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第7弾 明後日に向かって撃つな!
The passage point(通過点)
しおりを挟むあくる朝。
ガチャ。
メラリーとジョーは同時に扉を開いて廊下でバッタリと出くわした。
同じ時間の巡回バスに乗ってタウンへ行くのだから顔を合わせるのは必然なのだ。
「はよ~っ」
ジョーはスカッと爽やかな笑顔を見せる。
「……」
メラリーはプイッと顔を背け、分かりやすくジョーを無視して階段を下りていく。
「――え?なんだよ。まだ不貞腐れてんのかよ?」
ジョーはやれやれと目の前のバス停留所を見ると、
「おっはよ~」
メラリーはいつもどおりにバス停留所にいる他のキャストに明るく挨拶している。
「あっ?俺だけ無視?何で?」
まさか自分がメラリーを怒らせたとはジョーは思ってもみない。
ジョーは以前と変わらない本来のスケコマシに戻っただけなのだ。
その午前中。
バックステージの建物のロビーでは、
ゴードンと騎兵隊キャストのリーダーのマーティ、サブのヘンリー、ハワードがテーブルに大量の書類を広げて何やら相談していた。
「あなた達の意見は~?」
「俺等はみんなバッキー推しですよ。もうすっかり騎兵隊キャストと馴染んで気心は知れてるし」
「でもね~、ルックスは平凡だし、身長が172㎝なのよね~。騎兵隊キャストは平均身長180㎝以上のイケメン揃いというのが売り文句なのに~」
「いや、175㎝のダンさんが抜けて185㎝のアランが入ったので平均身長は以前より上がってますから。――あ、大丈夫。180㎝以上です」
マーティはわざわざ電卓で平均身長を弾き出してデジタル表示を見せる。
「それにバッキーなら座高は俺等と変わんないっすよ」
「騎兵隊はショウもパレードもずっと馬に跨がったまんまっすから。みんなと座高が変わらなければ身長差なんかゲストからは分かんないっすよ」
ヘンリーとハワードは太田の胴長短足を強調してまでも太田を推す。
「う~ん、わたしはバッキーには先住民キャストのほうが似合うと思うんだけどね~。――と言っても、今回も騎兵隊キャストしか募集はないんだけど」
ゴードンは顎に手を当てて難しい顔をする。
ルックス重視のゴードンにとって新キャストの選考はルックスがなによりの判断基準なのだ。
そこへ、
早めの昼食にやってきたガンマンキャストとキャラクタートリオ(中身)がロビーへ入ってきた。
「あら、バッキー。ちょうどいいわ。ホントは郵送するんだけど封筒と切手をケチって手渡ししちゃう」
ゴードンは書類を太田に差し出す。
「あっ、これは――」
太田の顔がパアッと輝いた。
「書類審査は通過よ。あとは来年1月にある実技のオーディションだけね」
ゴードンが太田に渡したのは騎兵隊キャストのオーディションの書類審査の結果通知だった。
「あれ?でも、たしか書類審査の次には面接があるのでは?」
太田は几帳面にゴードンに確かめる。
「いいのよ。タウンのキャストは面接は免除よ。キャストやっていて知ってるのに。今さら面接なんて時間の無駄でしょ」
ゴードンは忙しげにバサバサと書類を茶封筒に仕舞うと「さ、お昼にしましょ」とソファーを立って、
「だいたい、あなたのことは高校生だった頃から知ってるわよ。わたし、タウンのオープン前から豚珍館にはよく食べに行ってたんだから」
キャスト食堂へ歩きながらポロッと太田の個人情報をしゃべった。
「――へ?豚珍館?」
ジョーとみなが太田の顔を見返す。
「あ、俺のうち、豚珍館なんです。高校生の頃は夏休みと冬休みは店を手伝っていたので」
太田は駅前のアラバハ商店街の中華料理店、豚珍館の息子だったのだ。
世間は狭いというが、このド田舎ではさらに狭かった。
「へえ?それじゃ、ガンマン会のあの豚珍館の爺さんってバッキーのお祖父さん?」
メラリーは(そういえば、ちょっと似てたかも?)と爺さんの顔を思い浮かべる。
「ええ。俺が子供の頃から西部劇ファンになったのも爺ちゃんの影響で」
太田はにわかに悩ましげな顔になった。
「バッキー。お前、家族にバッキーの中身やってること言ってねえんだろ?」
「あ、そうよね?昨日、ロバートがお祖父さんと話した時に孫がショウのキャストなのに何も言わなかったなんて変だもの」
ロバートとマダムは察し良く気付いた。
そういえば、あの時、バッキーの太田は豚珍館の爺さんが現れて挙動不審にあたふたしていたのだ。
「――はい。実は勤めていた学習塾を辞めたことも、タウンでバイトしていることも家族には何も話してないんです。晴れて騎兵隊キャストになってから話すつもりで」
太田は神妙に打ち明ける。
なまじっか学業成績が優秀だった太田は両親に店は継がなくていいと言われて地元の公立大学まで出してもらったのに今さらショウのキャストになりたいとは言えなかったのだ。
「それで、昨日はバッキー、ホテルアラバハに来なかったんだね」
「ガンマン会の爺さん連中と顔を合わせちまうもんな」
「だな」
バミー、バーバラ、トム、フレディが納得顔をする。
「とにかく、今は実技オーディションに向けて勇往邁進するのみですっ」
太田は書類を手に決意を新たにしたように口元を引き締めた。
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