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第8弾 降っても晴れても
It becomes hot with chili pepper(唐辛子で熱くなる)
しおりを挟む(あっ、ルルちゃんと睨み合ってたら5分も過ぎちゃった)
クララが急ぎ足でキャスト食堂に入ると、すでにガンマンキャストはテーブルに着いていた。
今日は自分もお弁当にしたのでそのまま後ろ側のテーブルに紙袋を置く。
(あっ、そうだ)
紙袋の中を見てハッと気付いた。
「アラン。これ」
騎兵隊キャストのテーブルにいるアランにマシュマロ入りブラウニーを差し出す。
「ありがとう。てっきり、クララちゃん、俺のこと忘れてるんじゃないかと思ってたよ」
アランは待ちくたびれたような笑顔で受け取った。
「そ、そんな」
クララは困り顔して笑って誤魔化す。
(そうよ。忘れてたのよ。まったくアランってば察しがいいんだから)
ブラウニーは昨日、アニタが返してくれたものをアランにあげたのだ。
一応、ラッピングの袋とリボンは綺麗な新品に取り替えてきたが。
「あら?朝定食、洋食なのね?」
アランはトースト2枚にバターとジャムをたっぷり塗っている。
「うん。俺、コメよりパン党だから」
アランはパン工場の娘のクララにパン好きをアピールする。
「そうなの」
クララはどうでも良さそうに言って席へ戻った。
「クララちゃん」
「こっちで一緒に食べない?」
バミーとバーバラが声を掛けてくる。
「――え?」
期待いっぱいに顔を上げて見ると2人が座っているのはガンマンキャストと同じテーブルだ。
8人掛けのテーブルにジョー、メラリー、ロバート、マダム、向かい側に太田、バミー、バーバラという並びで座っている。
「ええ。ありがとう」
クララは満面の笑みでいそいそとバーバラの隣の席に座った。
キャスト食堂のテーブルはかなり大きいし、対角線の左端と右端で離れてはいるがジョーと同じテーブルで食事なんて初めてのことだ。
(ああ、ついに同じテーブルで昼ご飯。ここまで来るの長かったぁ)
クララはジーンと感動を噛み締める。
「クララちゃん、お弁当なんだ?」
「アニタに作ってあげたダイエット弁当と同じ?」
バミーとバーバラがクララの弁当箱を覗き込む。
「うん。同じよ。あ、これ、作り過ぎちゃって、良かったら」
クララはコンニャクのピリ辛炒めのタッパーをテーブルに置いた。
「あっ、何それ?」
メラリーがさっそく身を乗り出す。
「コンニャクのピリ辛だよ」
バミーが答える。
「あら、唐辛子のカプサイシンは代謝を上げて脂肪を分解しやすくなるからダイエットには最適よね。さすがね。クララちゃん」
マダムがクララにニッコリする。
「いえ、そんなぁ」
ガンマンキャストのお母さん的存在であるマダムに褒められてクララは笑み崩れた。
そのクララの顔を見ていたアランは、
「クララちゃん。俺には?」
自分にコンニャクのピリ辛炒めをくれなかったのを責めるように口を挟んだ。
「だって、アランはジャム付きトーストだもの。合わないでしょ?」
クララは意に介さない。
「いや、合わないとかいう問題じゃないからっ」
アランは手作り弁当のお裾分けは彼氏の自分が最優先されるべきと言いたいのだ。
「コンニャクのピリ辛くらいで文句言うなよ」
「そうそう」
ヘンリーとハワードは勝手にブラウニーの袋を開けて1個ずつ食べている。
「あっ、誰が食べていいって言ったんすかっ?」
アランはキッと振り返って声を荒げる。
「お前、嫉妬深いうえにケチかよ?」
「メラリーでさえトムとフレディにブラウニー2個も分けてやったんだぜ?」
ヘンリーとハワードは「ほらよ」と4個残ったブラウニーの袋をアランに突き返した。
「もぉっ、うっかりテーブルに置いとけやしない」
アランは渋面してブラウニーの袋をまたリボンで結んでポケットに仕舞った。
「ん~っ、コンニャクのピリ辛、美味し~っ。納豆ご飯に合う~っ」
メラリーはもうコンニャクのピリ辛炒めをご飯の上に山盛りのせてモリモリと頬張っている。
「ちょっとぉ、全部、食べないでよ」
「わたし達、晩ご飯の時に食べるんだから」
バミーとバーバラがタッパーを引ったくる。
「何で今は食べないの?」
クララは不思議そうに訊ねた。
「ああ、唐辛子は発汗作用があるから」
「わたし達、着ぐるみで踊るんで体温の上がる食べ物はショウの前は控えてるんだ」
バミーとバーバラは残念そうに答える。
「あ、そうなのね」
クララはなるほどと納得した。
「俺は着ぐるみじゃないし、野外ステージは寒いから唐辛子で体温上がってちょうどいい~」
メラリーは気にしない。
「あの、着ぐるみは禁句ですから」
太田が小声で注意する。
「ガンファイトで汗掻くと汗が冷えてブルブルだぜ~」
ジョーはちょっと心配そうだ。
「俺、汗掻くほど動かないし~」
メラリーは聞く耳を持たずにモリモリと食べ続ける。
(ああ、ジョーさん、わたしのコンニャクのピリ辛、食べないんだ)
クララはガッカリした。
やはり、みなプロのパフォーマーなのでショウの前はコンディションを考えているのだ。
「皆さん、いつもパンよりご飯なんですか?」
クララはもうコンニャクのピリ辛炒めはいいからと話題を変えた。
「――?パンはオヤツだし~」
メラリーはそもそも食事にパンを食べる奴が信じられないという顔をする。
「おう。パンはオヤツだよなっ」
「だなっ」
トムとフレディがやってきて隣のテーブルに着いた。
通路側じゃない隣はテーブルがくっ付いているのでクララの横がトムの巨体だ。
「いただきますっ」
トムは礼儀正しくクララに一礼してコンニャクのピリ辛炒めをご飯に山盛りのせた。
「あっ、取り過ぎぃ」
「わたし達の分、なくなっちゃう」
バミーとバーバラはまたタッパーを引ったくる。
キャラクターダンサーはギャラが安く貧乏なので食べ物の確保に必死なのだ。
(ふぅん、明日は辛くないオカズを多めに作ろう)
クララは今度はバミーとバーバラのためにもとお弁当のメニューに考えを巡らせた。
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