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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】
珍道中な予感(不安しかない)。
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かくして、領地への旅の準備が進められる事になった。
メンバーは祖父ジャルダン、祖母ラトゥ、父サイモン、母ティヴィーナ、グレイと私、イドゥリースとスレイマン、ヴェスカル、イサーク、メリーにアルトガル。
それにそれぞれの専属侍女やヨハン達を始めとする隠密騎士、護衛(※隠密じゃない方の騎士や衛士達)が着いて来る。
弟妹達の希望でヘドヴァンも連れて行く事になった。
留守番役の兄達を除けばほぼほぼ家族旅行である。イサークとメリーは大はしゃぎだ。
***
「サリーナ、最低限の動きやすい服で良いわ。急ぎの旅なら道中お招きに与るような呑気なものじゃないだろうし、ドレスなんて着る機会無さそう。持って行ったって嵩張るだけ。
どうしてもドレスが足りなければ領地で仕立てても良いわね。お金を落として市場を潤わせる事も貴族の役目だもの。
そうそう、サリーナ達の故郷の山へ行くなら寧ろ庭師達のような服装も必要ね」
部屋で荷造りする服を選別しているサリーナに私はそう告げた。
他の家族が居るから多少スピードは緩いだろうが、私は忘れない――ナヴィガポールから王都まで駆け抜けた、キングオブ深夜馬車を。
そう言えば、あの時も大部分の荷物は後からだったっけ。
「サイモン様がいらっしゃるとドレスが必要になる事もあるのでは? 流石に庭師のような服装はどうかと思いますが……」と渋るサリーナ。
何せ大所帯の旅である。
彼女としては万が一を考えて色々持っていこうとしているのだろうが、生憎私は実用主義だ。
「ドレスは一着あれば。後、山に貴族令嬢然としたドレス姿もどうかと思うわ。山を舐めてるトンチキ馬鹿としか思えないもの」
前世、友達がサンダルに可愛いワンピでデートに出掛けた所、彼氏の気まぐれでいきなり山へ連れて行かれ、岩場とか歩く羽目になり散々な目に遭ったらしい。
山でお貴族様ドレスにヒール靴とか場違いすぎて糞の役にも立たん。
「……確かにそうかも知れませんが、途中までは馬車でも行けますし、そこからは馬でお連れする事になるかと思います。ですので伯爵夫人として相応しいお召し物でも」
肯定しつつも微妙な表情。
私の言い分を理解しつつも、伯爵夫人としてはどうなのか、と同意しかねる感じか。
「サリーナも山で育ったんなら分かるでしょ? 自然が豊か過ぎて狂暴な熊や狼も出没するだろうし、ドレスなんて襲ってくれと言っているようなものじゃない。
身分云々よりも万が一を考えれば動きやすい服が一番だわ。
山へ行く服はあれが良いわ。ほら、去年私がトーマス兄の画材を借りて作った迷彩効果のあるマント覚えてる?
あの布を使った長袖にズボン。出発までに仕立てさせる事は出来る?」
虫に噛まれたりトゲや毒のある草に触れて怪我したりかぶれたりするのはごめんだ。むしろ自衛隊陸軍装備を一式寄越せぐらいの勢いである。
私の言葉にサリーナは思案気に天井にちらりと視線を向けた。
「そうですね……隠密騎士用に幾つか出来上がっている新品がございますが、それをマリー様に合わせる形で仕立て直す事なら可能です。
しかし良いのですか? あまり肌触りが良いとは言えない、丈夫さだけが取り柄の厚手で武骨な服ですが」
「ええ、構わないわ。むしろそうでないと山歩きには向かないもの。それでお願いできる? 後はグレイの分と。他の家族で希望者があれば」
手間をかけるけどごめんね、と畳み込む。
一歩も譲らない様子の私に、サリーナは大きく息を吐いて「かしこまりました」と頷いた。
***
領地を見回る為に王都を暫し留守にする旨を事情と共にサクッと手紙でメティや三夫人に知らせた後、私はソルツァグマ修道院へ挨拶に顔を出した。
ナヴィガポールにエトムント・サラトガル枢機卿を迎えに行くのは同じ教会関係者の方が良いだろうと思ってメンデル修道院長に相談していると、
「聖女様ああああ――! このメイソンもお連れくださあああ――い!」
「今回は拙僧も是非ともお供致したく! エヴァンばかりズルうございますぞ!」
私達が領地へ向かう事をどこから聞いたのか、雄豚奴…メイソン修道士とイエイツ修道士が突撃して来た。
いや、エヴァン修道士が無難かと思ったんだけど。次点でべリーチェ修道女。
「これ、二人共! 聖女様に無礼な、弁えなさい!」
「メイソン、そのように迫るとはお前には僕としての自覚が足りぬ! 頭を床に擦り付けた上でお頼み申し上げるべきであろう!」
「イエイツ修道士も頭を冷やして下がられよ!」
メンデル修道院長が叱る馬の脚共に窘められ押し止められるも彼らは引かない。旅に連れて行くよりも枢機卿を迎えに行って欲しいと話すと、後で合流できるならそれでも構わないらしい。
「私は腐っても侯爵家の出! 高貴なお方のおもてなしはお任せを!」
「何を! 拙僧こそ、枢機卿猊下が退屈せぬ話の引き出しは数多持っております!」
結局一歩も譲らない熱意で土下座して懇願された。押し負けた私は仕方なく二人に行って貰う事に。
どっちか一人でも禍根を残すし、二人なら一人よりもお互いカバー出来る……だろうとの考えである。
メンデル修道院長は最後まで「本当に彼らに任せて大丈夫でしょうか?」と不安そうにしていたが、それは私の方こそ訊きたい。
家に帰って愚痴っていると、義兄アールとアナベラ姉がナヴィガポールへ行ってエトムント・サラトガル枢機卿を出迎える役目を買って出てくれた。
メイソン&イエイツコンビを一緒に連れて行ってくれるそうだ。
ただ、出迎えた後は二人はそのままナヴィガポールに滞在して視察と観光をするそうで。成る程、ハネムーンか。まあ私も似たようなもんだけど。
エトムント・サラトガル枢機卿は変わり者修道士二人とキャンディ伯爵領へ向かうという流れになる。
……最初のお出迎えさえちゃんとしていれば何とかなるか。
それでも領地に来るまで珍道中になりそうな予感。事前に枢機卿に二人の事を連絡して詫びておいた方が良さそうだ。
メンバーは祖父ジャルダン、祖母ラトゥ、父サイモン、母ティヴィーナ、グレイと私、イドゥリースとスレイマン、ヴェスカル、イサーク、メリーにアルトガル。
それにそれぞれの専属侍女やヨハン達を始めとする隠密騎士、護衛(※隠密じゃない方の騎士や衛士達)が着いて来る。
弟妹達の希望でヘドヴァンも連れて行く事になった。
留守番役の兄達を除けばほぼほぼ家族旅行である。イサークとメリーは大はしゃぎだ。
***
「サリーナ、最低限の動きやすい服で良いわ。急ぎの旅なら道中お招きに与るような呑気なものじゃないだろうし、ドレスなんて着る機会無さそう。持って行ったって嵩張るだけ。
どうしてもドレスが足りなければ領地で仕立てても良いわね。お金を落として市場を潤わせる事も貴族の役目だもの。
そうそう、サリーナ達の故郷の山へ行くなら寧ろ庭師達のような服装も必要ね」
部屋で荷造りする服を選別しているサリーナに私はそう告げた。
他の家族が居るから多少スピードは緩いだろうが、私は忘れない――ナヴィガポールから王都まで駆け抜けた、キングオブ深夜馬車を。
そう言えば、あの時も大部分の荷物は後からだったっけ。
「サイモン様がいらっしゃるとドレスが必要になる事もあるのでは? 流石に庭師のような服装はどうかと思いますが……」と渋るサリーナ。
何せ大所帯の旅である。
彼女としては万が一を考えて色々持っていこうとしているのだろうが、生憎私は実用主義だ。
「ドレスは一着あれば。後、山に貴族令嬢然としたドレス姿もどうかと思うわ。山を舐めてるトンチキ馬鹿としか思えないもの」
前世、友達がサンダルに可愛いワンピでデートに出掛けた所、彼氏の気まぐれでいきなり山へ連れて行かれ、岩場とか歩く羽目になり散々な目に遭ったらしい。
山でお貴族様ドレスにヒール靴とか場違いすぎて糞の役にも立たん。
「……確かにそうかも知れませんが、途中までは馬車でも行けますし、そこからは馬でお連れする事になるかと思います。ですので伯爵夫人として相応しいお召し物でも」
肯定しつつも微妙な表情。
私の言い分を理解しつつも、伯爵夫人としてはどうなのか、と同意しかねる感じか。
「サリーナも山で育ったんなら分かるでしょ? 自然が豊か過ぎて狂暴な熊や狼も出没するだろうし、ドレスなんて襲ってくれと言っているようなものじゃない。
身分云々よりも万が一を考えれば動きやすい服が一番だわ。
山へ行く服はあれが良いわ。ほら、去年私がトーマス兄の画材を借りて作った迷彩効果のあるマント覚えてる?
あの布を使った長袖にズボン。出発までに仕立てさせる事は出来る?」
虫に噛まれたりトゲや毒のある草に触れて怪我したりかぶれたりするのはごめんだ。むしろ自衛隊陸軍装備を一式寄越せぐらいの勢いである。
私の言葉にサリーナは思案気に天井にちらりと視線を向けた。
「そうですね……隠密騎士用に幾つか出来上がっている新品がございますが、それをマリー様に合わせる形で仕立て直す事なら可能です。
しかし良いのですか? あまり肌触りが良いとは言えない、丈夫さだけが取り柄の厚手で武骨な服ですが」
「ええ、構わないわ。むしろそうでないと山歩きには向かないもの。それでお願いできる? 後はグレイの分と。他の家族で希望者があれば」
手間をかけるけどごめんね、と畳み込む。
一歩も譲らない様子の私に、サリーナは大きく息を吐いて「かしこまりました」と頷いた。
***
領地を見回る為に王都を暫し留守にする旨を事情と共にサクッと手紙でメティや三夫人に知らせた後、私はソルツァグマ修道院へ挨拶に顔を出した。
ナヴィガポールにエトムント・サラトガル枢機卿を迎えに行くのは同じ教会関係者の方が良いだろうと思ってメンデル修道院長に相談していると、
「聖女様ああああ――! このメイソンもお連れくださあああ――い!」
「今回は拙僧も是非ともお供致したく! エヴァンばかりズルうございますぞ!」
私達が領地へ向かう事をどこから聞いたのか、雄豚奴…メイソン修道士とイエイツ修道士が突撃して来た。
いや、エヴァン修道士が無難かと思ったんだけど。次点でべリーチェ修道女。
「これ、二人共! 聖女様に無礼な、弁えなさい!」
「メイソン、そのように迫るとはお前には僕としての自覚が足りぬ! 頭を床に擦り付けた上でお頼み申し上げるべきであろう!」
「イエイツ修道士も頭を冷やして下がられよ!」
メンデル修道院長が叱る馬の脚共に窘められ押し止められるも彼らは引かない。旅に連れて行くよりも枢機卿を迎えに行って欲しいと話すと、後で合流できるならそれでも構わないらしい。
「私は腐っても侯爵家の出! 高貴なお方のおもてなしはお任せを!」
「何を! 拙僧こそ、枢機卿猊下が退屈せぬ話の引き出しは数多持っております!」
結局一歩も譲らない熱意で土下座して懇願された。押し負けた私は仕方なく二人に行って貰う事に。
どっちか一人でも禍根を残すし、二人なら一人よりもお互いカバー出来る……だろうとの考えである。
メンデル修道院長は最後まで「本当に彼らに任せて大丈夫でしょうか?」と不安そうにしていたが、それは私の方こそ訊きたい。
家に帰って愚痴っていると、義兄アールとアナベラ姉がナヴィガポールへ行ってエトムント・サラトガル枢機卿を出迎える役目を買って出てくれた。
メイソン&イエイツコンビを一緒に連れて行ってくれるそうだ。
ただ、出迎えた後は二人はそのままナヴィガポールに滞在して視察と観光をするそうで。成る程、ハネムーンか。まあ私も似たようなもんだけど。
エトムント・サラトガル枢機卿は変わり者修道士二人とキャンディ伯爵領へ向かうという流れになる。
……最初のお出迎えさえちゃんとしていれば何とかなるか。
それでも領地に来るまで珍道中になりそうな予感。事前に枢機卿に二人の事を連絡して詫びておいた方が良さそうだ。
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