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菓子がいっぱい
しおりを挟む「ほらっ、戴き物の菓子、山ほどあった」
小梅はご進物の上菓子の桐箱を十個以上も抱えて、サギの待つ裏長屋の座敷へ上がってきた。
ご進物の菓子の中には鈴木越後の日本一高い羊羮もある。
「ああ、これ、こないだお花様に貰った羊羮の残りだよ。あたし等もお座敷でお客から手土産に色々と貰うし、とてもぢゃないけど食べ切れやしないからさ」
小梅は菓子の桐箱を次々に開いた。
「ほほぉ」
「へえっ」
「わあぁ」
「ほへ~」
「おおっ」
サギは桐箱の蓋が開く度にいちいち歓声を上げる。
小梅が上等な黒漆塗りの盆に上菓子を盛っていく。
いつもお座敷の客の目の前でお膳の料理を折り詰めしているので箸使いも優雅な手付きだ。
しゃべり口調はお侠で荒っぽくても黙っている時の品の良さはさすがに売れっ子の半玉である。
所作の美しさがそこいらのただのお侠の素人娘とは差が歴然なところだ。
「――ほへ~」
サギはうっとりして小梅が丁寧に菓子を盛っていく様を眺めていた。
そうこうして、
黒漆塗りの盆に盛られた菓子がズラリと勢揃いした。
羊羮、大福、有平糖、饅頭、紅梅餅、落雁、外郎、金玉糖、雪平、等々、
「ふわぁ」
サギは色とりどりの上菓子に目を輝かせる。
意匠を凝らした練り物は秋らしく菊花や紅葉や銀杏を型どって食べるのが勿体ないくらいだ。
「ふわわぁ」
こんな盛りだくさんの菓子に囲まれた光景を幾度となく夢に見た気がする。
「ほら、これもあるんだよ」
小梅はもったいつけて最後の桐箱から出した厚切りのカスティラを伊万里焼の皿に盛った。
「き、桔梗屋のカスティラぢゃあっ」
サギはカスティラに目を凝らす。
いまだ耳しか食べたことのないカスティラの本体。
ようやく桔梗屋のカスティラが食べられるのだ。
「桔梗屋のカスティラはご贔屓のター様から戴いたんだけどさ。ター様のお勧めのとっておきの食べ方があるのさ」
小梅はオランダ渡来の瓶のコルク栓をキュポッと抜く。
「ふぐぁっ、何ぢゃ?鼻にフンガァッと抜けるようなニオイぢゃっ」
サギは初めて嗅ぐ強烈な香りにクラクラとする。
「これもター様から戴いたオランダ渡来のブランディウェーっていう飲み物さ」
「ブランディウェー?」
オランダ語っぽい発音で言っただけでブランデーのことである。
琥珀のような色合いの液体をトプトプと皿に注ぐ。
「これにカスティラをちょいと浸すのさ」
小梅は厚切りのカスティラをブランデーに浸した。
裏表を返して両面にたっぷりと染み込ませる。
「さ、どうぞ、召し上がれ」
小梅が舶来の銀のフォークを差し出す。
「うひゃあ、美味そうぢゃあ」
サギは期待いっぱいにあんぐりとカスティラを頬張った。
ブランデーを含んで、しっとりしたカスティラからジュワッと初めての味わいが刺激的に口中に広がる。
「フ、フンガァッ、なんぢゃこりゃっ。こんなの初めて食べるのう」
なんだかフワァと浮き上がるような心持ちがする。
「どうだえ?」
小梅はどんどんとカスティラにブランデーを浸しておかわりをこしらえる。
「うん、よう分からん。美味いのか分からん。もっと食べんと分からん得体の知れん味ぢゃあ」
サギはさらにおかわりして五切れも食べた。
「げふっ、なんらか五臓六腑が熱うなってポカポカぢゃ。うひゃひゃひゃっ」
すでにへべれけである。
「ふふふ」
小梅はブランデーの瓶を翳して、「してやったり」とほくそ笑んだ。
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