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第7弾 明後日に向かって撃つな!

Opportunity of talking(話す機会)

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「でね~、いなご新聞で~、クララちゃんはサンサンパンさんで~、アランはパン党で~。おまけにクララちゃんはお菓子作りで~、料理も和洋中で~、アランの理想の奥さんで~」

 へべれけのタマラは言っていることが支離滅裂だが、ともあれアランの交際宣言の内容がクララにほぼ伝わった。

「え、ええと、自己紹介に趣味はお菓子作りとか料理が得意とか書いたけど、ものすご~くたまにしか作らないんです」

 クララは正直にホントのところを言った。

 実際はスイーツ・ワゴンの仕事でニオイだけでお腹いっぱいで、自宅でお菓子を作ったのは1年ぶりくらいなのだ。

 料理も学校で習ったきりで自宅では食事の支度などしたこともない。

「――あ、わたし、サンサンパンはよく差し入れに買うのよ」

 マダムはサラッと話題を変えた。

「特に海老カツサンド。野菜がピーマンの千切りだけに変わってから美味しさが倍増したと思うわ」

「あ、ありがとうございます」

「前はキャベツにピーマンが混ざっていたけどピーマンだけに絞ったのは大正解だわよ」

「やっぱり、そうですよね」

 クララとマダムは海老カツサンドの野菜の話ですっかり話が弾んだ。

 もっともクララのコミュニケーション能力ではマダムの話に相槌を打つくらいがやっとだ。


 ジョーは相変わらずクララと半径5メートルの距離を保っていたが、

「あっ、生魚なまざかなばっか食ってねえで、生野菜だろうがっ」

 やにわに耳に入った野菜の話題でハッと気付いたようにサラダバーへ走っていった。

 とにかくジョーはいつでもメラリーに生野菜を食べさせたくて仕方ないのだ。

 嫌がるメラリーに抵抗されてボカスカと殴る蹴るされるのがジョーのよろこびなのだ。

「……」

 メラリーは臨機応変にジョーがサラダバーにいる隙に無表情のまま出入り口へスタスタと向かっていく。

「んぐ?メラリーの奴、帰るのか?」

「あ、いつもどおり練習するつもりじゃね?」

「おっ?ちょうど駅前にタウンの送迎バスが着く頃じゃん」

 トムとフレディは慌てて寿司を口に放り込み、お茶でゴックンと飲み下し、メラリーの後を追って青天の間を駆け出ていった。


「――あれ?メラリーは?」

 ジョーが山盛りサラダを両手に戻ってきた時にはメラリー、トム、フレディにバミー、バーバラまで帰った後だった。

「みんなタウンに戻って練習ですって。――あ、サラダはわたしがいただくわ」

 マダムはジョーからサラダを1皿、受け取る。

「クララちゃんも良かったら食べて?」

「はい。ありがとうございます」

 マダムに勧められてクララは喜んでジョーの持ってきたサラダを自分の皿に取り分けた。

(ジョーさんが選んできた野菜――)

 なんとなくジーンと感激の面持ちでサラダを見つめる。

 サラダ菜、キュウリ、ニンジン、ピーマン、アスパラガス、プチトマト、スイートコーンが彩り良く盛られている。

(メラリーちゃんは生野菜が嫌いだから、これはジョーさんの好きな野菜かしら?)

 クララはそう思ってサラダの野菜の種類を覚えておいた。

「あ~あ、なんだよ」

 ジョーは不興げにスティックのニンジンを咥えてポリポリと齧っている。

 メラリーにニンジンを無理くり食べさせられなくて寂しそうだ。


(あ、もしかしたら、今がジョーさんに話し掛けるチャンスじゃない?)
 
 クララはプチトマトを頬張ってハッと目を見開いた。

 メラリーも太田もいなくてジョーが1人で暇そうなんて滅多にないことだ。

(ジョーさんにもう半径5メートルの距離は解除していいからと言ってみようかしら?マダムが一緒にいるから上手く取りなしてくれるだろうし)

 とにかく、こんな機会はそうそうないのだ。

「――あ――の――」

 クララが勇気を奮い起こして声を出した、その時、

「ジョーちゃあ~ん、おっまたせ~っ」

 弾けるような明るい声が聞こえて、フレンチカンカンの踊り子のアンが出入り口から手を振りながら駆け寄ってきた。

「あ~?待ってねえし」

「なによ~。サルーンのディナーショウが終わってから、すっ飛んできたのよ~」

 ちょうどアンがタウンから駅前まで乗ってきたタウンの送迎バスに入れ替わりでメラリー達は乗って帰ったらしい。

(な、なによ。もう)

 クララは恨めしげにアンを睨んだ。

 アンの服装はピタピタのニットにスリムなジーンズでボディラインが一目瞭然である。

(な、なんてスタイル抜群なの)

 クララは嫉妬と羨望の眼差しでアンの突き出たバストとヒップを凝視した。

 腰の位置が高くジーンズの後ろポケットの位置にヒップが収まる日本人なんてそうはいない。

 クララなど前か後ろか区別も付かない平べったい体型なのだ。

(こんなグラマー美女に勝ち目ない。どうしよう。完敗だわ)

 クララは半泣きの絶望的な顔になった。

 とにかくクララはすぐに顔に出てしまう。

「……」

 マダムは一喜一憂するクララの顔を同情的な眼差しで眺めながらアスパラガスを摘まんでいる。

 ちなみにマダムはロバートが駅前の中華料理店、豚珍館とんちんかんで家族と夕食を済ませてからホテルアラバハへ顔を出すというのでずっと待っているのだ。
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