王妃となったアンゼリカ

わらびもち

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王太子の襲来①

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 アンゼリカが初めて芽生えた感情に戸惑っている頃、サラマンドラ邸に招かれざる客人がやって来た。

「ミラージュに会わせてくれ」

 自分のしたことが頭の中から消え失せているのか、はたまたとんでもない恥知らずなのか。まあ両方だろうな、とサラマンドラ公子レイモンドは白けた目で客人を一瞥した。

「これはこれは……我が妹を心神喪失にまで追い込んだ王太子殿下ではありませんか。ご自分が捨てた元婚約者に何用です?」

 嫌味をたっぷり込めて言えば、流石に厚顔無恥な王太子といえどもグッと言葉に詰まる。だが無駄に何かを決意した面持ちでレイモンドを見据えた。

。だからもう一度ミラージュを私の婚約者にしたい」

「はあ……?」

 王太子のふざけた発言にレイモンドは自分でも驚くほどドスのきいた声を放った。
 おそらくは顔もこれまでにないくらい恐ろしい表情を作っているのだろう。王太子がこちらを見て青褪めているのがその証拠だ。

「何を言うのかと思えば、随分とふざけた発言をしてくださいますね……。どうして妹を追い詰めた人間と婚約させねばならないのです? 非常に不愉快だ……」

 よくもまあそんな台詞が吐けたものだ。
 きっと頭の中にお花畑でも咲いているのだろう。割ってみればさぞかし綺麗な花が咲き乱れているに違いない。

「ま、待て! 私の話も聞いてくれ! このままだと私はあの恐ろしい冷酷非道な女と結婚せねばならなくなる!」

「は……? 冷酷非道な女……? まさか、グリフォン公爵令嬢のことを仰っているのではありませんよねぇ……?」

 驚くほどの冷たい声に王太子は「ひっ!?」と小さく叫び後ずさる。
 
 まさかここで怒られると思っていなかった。
 
 どうして公子にとってを悪く言っただけでここまで怒るんだ?

「そ……其方は知らぬだろうが、私の新しい婚約者であるグリフォン公爵令嬢は普通の女ではない。あれは悪魔のように狡猾で口が上手い。父上や宰相、使用人までも皆あれの味方だ! 王宮に私の居場所はない! ミラージュと婚約していた時はこんなことはなかった。そう考えるとミラージュの方が私の婚約者として相応しいと思わないか!?」

「全く思いませんね。寝言は寝てからどうぞ。だいたい、その相応しい婚約者を公の場で婚約破棄したくせによく言いますね? しかもくだらない茶番劇付きで」

「それは……誤解だったんだ! 私も騙されていて……」

「今更言い訳など結構、聞きたくありませんね。何を言われようとも貴方がミラージュを傷つけたことは事実です。それに……あのような素晴らしい令嬢を婚約者に迎えておいて、嫌がるなど正気を疑いますよ」

 王太子はレイモンドの発言に絶句した。
 
 正気を疑うのはそちらの方なのだが? 
 そう言いたいがあまりにも驚きすぎたせいで声が出なかった。
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