦を出来るだけ長く保存出来るように加工させている最中だ。
勿論小麦価格が高騰し過ぎないようにカーフィの取り分も考えて色々と手を尽くして調整はしている。
その他、先日の事があってから僕はマリーに頼んで神聖アレマニア帝国にある支店へ連絡を入れて貰った。
不寛容派勢力がマリーの言う事を信じず何ら手を打っている様子もなければ小麦を買い占めるように指示してある。
輸送の際の万が一を考えて、キャロライン様経由でフォション辺境伯にも根回し済みだ。きっと快く腕が立つ者達を貸して下さる事だろう。
「ご苦労」
報告が終わると、サイモン様が鷹揚に頷く。そう言えば僕も報告する事があったんだ。
「義父様、キャンディ伯爵領及びリプトン伯爵領の各街道の点検と整備はかなり進みました。ナヴィガポールからは干物も増産体制が整ったとの報告があり、港も拡張工事が進められております」
工事や漁業への投資のお蔭でナヴィガポールは人が集まり活気付いているそうだ。
ファリエロ一家や交易所のランベール達も通常の交易に加え、コスタポリへの物資運搬等で大忙しになっている。最近受け取った報告ではコスタポリは大分復興してきているとの事。
それが落ち着いたら今度はシルヴィオ殿下やピロス公爵の主導で増産された食料輸入。
ナヴィガポールは大いに賑わうだろう。
出来る限りの対策は取った。
少なくとも僕達の領地の民は飢える事は無いと確信している。
僕はカーフィ・リプトン伯爵の報告に立ち会っていた。
神聖アレマニア帝国から来るであろうちょっかいに対し、僕達は王都を離れて逃げ回る選択を取る事を決めていた。
僕としても拝領したダージリン伯爵領を見て手入れをしないといけないから丁度良かったと思う。
領地への旅は何とサイモン様も付いてきて下さる事になった。だからその前にカーフィを呼び出し、リプトン伯爵家の状況報告を訊こうという訳だ。
ちなみに王都へ残るのはトーマス様とキャロライン様のお二人。サイモン様曰く、「丁度良い試練だ」との事。
そんな事を思い出しながら 僕は目の前のカーフィを見つめた。
彼は椅子にゆったりと座るサイモン様の御前に跪き、「サイモン閣下、そしてグレイ枢機卿猊下――ご機嫌麗しく」等と挨拶の口上を述べている。
立ち上がる事を許されたカーフィに、サイモン様が報告を催促した。
「それで。カーフィよ、リプトン伯爵領の報告を聞こうか」
「ははっ、試験的に導入された少額の銀行券は着実に広まっております。移行期間が終わる頃には根付くでしょう」
そう――リプトン伯爵領は現在貨幣を銀行券に移行する実験が行われていた。
移行期間に限り、銀行券に両替した場合一割多く貰える。キーマン商会の支店や僕達の支配下にある店や行商人でも両替を受け付け、買い物は銀行券に限った。
店で働く従業員も銀行券で給料を貰うようにしている。
領地から出て行く際等、銀行券から王国貨幣に両替する際は逆に手数料を取るようにした。
その結果、銀行券は無事に広まったようだ。
両替された王国貨幣は銀行の金庫へ預けられている。領内を出回っているのは銀行券。リプトン伯爵家のお金は一見元の二倍になっている状態にあった。
マリーはここから調整しながら銀行券を刷り、領内の教育や産業に投資して生産量を増やしていくと言っていた。
物が増えて余れば銀行券の価値が上がるので物価が下がる。逆も然り。
要は調整の問題で、銀行券は物価が2%上がる程度に刷るのが良いのだそうだ。生産量を増やしながら人々への給金も上げていく。
生産量が増え、給料として渡される銀行券も増えれば人々はこぞって買い物をするので豊かになっていく。
豊かになれば研究する余裕も出来、技術も新たなものが生まれたり向上したりしていく。その好循環を生み出す事が目標らしい。
カーフィは報告を続けた。
「作付けでは、寒さに強い蕎麦、ジャガイモ、カブや葉物野菜類を増やしている真っ最中でございます。
昨年一昨年豊作だった小麦を一部使って保存食作りも大分進んでおります。
特に聖女様の仰った『パスタ』や『マカロニ』は瓶詰めにすれば数年保存可能とか。
これで試験的に仕込ませた新しいワインが実現すれば言う事無しなのでございますが」
新しいワインは『貴腐ワイン』というそうだ。白ワイン用の葡萄で、灰白カビが生えて萎びるまで放置してから仕込む。
勿論この知識はマリーからもたらされたもの。とろりと蜂蜜のように甘く香り高いワインが出来るという。
リプトン伯爵家の領地は平地が多く、葡萄の他、小麦や大麦と言った穀物を豊富に産出している。ここ数年は豊作になり過ぎて穀物価格が下落する程。
かつてチャーリー・リプトン前伯爵に危険な投資をさせ借金を負わせるカーフィの企みが成功したのもそれが大きな理由だったのだろうと思う。
マリーの予言があって、僕はトラス王国へ帰ってすぐ小麦の確保に走った。
勿論、サイモン様にも進言したのでリプトン伯爵家が抱えていた余剰小麦在庫は全て売約済み。カーフィが報告したように、小麦を出来るだけ長く保存出来るように加工させている最中だ。
勿論小麦価格が高騰し過ぎないようにカーフィの取り分も考えて色々と手を尽くして調整はしている。
その他、先日の事があってから僕はマリーに頼んで神聖アレマニア帝国にある支店へ連絡を入れて貰った。
不寛容派勢力がマリーの言う事を信じず何ら手を打っている様子もなければ小麦を買い占めるように指示してある。
輸送の際の万が一を考えて、キャロライン様経由でフォション辺境伯にも根回し済みだ。きっと快く腕が立つ者達を貸して下さる事だろう。
「ご苦労」
報告が終わると、サイモン様が鷹揚に頷く。そう言えば僕も報告する事があったんだ。
「義父様、キャンディ伯爵領及びリプトン伯爵領の各街道の点検と整備はかなり進みました。ナヴィガポールからは干物も増産体制が整ったとの報告があり、港も拡張工事が進められております」
工事や漁業への投資のお蔭でナヴィガポールは人が集まり活気付いているそうだ。
ファリエロ一家や交易所のランベール達も通常の交易に加え、コスタポリへの物資運搬等で大忙しになっている。最近受け取った報告ではコスタポリは大分復興してきているとの事。
それが落ち着いたら今度はシルヴィオ殿下やピロス公爵の主導で増産された食料輸入。
ナヴィガポールは大いに賑わうだろう。
出来る限りの対策は取った。
少なくとも僕達の領地の民は飢える事は無いと確信している。
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