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足下から鳥が立つ
しおりを挟む一方、その頃。
富羅鳥山の隠れ里では、
カタン、
カタン、
カタン、
カタン、
お鶴の方が機織り小屋で織り物に精を出していた。
明かり取りに小屋の引き戸は一間分が開け放たれ、お鶴の方の姿は外からもよく見える。
「ふう――」
一切り付いたところで、お鶴の方は機織り小屋から外へ出て、両手を天に突き上げ、「う~ん」と伸びをした。
小屋の前の柿の木を見上げると、たわわに実った柿の実はすっかり赤く色付いている。
「――婆様ぁ?柿、そろそろ取ってもええ頃ぢゃろかのう?」
柿の実を指差して大声で機織り小屋の中へ訊ねる。
「ああ、ほんにお前さんは食いしん坊ぢゃの。サギの食いしん坊はお前さんに似たんぢゃ」
婆様のお鴇は糸を紡ぎながらケラケラと笑う。
「イヤぢゃあ。わしゃサギほどの食いしん坊ぢゃないぞえ」
お鶴の方もケラケラと笑う。
過去の記憶を失い、赤子と同じくまっさらな状態から十四年の月日を経て、お鶴の方はサギと変わらぬほど明朗快活な女子であった。
「……」
そのお鶴の方の姿を小屋から十間ほど離れた木の陰から覗き見ている男がいた。
鬼武一座の座長である。
「……」
座長の目にはウルウルと涙が滲んでいる。
「ワンッ」
小屋の前で忍びの犬の摩訶不思議丸が吠えた。
「……っ」
座長は忍びの犬に警戒して、さらに五間ほど奥まった獣道へ入り、また木の陰から小屋のほうを覗き見た。
かなり遠目になったが、それでもお鶴の方が「えいや」と袖搦を勇ましく突き上げて柿の実を取っている姿が見える。
袖搦とは長い柄の先にギザギザの鉤の束が付いた武器だ。
お鶴の方はなかなか見事な腕前で柿の実を次々と落とし、素早く宙で掴み取っては籠にポイポイと入れていく。
なんと楽しげに生き生きとした姿であろう。
「……」
座長はお鶴の方の姿を目に焼き付けるように見続けている。
そこへ、
バサッ、
バサッ、
我蛇丸が木の枝からヒラリと地面へ飛び下りた。
「……」
座長はハッとしてから観念したような笑みを浮かべて我蛇丸の顔を見返した。
「必ずやここへおいでになられるであろうと――」
我蛇丸は慇懃な口調で目礼する。
「お久しゅうござりまする。雁右衛門殿」
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