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番外編
もう自由になったらいい
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「修道院に行く必要なんてありませんよ。姉上、公爵から慰謝料は貰っていますよね?」
姉上のことだ。慰謝料も貰わないまま泣き寝入りなんてするわけない。
相手が公爵なら一生遊んで暮らせるだけの額を貰っているはずだ。
「え、ええ……勿論よ。公爵家の資産でなく、元夫の私財からほとんど奪ったわ。けどそれがどうしたの……?」
「姉上、金があるなら貴族の身分を捨てても生きていけます。好きな場所に好みの屋敷を建てて、メイドや護衛を雇って毎日好きなことをして暮らせばいい。社交も家のことも何にも考えなくていいんです。もう自由になったらいい」
「え? え……? ど、どういうこと?」
根っからの貴族である姉上には分からないか。
自由という意味が。
「いいですか姉上、貴女は今まで伯爵令嬢として、そして公爵夫人として十分家に尽くしました。後継者も生まれ、立派に育った。ならもう余生は姉上の好きなことをして過ごしてもいいじゃないですか? 行きたい場所を旅行してもいいし、恋人を作ったっていいし、何なら男をとっかえひっかえしたっていい。貴族の身分を捨てれば人の目や社交界の噂なんか気にしなくていいんです。…………このまま伯爵家に戻ってきたって、出戻りだなんだのと茶会で晒し者にされて嘲笑されるだけでしょう? 姉上は何にも悪くないのに悔しくないですか? せっかくの人生が勿体なくないですか?」
金がなければここにいるしかないが、あるなら自由に生きられる。
出入の商人からのまた聞きだが、実際、資産家の未亡人はそうやって暮らしているらしい。
貴族みたいに身分や噂なんか気にしないで自由に人生も恋愛も楽しんでいる。
さる大農園の元経営者の未亡人は孫ほど若い男を後添えに迎えた、なんていう話も聞いた。
姉上だってそう生きればいい。
このままここにいても嫁に疎まれ、社交界では嘲笑されて一生を終える。
そんなの人生が勿体ない。
「自由に……? わたくしの好きなことをして……? え? え……? そんなことが許されるの……?」
「誰が許さないというんですか? 姉上の人生なのに。貴族夫人として役目を十分果たした貴女に文句を言う奴がおかしい。姉上だって自由に生きて、自由に恋を楽しんでみたくないですか?」
「楽しんでみたいわ! わたくし夫のことなんてちっとも好きじゃなかった! 子供たちは可愛いけど、夫に愛を感じたことなんてなかったもの! ……でも、わたくしはもうおばさんよ? 殿方に相手にされるわけが……」
「おばさんだと思ってしまうのはその服装と化粧のせいですよ。姉上は十分お美しいのに勿体ない。それにその年齢で恋を楽しんでいる人などいくらでもいますよ?」
古臭い公爵家では地味な格好しかできなかったのだろう。
姉上の姿はものすごい地味で古臭い。元は美人なのに勿体ない。
「…………貴方の言う通りよね。わたくし勝手に自分の生き方を狭めていたわ……。そうよね、身分を捨てても生きていけるだけのお金があるんですもの。ありがとうラウロ、わたくし……自由に生きてみるわ!」
「クラリス……いいのか? 貴族の身分を捨てても……」
「ええ、お父様……ご迷惑をおかけしてごめんなさい。わたくし、息子夫婦を新婚早々不仲にしてしまうところだったわ……。ラウロの言葉で目が覚めた。ラウロもごめんなさい、巻き込んでしまって……」
あの姉上が僕にこんなにしおらしい姿を見せるのは初めてだな……。
年を重ねて丸くなったのだろうか。
「このままここに戻ってきても、きっとカイルのお嫁さんに小言ばかり繰り返す嫌な姑になっていたわ。そんなの誰も幸せになれないわよね……。社交界に顔を出せば“惨めに捨てられた女”のレッテルを貼られて嘲笑されるだろうし……。ほんと、だったら貴族を捨ててしまえばいいのよね。こんな簡単なことに気づけなかったなんて……」
「それは儂にも言えることだ。娘のことしか考えておらす、孫のこともその花嫁のことも蔑ろにするところだった。……ありがとう、ラウロ。お前、変わったな。よい男になった……。これもオニキスの影響か」
僕が変われたのはオニキスのおかげだ。
惜しみない愛情を注いでくれる彼女の存在が、どれだけ心を満たしてくれたことか。
「彼女を紹介してくれた陛下とアリスティア様には感謝しかないな」
「は!? え? オニキスが陛下とアリスティアの紹介? え? どういうことですか父上!?」
どうしてここで陛下とアリスティアの名前が出てくるんだ?
オニキスは父上が娼館から見つけてきたんじゃないのか?
姉上のことだ。慰謝料も貰わないまま泣き寝入りなんてするわけない。
相手が公爵なら一生遊んで暮らせるだけの額を貰っているはずだ。
「え、ええ……勿論よ。公爵家の資産でなく、元夫の私財からほとんど奪ったわ。けどそれがどうしたの……?」
「姉上、金があるなら貴族の身分を捨てても生きていけます。好きな場所に好みの屋敷を建てて、メイドや護衛を雇って毎日好きなことをして暮らせばいい。社交も家のことも何にも考えなくていいんです。もう自由になったらいい」
「え? え……? ど、どういうこと?」
根っからの貴族である姉上には分からないか。
自由という意味が。
「いいですか姉上、貴女は今まで伯爵令嬢として、そして公爵夫人として十分家に尽くしました。後継者も生まれ、立派に育った。ならもう余生は姉上の好きなことをして過ごしてもいいじゃないですか? 行きたい場所を旅行してもいいし、恋人を作ったっていいし、何なら男をとっかえひっかえしたっていい。貴族の身分を捨てれば人の目や社交界の噂なんか気にしなくていいんです。…………このまま伯爵家に戻ってきたって、出戻りだなんだのと茶会で晒し者にされて嘲笑されるだけでしょう? 姉上は何にも悪くないのに悔しくないですか? せっかくの人生が勿体なくないですか?」
金がなければここにいるしかないが、あるなら自由に生きられる。
出入の商人からのまた聞きだが、実際、資産家の未亡人はそうやって暮らしているらしい。
貴族みたいに身分や噂なんか気にしないで自由に人生も恋愛も楽しんでいる。
さる大農園の元経営者の未亡人は孫ほど若い男を後添えに迎えた、なんていう話も聞いた。
姉上だってそう生きればいい。
このままここにいても嫁に疎まれ、社交界では嘲笑されて一生を終える。
そんなの人生が勿体ない。
「自由に……? わたくしの好きなことをして……? え? え……? そんなことが許されるの……?」
「誰が許さないというんですか? 姉上の人生なのに。貴族夫人として役目を十分果たした貴女に文句を言う奴がおかしい。姉上だって自由に生きて、自由に恋を楽しんでみたくないですか?」
「楽しんでみたいわ! わたくし夫のことなんてちっとも好きじゃなかった! 子供たちは可愛いけど、夫に愛を感じたことなんてなかったもの! ……でも、わたくしはもうおばさんよ? 殿方に相手にされるわけが……」
「おばさんだと思ってしまうのはその服装と化粧のせいですよ。姉上は十分お美しいのに勿体ない。それにその年齢で恋を楽しんでいる人などいくらでもいますよ?」
古臭い公爵家では地味な格好しかできなかったのだろう。
姉上の姿はものすごい地味で古臭い。元は美人なのに勿体ない。
「…………貴方の言う通りよね。わたくし勝手に自分の生き方を狭めていたわ……。そうよね、身分を捨てても生きていけるだけのお金があるんですもの。ありがとうラウロ、わたくし……自由に生きてみるわ!」
「クラリス……いいのか? 貴族の身分を捨てても……」
「ええ、お父様……ご迷惑をおかけしてごめんなさい。わたくし、息子夫婦を新婚早々不仲にしてしまうところだったわ……。ラウロの言葉で目が覚めた。ラウロもごめんなさい、巻き込んでしまって……」
あの姉上が僕にこんなにしおらしい姿を見せるのは初めてだな……。
年を重ねて丸くなったのだろうか。
「このままここに戻ってきても、きっとカイルのお嫁さんに小言ばかり繰り返す嫌な姑になっていたわ。そんなの誰も幸せになれないわよね……。社交界に顔を出せば“惨めに捨てられた女”のレッテルを貼られて嘲笑されるだろうし……。ほんと、だったら貴族を捨ててしまえばいいのよね。こんな簡単なことに気づけなかったなんて……」
「それは儂にも言えることだ。娘のことしか考えておらす、孫のこともその花嫁のことも蔑ろにするところだった。……ありがとう、ラウロ。お前、変わったな。よい男になった……。これもオニキスの影響か」
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惜しみない愛情を注いでくれる彼女の存在が、どれだけ心を満たしてくれたことか。
「彼女を紹介してくれた陛下とアリスティア様には感謝しかないな」
「は!? え? オニキスが陛下とアリスティアの紹介? え? どういうことですか父上!?」
どうしてここで陛下とアリスティアの名前が出てくるんだ?
オニキスは父上が娼館から見つけてきたんじゃないのか?
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