Ambivalent

ユージーン

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First Step

7.盤根錯節

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 呼び鈴が鳴る。感覚を少し開けて再び呼び鈴が鳴る。また呼び鈴が鳴る。もう一度呼び鈴が鳴る。ノックの音がした。そしてまた、呼び鈴が鳴る。

 そこで、あんじゅは目が覚めた。

 床に突っ伏して寝ていたため、身体が痛い。筋肉の悲鳴が聞こえる。そして、呼び鈴の音が聴覚を刺激する。姿を見せない自分を催促しているのがいったい誰なのか、あんじゅは検討もつかなかった。

「はい?」

 痛む身体を起こして扉を開けると、そこには先輩である柚村ゆずむらきょうがいた。

「……え? ゆ、柚村さん?」

 醒めやらぬ意識のまま眠い目をこすって、あんじゅは京の姿を怪訝そうに見つめる。なぜここにいるのだろう。

「柚村さん? あの、なんで私の家知ってるんです?」
「履歴書見たんだよ。まさか、。てか、お前まさかスーツ姿で寝てたのか?」

 指摘されて、あんじゅは自分が昨日帰宅したまま直に眠りこんだことに気がついた。スーツはパリッとして引き締まった面影など微塵もなく、シワまみれである。途端に、恥じ入るようにうつむく。

「……ごめんなさい」
「なんで謝る」
「な、なんとなく」

 京はため息をつき、要件を告げた。

「それで、どうかしたんですか?」
「仕事だ」
「え? うそ……!? また遅刻!?」
「今日は元々夜の勤務だ。落ち着けよ」

 はい、とあんじゅは反射的に答える。昨日の今日で、なんてことは言えなかった。吸血鬼の犯罪は、誰かの都合関係なく日夜発生している。

「えっと、中で待ちますか?」
「いいよ。風呂入って、着替えれば終わりだろ」
「……お腹すいてるので、ごはん食べてもいいですか?」
「昨日の約束通り奢ってやるから早く出てこい」
「わ、わかりました」

 言われてあんじゅは扉を閉めて、着替えにかかった。

「仕事……か」

 京の言っていた言葉に、あんじゅは気が重たくなるのを感じた。右手を見ると、昨日の拳銃の重たい感触が蘇ってくる。

 もしかして、また銃を握るのだろうか。

 憂いながらも、着替えを終えて京と一緒にマンションを出る。時刻はすでに午後三時を迎えようとしていた。まったく、どれだけ寝ていたのだろうか。

 アスファルトには桜の雨が降り注いでいる。春の時花じかは散り始め、水面には花筏はないかだがゆらゆらと揺れていた。微かな陽気に照らされながら、霧峰あんじゅと柚村京は都市の喧騒の中を歩く。

「え? 銃はいいんですか?」
「ああ、今回は俺の判断でなしだ。つーか、どうせ撃てないだろ」
「いや、あの、撃てなくは……」
「いざという時に撃てなきゃ重たい鉄のお飾りだって。それより、昨日の初仕事の感想は?」

 あんじゅは言葉に詰まる。すぐに答えれるほど単純なものではなかった。

 子供の目の前で、吸血鬼化した父親を殺す。実際に殺したのは室積だが、それでも彼が間に合わなければあんじゅが手にかけていた可能性だってある。そうしなければあんじゅとゆうか、それに京も吸血鬼の毒牙にかかっていただろう。

 だけど、その結果が決して心地いいものではないのは、人として当然だった。他に方法はあったはず。そう思いたかったが、どのように思考を巡らせても、親子を、残りの救助者を助け出せれた結果があんじゅには想像できなかった。

 要請があった時点で、手遅れではなかったのか。それとも、助けることができたのか。考えれば考えれるほど、沼にはまったように昨日の出来事から抜け出せなくなる。

「複雑ですね。その、気分はよくない……です」

 あんじゅは正直に答える。

「まあ、そうだろうな。俺でも躊躇ためらうときはあるさ」

 あんじゅの意見に京は肯定も否定しなかった。ただ、葛藤しても結局は撃たなければならないのは明らかだったが。

 京は吸血鬼について、どう思っているのだろうか。何も感じていないのか。少なくとも、沙耶のように殺すことを楽しんでいるふうには見えない。

「皆さんは昨日のこと……どう思ってるんですかね? 室積隊長とか、綾塚副隊長とか、鵠さんは」
「別になんとも思ってねえんじゃねえか」

 京は素っ気なく返してきた。

「沙耶も鵠も……あいつらは、どちらかと言えば吸血鬼を毛嫌いしてるからな、殺すことに躊躇ためらいはないだろ。沙耶なんかあれ見たろ? あのイカれっぷり。吸血鬼をあそこまで嫌ってるやつは、なかなかいないさ」

 確かに。昨日間近で目撃した殺戮行為は、今も鮮明に思い出せる。吸血鬼の喉元を刃で突き刺し、冷笑する沙耶。向かってくる吸血鬼を流れるような動きで仕留め、怯えてひれ伏す吸血鬼ですら、躊躇ちゅうちょなく心臓を突き刺す。はたから見ればどちらが悪なのか、判別がつかない。

 そんな沙耶に、吸血鬼化した父親を殺すべきだったかの意見を求めても、肩を持つ答えは返ってこないのは予想できる。

「柚村さんは、吸血鬼のことはどう思ってるんですか?」

 あんじゅがそう問うと少し考えてから、まとめたものを吐き出すように京は口を開いた。

「吸血鬼が病院に行って治るんなら、誰だってその場で殺しはしないさ。インフルエンザも患者だからって殺しはしないだろ? けど、吸血鬼への治療法はない、治しようがないんだ。あいつらを隔離する場所は順番待ち。だからって放っておいたら、他の人間に危害を加える。だから、撃つしかない」

 好き好んで吸血鬼になったわけではない、好き好んで撃ちたいわけではない。ただ、方法がないから、その手段を選んでいるそんな口調だった。

「誰だって吸血鬼については、本心で同情してるだろうさ。ほとんどが被害者なんだからな。でも、吸血鬼に何かを奪われた人間には、そんなもの消えちまう。誰かが被害を受ける前に防ぎたいってやつもいる。正義感と、やむおえないからと、憎しみ。だいたいの『戦術班』の人間はこの三つのパターンだ」
「柚村さんは?」
「俺は、正義感五割 不本意三割 憎悪二割ってとこかな」

 信号に引っかかり、二人は足を止める。ふと、あんじゅが見上げると巨大な街頭のモニターから、映像が流れた。

『吸血鬼に噛みつかれた場合は、その場から急いで逃げて、大至急手当を受けましょう。もし噛まれて数分以内に亡くなれば、あなたも吸血鬼になります。大切な家族を襲わないためにも、吸血鬼の生息してそうな場所には近づかず、また、吸血鬼を見つけた場合は、至急、専門の機関へと連絡をしましょう』

 プロパガンダのように流れる吸血鬼への注意勧告。脅威を人々に認識させるために流される放送は味気なく、淡々としていて教科書的に感じてしまう。

 吸血鬼への脅威は人々に刷り込まれている。それでも被害が減らないのは、決して人々の気が緩んでいるからではない。結局、気をつけていても誰かの力によって強制されてしまえば、意味をなさない。

 昨日、吸血鬼が起こした拉致事件を間近で見たあんじゅは胸の内でそう考える。

「なあ、銃持たない代わりに聞きたいことがあるんだが」
「聞きたいこと?」
「なんで銃が嫌いなんだ?」
「嫌いではないです。でもただ……」

 あんじゅは黙りこむ。気分を害したわけではなく、言葉が上手く見つからなかった。

「吸血鬼を撃ちたくないってことは、吸血鬼には関わりたくはないんだろ? なのに、なんでうちに就職した?」

 もっともらしい疑問を京はぶつけてきた。トラウマを持っている人間が、わざわざ吸血鬼を殺す職に就くなんて疑問に思って当然だ。

「吸血鬼の起こす事件を未然に防ぎたいって気持ちはあります。でも銃を撃つのは怖くて……」
「命を奪うのが怖いからか?」
「そうかもしれないです。だって、わたしは──」

 不意にあんじゅは口を紡いだ。喋り過ぎたと言わんばかりに、自らに対して複雑な表情をつくる。

「みんな?」
「い、いえ……その……」

 信号が青になった。周りの人々が歩き出すが、あんじゅは踏み出すことなく、京の顔を見る。

「柚村さん。わたし、稲ノ宮いなのみやの事件の生存者です」


 ○


「お客様、お待たせしました」

 二人分のハンバーガーとポテトを女性店員が運んでくる。アルバイトなのか正社員なのかはわからないが、店員は女性ともう一人しかいない。レジの後ろから見える厨房は機械化されていて、まるで工場のようになっていた。

「ホントにハンバーガーセットだけでよかったのか?」

 運ばれてきたのはチェーン店の、値段の控え目なハンバーガーのセット。京に気を使ってか、あんじゅはほとんど出費を抑える注文をした。当然、なにかしら遠慮しているのを京は見抜いていた。

「ええ、あの、わたし好きなので」

 あんじゅ自身は、それを隠しているつもりなのかもしれないが、揚げ足取りのように指摘するのも変なので、京はそのままなにも言わないでおく。

「柚村さんは、ここにはよく来るんですか?」
「いや、正直チェーン店は学生のときに行き過ぎたからな」
「そうなんですか」

 京は包紙を開くと一口食べる。変わらずの値段相応の味だった。

「それより、稲ノ宮の事件ってあれだよな? 吸血鬼が旅館を襲ったってやつ」
「はい、そうです」

 あんじゅもポテトを摘む。

 吸血鬼による被害はほとんどの国で記録されている。人それぞれ思い浮かべる事件は様々であるが、それでもこの国の多くの人はある事件を真っ先に挙げるだろう。

 稲ノ宮いなのみや旅館吸血鬼襲撃事件。

 原生林に囲まれ、豪壮な城のように佇む稲ノ宮旅館と、その周囲の小さな温泉街が吸血鬼に襲撃された。宿泊客の八割以上が死亡、吸血鬼化したこの事件は、吸血鬼の起こした騒動としては、世界でも類を見ないほどの大事件として報道された。

 この事件に一番影響を受けたのは国の方で、吸血鬼に同情的だった世間の目は変わり、消極的だった吸血鬼の処罰についても、積極的になった。

 未だにこの事件の詳細は不明で、どの吸血鬼が発端だったのかもわかってはいない。早期に逃げた生存者からも有力な情報は得られてはおらず、吸血鬼関連の未解決事件の一つとされていた。

「災難だな。あっこに泊まってたのか」
「わたしは、修学旅行で。その……覚えてませんか? 絹見里きぬみざと中学の修学旅行生が巻き込まれたって記事」

 京は記憶を辿る。確かにそんなことが書いてあったような気がしたが鮮明には出てこない。当事者ではなく、傍観者であっのだから、当然だろうが。

「あんまり覚えてないけど、なんか書いてあったような、って感じだな。じゃあ、修学旅行中の生徒だったのか」
「はい、わたしは三組でした」
「生存者は?」
「他のクラスは何人か。けど、わたしのクラスは、吸血鬼用のシェルターに逃げ込んだんですけど……」
「なるほどな」

 あんじゅが言葉に詰まったので、京は一旦そこで締める。公共施設などに備え付けられている対吸血鬼用のシェルターは、決して万能ではない。人の何倍もの力を持つ吸血鬼が集団でかかれば、破壊されることもある。

「吸血鬼相手によく生き残れたな。言ったら悪いけど、お前すぐやられてそうなタイプに見えるぞ」
「そんなに弱そうに見えます?」

 京は素直に、驚きの感情を声に乗せる。吸血鬼の身体能力は人よりは上だ。人間よりも優れている化け物たちを相手にするのは、効果的な武器を持たない一般人には、ほぼ不可能だ。

「まあ、逃げ切れてラッキーだったな」
「いえ、あの、逃げた……と、いうよりは、その……」

 あんじゅは口ごもり、下を向く。

「旅館に、猟銃があったからそれで……」

 ボソボソとした小さな声だったが、聞き取れた。京は聞き取れたものの、その意味を理解するのに少し時間がかかった。

「……猟銃?」
「はい」
「猟銃って……それ使ったのか?」
「はい、そうです」

 素人が扱うのは訓練や免許がいる。例え、ネットで知識をかき集めたとしても、実際は反動で肩が外れたり、銃声で鼓膜がやられてしまうこともあるのだ。

 オマケに、中学の修学旅行ということは、あんじゅの年齢は十五そこらだ。その年齢の女の子が、猟銃についての知識をどうして持っているのか。

「霧峰」
「なんですか?」
「エイプリルフールは過ぎたぞ」
「え……ほ、本当のことです!」
「あまり言いたくないが、つくならマシな嘘つけ」
「う、嘘じゃありません柚村さん! 本当ですっ!」

 嘘つき呼ばわりされたことが心外だったのか、あんじゅは声を上げる。周りの客が少しだけざわついた様子で見てきた。

「信じたいけどな……当時女子中学生だろ? よく猟銃なんか扱えたな」
「猟師をしていたおじいちゃんが、教えてくれました」
「猟師?」
「それで、昔からわたしも鹿とか猪を狩ったり、解体とかも手伝ってました」
「おいおい、ちょっと待て待て……」

 京はあんじゅの言うことを頭の中で整理する。

「お前それ、犯罪じゃねえか。無免許で狩りしてたってことだろ?」
「それは……なんというか……」
「そのハンターライフはいつから過ごしてたんだ?
「小学校の……四年生くらいから」

 信ぴょう性は微妙なラインだった。もし、文字として書きおこすなら、作り話にしか思えなかっただろう。だが、あんじゅの口調は嘘をついているようにはみえないし、あんじゅの性格上こんな大胆な作り話を貫けるほど器用だとも思えない。

「事実は小説よりも奇なり、か」
「え?」
「なんでもねえ。じゃあ、お前は使い慣れた猟銃使って、シェルターから出てみんなを助けたわけか」
「あっ……いえ……」

 あんじゅの表情が途端に曇る。気落ちした、といった風には見えなかった。それよりも暗い、開けてはいけない扉を開けたような暗さ。京は禁じられた領域に踏みこんだかのような感覚になった。

「わたしは、みんなを撃ったんです。吸血鬼になったから……」

 震えた声で話すあんじゅ。真意は、すぐに汲み取れた。

「噛まれて、吸血鬼になったから。だからわたしは、みんな撃って、それからみんな灰に……」
「わかった、もういい」

 まるで、身体に空いた小さな穴に指を突っ込んで、ほじくるように語ろうとするあんじゅ。その痛々しさを感じる暴露話に、京はストップをかけた。

「なにがあったかはわかった。吸血鬼を撃てない理由も。だから、いちいち事細かに語らなくていい」

 見聞きしてる方が辛い。あんじゅは声だけではなく身体も震わせて、身を切る思いで全てを語ろうとしていた。

 まるで、吸血鬼と化した同級生を殺害した罪を贖うかのように。罪悪感が脅迫の念となっていて、一滴残らずその行いを絞り出すように、その全てを。

「ごめんなさい」

 頭を下げるのあんじゅを見て、京は少し罪悪感を感じる。

「別に責めてるわけじゃねえよ」
「的とかに当てるのは大丈夫なんですけど。バーチャルの訓練を受けた時に、思い出して吐いちゃって。仮想現実……幻なのに、変ですよね。それで、『技術班』に変えたんです」
「で、今は『戦術班』に変えられてるわけだ」
「あはは……」

 銃を構えれば、人生を変えた最悪の日が顔を覗かせる。得体の知れない恐怖とは違い、なにが襲いくるのか予想できる。予想できる恐怖は、違う意味の恐ろしさを秘めていることは、京にもわかる。

 突発的なものは、勢いに任せた恐ろしさがある。それは、嵐のように過ぎ去るのも早い。だが、あんじゅの抱いてるトラウマは過ぎ去ってはくれない。普段はひっそりと静まり返って、時が来れば粘りつくように蝕み、ジワジワと進行していく。そして、限界が来たときには、古傷に深刻な一撃を与える。

「【彼岸花】に来たのは、あの事件の詳細を知りたかったからです。けど、『戦術班』の訓練では使い物になりませんでした。だから、『技術班』で学んだんです」
「なるほどな」

 とはいえ、京が見たあんじゅの『技術班』の成績は平凡かそれ以下なものばかり。才能があるのは射撃なのだが、それには本人の肉体と精神に大きな負担がかかる。実力のある扱いにくい者とはこういう人をいうのだろう。

 不意に、京のスマートフォンが振動する。画面には、柴咲梨々香と表記されていた。

「はい?」
『京くーん、持ってきたよー』

 梨々香の陽気な声が耳に響く。

「おう、ありがと。店ん中いるから、とりあえず来い」
『おっけぇー』

 数秒もしないうちに、梨々香が入店した。その派手な外見に、店内にいた何人かの視線が動く。

「やっほーぉ! 京くーん、あんじゅちゃーん」

 梨々香はテンション高く、笑顔を振りまいてやってくる。手には紙袋をぶら下げて、それをブンブンと振りましていた。

「持ってきたか? それか?」
「モチのロンよぉ。これ、あんじゅちゃんに、ぜぇったい似合うよー! 私のベストコーデ!」

 底無しの明るさを梨々香は見せる。その明るさが伝染するように、あんじゅも憂い顔から少しだけ笑顔を戻した。

「おつー! あんじゅちゃん! 昨日の初仕事、お疲れちゃん!」
「お、お疲れ様です……」
「ふふふ、京くんがもしも、セクハラしてきたらお姉さんに言いなよぉ? パソコンハッキングして、京くんの検索履歴を世界中にアップするからねぃ」
「しねえよ」
「言いづらくても安心しな。わたしも京くんにぃ、あーんなことや、こーんなこともされたから」
「ええっ!?」

 あんじゅの目が、不審者を見る目に変わる。

「おいおい信じるな」
「まあまあ、とりあえずぅ! 奢れ、京くん」
「断わる」
「むー、約束破るなんて最低だぞぉ?」
「してねえよ、つーか香水臭いからよるな!」
「ああ? 伝統あるサンタマリアノヴェッラの香りを臭いとか、京くんセンスがなぁい」

 ぶつくさ呟く梨々香は、無理矢理座り込み、京を窓際に押しやると、ポテトを美味しそうに食べる。その豪胆な人間っぷりにあんじゅが唖然としていた。

「と、ところで、柴咲さん。それは?」

 怪訝そうに、あんじゅは尋ねた。梨々香が持ってきたのは、パンパンに詰まった大きな紙袋二つ。中身は洋服だった。

「おっ楽しみーぃ! とりあえず着替えてきなよぉ。早く早く。袋に入ってるの、ちゃーんと、全部着てねー」
「は、はい……??」

 あんじゅは首を傾げながら、トイレに向かった。

「本当に大丈夫なんだろうな?」
「京くんの旦那ぁ、わたしのセンスを舐めんなよ!」
「おまえのセンスだから心配なんだよ」
「ひっどっ! もういいしぃぃ!」

 言って梨々香は、京のハンバーガーを美味しそうにほうばった。同僚のギャルの傍若無人さに、京はため息をついた。


 
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