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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
高木 寿【1】
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パチリ、と目を開ける。朝日が眩しく顔を照らしていた。キッチンの方で中古で買ったコーヒーメーカーが稼働する音。
あれ……私。長い夢を見ていたような。
ぼんやりとしながらもベッドから起きて、洗面所へ向かい冷水で顔を洗う。パンをトースターに放り込み、出来上がったコーヒーにカロリーゼロの人口甘味料と低脂肪乳を注いでカフェオレを作る。
前頭葉が退化すると分かってはいても、手っ取り早く情報を得る為に惰性でテレビのリモコンのボタンを押す。ニュースは相変わらず火山噴火一色だった。
数日前、遠くでドーンと音がしたのを覚えている。
誰かが富士山が噴火したのだと興奮したように言っていた。
臨時ニュースが流れ、デカデカと『富士山噴火』の文字が躍る。噴火口は富士山の頂上ではなく、ズレた場所だった。
山体崩壊等はしていないが、火砕流が海の方へ向けて流れ、東海道全域を分断してしまった。登山客や火砕流の風下地域等、逃げ遅れた人も多数。
そして数日後の今日、マスコミが深刻な様子でヘリを飛ばして惨状を報道している。富士山と言えば東京から近い筈なのに、液晶画面を通してみると、どこか遠い国のように感じてしまう。
「現在、東海道新幹線、高速道路上り下り共に火砕流により運行停止及び交通不能状態となっており――」
インターネットでは、サファリパークの猛獣が逃げ出しただの何だののデマが飛び、逮捕者が出る騒ぎになっていた。
パンを齧り、カフェオレを流し込む。風向きなのだろう、東京の空は火山灰の所為で薄曇り。
「――駿河湾には大型フェリーや米軍、海上自衛隊の救助船が集結しております。一刻も早い救助が待たれます!」
富士山の方は大変だろうが、私は何時もの様に今から出勤だ。手早く着替えて化粧をする。テレビでは、呼ばれたどこぞの大学の専門家がしたり顔で見解を述べ始めていた。
「前回の噴火は宝永大噴火だったわけですけれども。これは宝永地震の四十九日後に起こっております。
実はですね、その後にも山頂火口の南東の『荒巻』と言う場所で噴気活動がありました。近年でも、2002年の伊豆諸島、2013年の三宅島、そして2015年の西之島等、フィリピン海プレートに属する火山が噴火してきてるんですね。
それはプレートによってマグマが押されてきているという事なんです。このボードにあるように、このフィリピン海プレートがこう……どんどん日本の方へ押されてるものですから、同時に伊豆半島もこう、グッグッと富士山の方へ押し付けられている形になっているわけです。
富士山もいつ噴火してもおかしくないと言われておりましたが、噴火してしまった以上、次は南海トラフ地震が起こる可能性が高まっています。九州の鬼界カルデラの方も活動が活発になってきていましたし、可能性はありますよね」
「今の内に防災や備蓄の見直しをしておいた方が良いという事でしょうか」
「ええ。ただ今日明日に南海トラフが起こるという訳では無いとは思いますけれども。慌てず焦らず避難経路等の見直しをし、買い足すものがあれば買い足して、備えて頂ければと思います」
テレビを消して家を出た。いつものように地下鉄に乗る。おしくらまんじゅうの中で誰かに尻を触られ、朝っぱらからげんなりした。ダンジョンと比喩される道を同じルートで出口に向かう。
会社も通常通り稼働。
「おはようございます」
「……」
「おはようございます、高木さん」
糞上司からの挨拶は何時もの如く返って来ない。まあ私は出向でこの会社の社員ではないしもう慣れた。唯一返してくれた人はこの会社の中途採用の氷河期世代のおじさん。
そう言えば、私。
ネームプレートを見ると、『高木 寿』という名前。
――そう、こんな名前だった。
そう思った直後、自分の名前すら忘れかけていたのかと愕然とする。夕べも終電で帰ったし、脳みそがおかしくなっているのかも知れない。
ヤバいな。
次の休みには病院に行くべきなのかも。そう思いつつも納期の迫る仕事は待ってくれない。さっさと携帯や貴重品をロッカーに預け、IC認証の部屋に入った。パソコンが立ち並ぶデスクに座ると電源を入れて立ち上げる。
ふぅ、と溜息を吐く。今日も帰りは終電近くになるだろう。私はまだ良い方だ。挨拶返してくれたおじさんなんかは年下の上司に馬鹿にされ、無視と嫌がらせをされていた。
挨拶無視は当たり前で、引継ぎ申し送りは聞こえない振り。問題が起ったら全部おじさんの所為にされ、周りも事勿れとそれに同調する。勿論帰りは終電、場合によっては帰れない。だからこの職場には人が居付かない。
患者の命を握っている職種である筈の看護師の友達もそういう目に遭ったことがあるらしい。
生来卑しい人間性なのか、相手を脅威に思っているのか、それとも自分の価値を相対的に高めたり存在意義を確認するのにそれしか方法を知らないのかは分からないが。
そういう人は相手に何をされた訳でもない、相手が給料貰ったところで自分の給料が低くなる訳でもないのに大人げない虐めを行う。『服従の心理』と『同調圧力』が虐めをエスカレートさせるというが、肝心の『共存能力』の欠如した未成熟な『子供のような大人』が増えているようだ。
そんな世の中である。『虐めで自殺』『子供虐待』の事件なんて珍しくもない。『日本人は素晴らしい人間性(キリッ)』とか持ち上げる論調を見るにつけ、鼻で笑ってしまう。
大体そんな事を誰が言い出したのか。世論誘導の一環であったのかも知れない。全ては偉大なる肉屋の為に。豚共の世論も何もかも誘導されるのだ。
この業界に入ってから間もない頃、監視とサクラ、情報操作的な仕事をした事がある。一書き込み幾ら、成果報酬幾らの世界。雇い主が誰であれ、金さえ払えばそういう仕事を請け負う会社など幾らでもあった。
広告代理店とやらが入ればネットの情報の信憑性もテレビと大差ない。いや、もっと酷いかも知れない。
そんな事を考えながら社内サーバーから仕様書を引っ張って来て、仕事に取り掛かった。
今日も深夜までこき使われて帰宅。糞上司のおじさんを怒鳴り上げる声でただでさえ摩耗した神経が更にすり減らされた。
もうやめようかな……しんどいわ。働かず、のんびりだらだらニートしたい。
これまで何度も思った事を今日も繰り返す。
故郷では仕事もなかなか見つからず。実家パラサイトしていても仕方が無いと、せめて手に職を付けようとプログラミングを学んで上京したまでは良かったものの……私、何でこんな事になってしまったのだろう。
そうは思っても転職が厳しい昨今、たとえ超絶ブラックであっても収入源を断たれるのは地味に辛い。親への仕送りも欠いたら困るだろう。
そう言えば前生理になったのは何時だったか。もうそろそろ来てもおかしくないのに。
あれ……私。長い夢を見ていたような。
ぼんやりとしながらもベッドから起きて、洗面所へ向かい冷水で顔を洗う。パンをトースターに放り込み、出来上がったコーヒーにカロリーゼロの人口甘味料と低脂肪乳を注いでカフェオレを作る。
前頭葉が退化すると分かってはいても、手っ取り早く情報を得る為に惰性でテレビのリモコンのボタンを押す。ニュースは相変わらず火山噴火一色だった。
数日前、遠くでドーンと音がしたのを覚えている。
誰かが富士山が噴火したのだと興奮したように言っていた。
臨時ニュースが流れ、デカデカと『富士山噴火』の文字が躍る。噴火口は富士山の頂上ではなく、ズレた場所だった。
山体崩壊等はしていないが、火砕流が海の方へ向けて流れ、東海道全域を分断してしまった。登山客や火砕流の風下地域等、逃げ遅れた人も多数。
そして数日後の今日、マスコミが深刻な様子でヘリを飛ばして惨状を報道している。富士山と言えば東京から近い筈なのに、液晶画面を通してみると、どこか遠い国のように感じてしまう。
「現在、東海道新幹線、高速道路上り下り共に火砕流により運行停止及び交通不能状態となっており――」
インターネットでは、サファリパークの猛獣が逃げ出しただの何だののデマが飛び、逮捕者が出る騒ぎになっていた。
パンを齧り、カフェオレを流し込む。風向きなのだろう、東京の空は火山灰の所為で薄曇り。
「――駿河湾には大型フェリーや米軍、海上自衛隊の救助船が集結しております。一刻も早い救助が待たれます!」
富士山の方は大変だろうが、私は何時もの様に今から出勤だ。手早く着替えて化粧をする。テレビでは、呼ばれたどこぞの大学の専門家がしたり顔で見解を述べ始めていた。
「前回の噴火は宝永大噴火だったわけですけれども。これは宝永地震の四十九日後に起こっております。
実はですね、その後にも山頂火口の南東の『荒巻』と言う場所で噴気活動がありました。近年でも、2002年の伊豆諸島、2013年の三宅島、そして2015年の西之島等、フィリピン海プレートに属する火山が噴火してきてるんですね。
それはプレートによってマグマが押されてきているという事なんです。このボードにあるように、このフィリピン海プレートがこう……どんどん日本の方へ押されてるものですから、同時に伊豆半島もこう、グッグッと富士山の方へ押し付けられている形になっているわけです。
富士山もいつ噴火してもおかしくないと言われておりましたが、噴火してしまった以上、次は南海トラフ地震が起こる可能性が高まっています。九州の鬼界カルデラの方も活動が活発になってきていましたし、可能性はありますよね」
「今の内に防災や備蓄の見直しをしておいた方が良いという事でしょうか」
「ええ。ただ今日明日に南海トラフが起こるという訳では無いとは思いますけれども。慌てず焦らず避難経路等の見直しをし、買い足すものがあれば買い足して、備えて頂ければと思います」
テレビを消して家を出た。いつものように地下鉄に乗る。おしくらまんじゅうの中で誰かに尻を触られ、朝っぱらからげんなりした。ダンジョンと比喩される道を同じルートで出口に向かう。
会社も通常通り稼働。
「おはようございます」
「……」
「おはようございます、高木さん」
糞上司からの挨拶は何時もの如く返って来ない。まあ私は出向でこの会社の社員ではないしもう慣れた。唯一返してくれた人はこの会社の中途採用の氷河期世代のおじさん。
そう言えば、私。
ネームプレートを見ると、『高木 寿』という名前。
――そう、こんな名前だった。
そう思った直後、自分の名前すら忘れかけていたのかと愕然とする。夕べも終電で帰ったし、脳みそがおかしくなっているのかも知れない。
ヤバいな。
次の休みには病院に行くべきなのかも。そう思いつつも納期の迫る仕事は待ってくれない。さっさと携帯や貴重品をロッカーに預け、IC認証の部屋に入った。パソコンが立ち並ぶデスクに座ると電源を入れて立ち上げる。
ふぅ、と溜息を吐く。今日も帰りは終電近くになるだろう。私はまだ良い方だ。挨拶返してくれたおじさんなんかは年下の上司に馬鹿にされ、無視と嫌がらせをされていた。
挨拶無視は当たり前で、引継ぎ申し送りは聞こえない振り。問題が起ったら全部おじさんの所為にされ、周りも事勿れとそれに同調する。勿論帰りは終電、場合によっては帰れない。だからこの職場には人が居付かない。
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生来卑しい人間性なのか、相手を脅威に思っているのか、それとも自分の価値を相対的に高めたり存在意義を確認するのにそれしか方法を知らないのかは分からないが。
そういう人は相手に何をされた訳でもない、相手が給料貰ったところで自分の給料が低くなる訳でもないのに大人げない虐めを行う。『服従の心理』と『同調圧力』が虐めをエスカレートさせるというが、肝心の『共存能力』の欠如した未成熟な『子供のような大人』が増えているようだ。
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大体そんな事を誰が言い出したのか。世論誘導の一環であったのかも知れない。全ては偉大なる肉屋の為に。豚共の世論も何もかも誘導されるのだ。
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広告代理店とやらが入ればネットの情報の信憑性もテレビと大差ない。いや、もっと酷いかも知れない。
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これまで何度も思った事を今日も繰り返す。
故郷では仕事もなかなか見つからず。実家パラサイトしていても仕方が無いと、せめて手に職を付けようとプログラミングを学んで上京したまでは良かったものの……私、何でこんな事になってしまったのだろう。
そうは思っても転職が厳しい昨今、たとえ超絶ブラックであっても収入源を断たれるのは地味に辛い。親への仕送りも欠いたら困るだろう。
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