いいえ、望んでいません

わらびもち

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彼女と愛人

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 あれから着々とデューン伯爵家の評判は落ちていった。

 伯爵は愚かにも社交の場に愛人を同伴しているらしい。
 独身の頃ならまだしも、正式に妻を迎えた者がすることではない。
 案の定、周囲はその非常識さに眉をひそめ、主催者に至っては二度と彼を招待しないと激高しているらしい。

 おまけにその愛人はその場に堂々とハルバード公爵家の家紋入りのドレスを着ていったそうで、社交界で伯爵は「泥棒を連れ込んでいる」と噂されているらしい。

 それに加え、新妻であるジュリエッタが結婚後一度も社交界に姿を現さないことに周囲は「デューン伯爵夫人は既に殺されているのではないか」という過激な噂まで流れている。


「ああ、暇ね……。公爵邸にいたころは寝食削って淑女教育を習得していたというのに、ここに来たからは外部の人間に“虐げられてますよ”アピール以外、することがないわ……」

 殺されているとまで噂がたっているジュリエッタ本人は、伯爵家の別邸でダラダラと日々を過ごしていた。
 たまに外部から商人や出入の業者が訪れる際を見計らって、わざと目につくようにみすぼらしい姿で別邸の庭をウロウロとする以外は本当にすることがない。

 暇だから何かを始めようにも、余計なことをすれば公爵の不興を買ってしまうかもしれない。
 暇なのを我慢するか、公爵に始末されるかなんて前者以外選ぶわけないので、今日も今日とて大人しくしている。

 ドレスも装飾品もここに来て早々に伯爵に奪われてしまったので、ジュリエッタは質素な木綿のワンピースを着用していた。

 これだけでも外部の者からジュリエッタが酷い扱いを受けているようにアピールできるらしい。
 だがこれは平民の頃に着ていた服よりも大分上等だ。

 平民時代にこんなのをプレゼントされていたら自分はとても喜んだろう。
 なのに、貴族のお嬢様となったらこんなのを着て可哀想と言われるのだ。
 解せないな、とジュリエッタは服の裾を掴んでため息をついた。

(お母さん、元気かな……)

 ぼんやりと母のことを思い出す。
 突然母から引き離されて数年は経ち、少女だったジュリエッタはすっかり大人の女性へと変貌した。そして、好きでもない男の妻となった。

 母が知ったらきっと泣くだろう。娘の人生がいきなり現れた父親に好き放題されているのだから。
 貴族にとってはそれが当前でも平民は違う。結婚相手を父親が選んだりなんてしない。
 好き合った相手と結婚するのが当たり前だ。

 せめて連絡をとりたくても、目的を達成するまでは一切の接触を禁じられている。
 公爵からの「お前の母は無事でやっている」という言葉を信じるしかない。

 また母と一緒に暮らしたい。
 その願いだけを胸にここまで頑張ってきた。

 ここを出て、母の作った暖かな料理が食べたい。
 貴族の食卓に並べられる料理は豪華だけど冷めきっていて美味しくない。
 それにマナーばかり気にしてちっとも楽しめない。
 やっぱり自分に貴族の生活は向いていない、とジュリエッタはしみじみそう感じていた。

 我慢していた涙が不意にジワリと滲んできた。
 だが、不意にカツカツとヒールが地面を蹴る音が聞こえ、ジュリエッタは慌てて服の裾で涙を拭う。

(この品のない足音、あの人が来たのね……)

 “あの人”とは伯爵の愛人、マリアナのことだ。
 何が面白いのか彼女は偶に一人で別邸にやってきてはジュリエッタに嫌味を吐くのだ。

 だが、ジュリエッタは

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