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第10弾 マイフェアレディ

tomorrow at last(ついに明日)

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 そんなこんなで、あっという間にフレンチカンカンのオーディション前日。


 今日も夕食時のキャスト食堂では、

「ああっ、もぉう、メラリーちゃんっ?カツ丼を食べた後にアイスクリームとドーナツなんて食べないでってばっ」

 アニタがメラリーに八つ当たりしていた。

「んぐ、んぐ」

 メラリーはアイスクリームとドーナツを交互に頬張り、

「んう~、口の中でほどよい甘さの冷たいアイスクリームとしつこい甘さの熱々のドーナツが混ざり合って絶妙~」

 これ見よがしの実況をしている。

「ああっ、もぉう、メラリーちゃんなんて鬼よっ。悪魔よぉっ」

 アニタはヒステリーに喚き散らす。


「毎日毎日、飽きもせずに」

 クララは連日のアニタの八つ当たりにやれやれと肩をすくめた。

 しかし、アニタは大好きなスイーツや揚げ物や炭水化物を適量にしてダンスのレッスンに励んだおかげでウエストはすっきりとクビレている。

「アニタ、ああしてメラリーちゃんに八つ当たりするのがストレス解消になってるみたいなのよね」

「うん。メラリーちゃんだってそれが分かってて、わざとアニタに怒鳴らせてあげてるんじゃない?」

「意外にメラリーちゃんって懐の深い優しいコよね~」

 ミーナ、スーザン、チェルシーは性善説な見解を述べる。


「かあ~、分かってねえ。世間はメラリーという奴をまったく分かってねえなっ」

「だな。メラリーは心から楽しんでアニタに高カロリーのメニューを見せびらかして食べてるだけなのになっ」

 トムとフレディはメラリーが懐の深い優しいコという見解を全力で否定する。

「俺は永遠にメラリーちゃんの謙虚なる従者ですが、トムとフレディの意見に異論はありません」

 太田はメラリーを悪意のない天性の無邪気なS王子だと思っている。

「ちっ、心の汚れちまったお前等には分からねえんだよ。メラリーの純真な天使っぷりがよ。今日だってアニタがオーディションに勝てるようにわざわざカツ丼をチョイスしたんだぜ」

 ジョーはメラリーがカツ丼を選んだ理由まで深読みした。

 本日のサービスメニューがたまたまカツ丼だっただけとは思ってもいない。

「メラリーの奴は根っからナチュラルに意地悪だからジョーさんのドMごころをくすぐるんだよな」

「だな」

 トムとフレディは後輩のメラリーをチヤホヤチヤホヤするジョーに不甲斐なさげな視線を向けて2杯目のカツ丼を頬張る。

 毎年毎年、トムとフレディは他人事ながらオーディションのこの時期がイヤだった。

 目標を達成して嬉しいヒトを見ると気が焦ってしまうし、成し得ずに悲しむヒトを見ると気が滅入ってしまう。

 どっちにしてもオーディションでハッキリと合否が決まることが羨ましくもある。

 ガンマンキャストではあるもののガンマンデビューをしていない2人は宙ぶらりんなポジションだ。

 そのうえ後輩のメラリーが先にガンマンデビューしてからずっと憤懣が山のように積もりに積もっている。

 いったい、いつになったらガンマンデビューが出来るのか分からない焦燥感で心の中で「ちくしょう」「ちくしょう」と喚きながら地団駄を踏む毎日なのだ。


 チャッチャ~♪
(曲は『天国と地獄』)  

 バミーとバーバラのケータイの着メロが鳴る。

 2人は節約生活のために1台のケータイを共用で使っている。

「――あ、花子先生からメールだ」

「え~と、今日と明日は花子先生がマーサさんの病院に行くから、わたし達はバイト休んでいいって」

 今日は日曜、明日は成人の日の祝日でマーサの息子のお嫁さんで中学教師の花子先生は休みなのだ。

 おかげでオーディションの準備に専念することが出来る。

「もうマーサさんちのお手伝いさん慣れた?」

 クララが2人に訊ねた。

「うん。すっごい昔ながらの大きな農家で落ち着くし、ちゃんと畳の上に布団を敷いてぐっすり眠れるんだ」

「マーサさんの孫の咲ちゃんと雪ちゃんもなついてくれて可愛いし、ニャンコも可愛いし、毎日、癒されて天国だよ」

 バミーとバーバラは心身ともに絶好調という満面の笑みだ。

「それなら安心した」

 クララは自分が2人に持ち掛けたバイトが順調でホッとする。

 この調子ならアニタ、バミー、バーバラは3人ともカンカンのオーディションは楽勝に違いないと思った。

 なにしろ今年のオーディションでは踊り子を5人も採用するというのだから、5人の中に3人が入らないことなどクララには考えられなかった。

 勿論、3人の他にオーディションを受ける候補者の顔ぶれなど知らないので希望的にそう思っているだけなのだったが――。
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