PictureScroll 昼下がりのガンマン

薔薇美

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第10弾 マイフェアレディ

Fall rain(雨よ、降れ)

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 その時、

 食~べ~放~題~♪
(曲は『焼き肉食べ放題の歌』)

 メラリーのケータイの着ウタが鳴った。

「――あ、ガンマン会の爺さんからメールだ」

 件名に[ガンマン会の会合のお知らせ]とある。

 ガンマン会|(ガンマン・メラリーを援護射撃する会の略称)の会長からのメールは、

[明日は朝から降水確率100%だと~。雨キャンだろうから一緒にカラオケとランチはどうか~い?メラリーちゃん、何、食べた~い?\(゚∀゚)/]

 という能天気なお誘いだった。

「やた~♪明日は朝から降水確率100%~♪雨キャン、カラオケ、ラ~ンチ~♪」

 メラリーは「ヒャッホー」と飛び上がって、

[回らないお寿司が食べたいで~す。(*^¬^*)♪]

 と返信した。

 ここのところ晴れ続きだったので明日が雨キャンならショウのキャストは久々の休暇になる。


「一緒にカラオケ?あんな爺さん達って、何、歌うの?ド演歌?」

 ケントは爺さん連中とのカラオケ&ランチで大喜びするメラリーを(物好きだなぁ)という目で見やる。

「おいおい、戦後の焼け跡世代をナメんなよ。子供の頃にハロー、ハロー、ギブミー・チョコレート、カムカムエブリバディの世代だぜ?」

 ジョーがチッチと人差し指を左右に振る。

「ええ。なにしろタウンの常連ですからね。アメリカ民謡を歌うんですよ。カラオケの最後は皆さんで『オールド・ブラック・ジョー』の大合唱だそうです」

 太田は自分の祖父もガンマン会のメンバーなので詳しい。

「爺さんがみんなで『オールド・ブラック・ジョー』を大合唱?」

 ケントは目を剥いて(なんてシュールな)と唸った。

 楽団のケントは有名なアメリカ民謡はほとんど演奏しているが『オールド・ブラック・ジョー』とはこんな歌だ。


『若き日 早や夢と過ぎ 我が友 みな世を去りて あの世に 楽しくねむり かすかに我を呼ぶ オールド・ブラック・ジョー 我も行かん 早や老いたれば かすかに我を呼ぶ オールド・ブラック・ジョー』


 まるで今にも爺さんが昇天してあの世に行ってしまいそうな歌ではないか。

 アメリカ民謡といえばフォスターだが、原曲もこの緒園おぞの凉子りょうしの日本語の訳詞もすでに著作権切れなのだ。


「ショウが雨キャンになれば楽団も雨キャンじゃん。明日、ケントも一緒に行こうぜ~?」

 ジョーが気安げに誘う。

「でも、俺、ガンマンじゃないし、呼ばれてないのにガンマン会の会合に行っていいんすか?」

 ケントはちょっと行きたい気になっていた。

「気にすんなって。呼ばれたのはコイツだけ。俺だって呼ばれてないのに行く気満々だぜ~?」

 ジョーはメラリーの頭をポンと叩く。

「ケント、ギター弾けるんだよね?ギター持ってきて俺の歌の生演奏してよ。で、ジョーさんと2人でヨーレイヒ~♪のところでハモって」

 メラリーがカラオケで歌うのは、勿論、『焼き肉食べ放題の歌』だ。

「ヨーレイヒ~♪っすか?」

「いや、お前は高めにヨーレイヒ~♪で、俺は低めにヨーレイヒ~♪」

 さっそくケントはジョーとヨーレイヒ~♪のハモりの練習を始める。


(――いいなぁ)

 クララは羨ましげに聞き耳を立てていた。

 実は明日から火水木金とクララは4連休だった。

 それというのもクララは木金が休みだが、今年は正月休みを取るキャストの替わりに元日2日の木金に出勤したので火水はその振り替えの休みなのだ。

 だが、せっかくの4連休だというのにクララには何の予定もなかった。


(わたしも行きたい)

(ガンマン会の会合に混ざりたい)

(ジョーさんとヨーレイヒ~♪をハモりたい)

 クララは頭を抱えて考えを巡らせた。

 メラリーに「わたしも行っていい?」と素直に訊けば済むことなのにクララにはそういう当たり前の考えがなかった。

「ねぇ?メラリーちゃん?」

 クララは後ろ側のテーブルに振り返り、

「わたし、明日、お休みだからオヤツを作ってみんなに差し入れしようと思ってるんだけど」

 遠回しに切り出した。

「えっ?クララさんの手作りオヤツっ?」

 メラリーはクルッと喜色満面で振り向く。

「うん。明日、何時頃に持ってきたらいいかしら?」

 とにかくクララは自分の知らないうちにメラリーとジョーがガンマン会の会合に行かないように画策した。

「う~ん、雨キャンでもミーティングが1時間もあるから11時くらいかなぁ?」

 一応、朝から雨降りで雨キャン確定の日でもショウのキャストはバックステージに集合してミーティングという名の無駄話をしてから解散する決まりになっている。

「じゃ、11時までに持ってくるわね」

 差し入れと言ったからには多めに作ってこないとならない。

 お菓子の材料など何も用意していないが家がパン工場こうばなのでなんとかなるだろう。

 なんならパンの耳を揚げて砂糖をまぶしただけの簡単なオヤツだっていい。

 パン工場にはサンドイッチを作った後のパンの耳が大量にあるのだから。

(んふふ、オヤツは手抜きでいいわ)

 クララはニンマリした。

(明日、雨が降りますように)

 いつもなら憂鬱な雨がこれほど楽しみなことは初めてだった。
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