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第10弾 マイフェアレディ
Conversation that lacks worth and usefulness(とりとめのない無駄話)
しおりを挟むあくる日。
朝から降水確率100%の予報どおりの雨。
ウェスタン・ショウは雨キャンだ。
ショウのキャストはミーティングルームでミーティングという名の無駄話に興じていた。
「バッキーは雨キャン、何すんの~?」
メラリーがホワイトボードに握り寿司の落書きをしながら太田に振り返る。
太田はタウンでのバイトを家族に内緒にしているために祖父のいるガンマン会の会合へ行くことが出来ないのだ。
「勿論、乗馬の練習に励みますっ」
太田は力強く即答した。
騎兵隊キャストのオーディションに備えて乗馬、乗馬、乗馬の特訓だ。
乗馬クラブには雨天でも練習が出来る屋根付きの馬場もある。
「俺も騎兵隊キャストになった暁には一緒にヨーレイヒ~♪をハモりますからっ」
太田は必ずやオーディションに受かって次の機会には堂々とガンマン会の会合に参加しようと心に決めていた。
「ヨーレイヒ~♪」
「ジョーさん、毎回、音程がビミョーっすよ。ヨーレイヒ~♪っすから」
ジョーとケントは今日もハモりの練習を繰り返している。
ケントは楽団キャストだけにジョーのビミョーな音程をいちいち指摘するのでキリが付かないのだ。
「ケントまでガンマン会に行くのかぁ」
アランは羨ましげに吐息した。
「アランは雨キャン、何するんだ?」
ケントが訊ねる。
アランはケータイの計算機で何やらポチポチと計算していた。
「俺、雨キャンはホテルのバイト。ちょっとまとまった金がいるから」
実はアランは性懲りもなく来月2月のバレンタインデートでクララにプロポーズのやり直しをするつもりだった。
プロポーズにはエンゲージリングを渡すものと聞いたので宝石の付いたエンゲージリングを買うためにちょっとどころか、かなりまとまった金が必要なのだ。
「ねぇん?メラリーちゃあん?お寿司カラオケ、わたし達も行ってい~い?」
「昨日のカンカンの祝勝会では歌えなかったから喉がムズムズしてるのよぉ」
アンとリンダが鼻に掛かった甘え声でメラリーに迫ってきた。
「じゃ、アンさんとリンダさんは俺の歌の時にラインダンスして」
メラリーは自分の後援会の会合なのでエラソーにヒトをこきつかう。
「お安いご用よ」
「任せてよ」
アンとリンダは膝がオデコにくっ付くほど高くハイキックしてみせた。
2人は常日頃からハイキックに備えてパンツスタイルだ。
「お前等、どうせ寿司は食わねんだろ?」
ジョーが分かりきったように決め付ける。
ハニーの中でもアンとリンダとは付き合いが長いが一緒に食事したことなど一度たりともなかった。
「当然でしょ」
「お寿司なんて砂糖がどっさり入った酢飯に薄っぺらい生魚がのってる食べ物、わたし達が食べる訳ないじゃない」
アンとリンダは抜群のプロポーションを保つために食事制限を徹底していた。
「まったく、お寿司だなんてメラリーちゃんたら、せっかくの団体さんの会合なのよ?ここはタウンにある食べ物をリクエストするべきでしょっ」
ゴードンは厳しくダメ出しする。
西部開拓時代を模したウェスタン・タウンに寿司屋はないのだ。
「だって、タウンにステーキ以外の食べ物なんてあるんすか?俺、ステーキはお食事券があるし、他にご馳走になるような店なんて知らないし~」
メラリーはタウンでステーキ以外はスイーツしか食べたことがない。
「インディアン料理があるだろ。インディアン料理が」
レッドストンが横から口を挟む。
「インディアン料理~?そんなの食べたことないし~」
食いしん坊のメラリーでもインディアン料理に関心を持ったことはなかった。
「ふふん、知らねえだけでアボカドのディップやクラムチャウダーやプディングも元々はインディアン料理なのさ」
レッドストンは得意げだ。
実家が『若草の切妻屋根の小さな家』というペンションのレッドストンは調理師の免許も持っているし、タウンのメインストリートで先住民キャストがやっている酒場『アパッチ砦』ではインディアン料理も出していた。
「レッドストン、料理するんだ?」
メラリーは怪訝な顔をする。
妹のルルの料理は殺人的に不味いというのに兄のレッドストンは調理師だったとは。
「アボカドってのはインディアンの言葉で『睾丸』って意味のアウカロが変化してアボカドになったと言われてるんだぜ」
レッドストンが説明する。
アボカドは形が睾丸に似ているから付いたネーミングなのだ。
「睾丸って思ったらアボカドを食べる気が失せるじゃんかよ~」
ジョーは顔をしかめた。
寿司屋ではアボカドのカリフォルニアロールが食べたかったのだ。
「インディアン料理といったらラム肉よね」
マダムがさりげなく睾丸から話を反らす。
「ラム肉は美容に良いのよ。ビタミンが豊富で脂肪燃焼の効果があるの。ナバホシチューをよく食べるわ」
インディアン料理にナバホシチューというラム肉のシチューがあるのだ。
「そう聞いたら急にナバホシチューが食いたくなってきたな。昼に食いに行くか?」
ロバートがマダムを見やる。
「え、ええ」
マダムは驚いて目を見開いてから用心深く周囲をキョロキョロした。
果たして誘われたのは自分だけだろうか?
どうやら他のキャストは誰も行かないようだ。
「勿論、行くわ。ナバホシチュー、久々だわぁ」
マダムはロバートと2人の昼食に嬉々としながらもナバホシチューが楽しみのように誤魔化した。
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