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第5弾 踊り明かそう

Aim at championship(優勝を狙え)

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 いよいよクリスマスイブ。

 ウェスタン牧場。

 今日のショウとパレードを終えたジョー、メラリー、太田はバリバリのウェスタンファッションに着替えてロデオ大会の会場へやってきた。

「あ、来た来た」

「こっちっすよ」

 騎兵隊コスチュームのままのヘンリーとハワード、他の騎兵隊キャスト達は一足先に会場へ来ていた。

 珍しくアランの顔も見える。

「アランもエントリーしたんですか?」

 太田が訊ねる。

「いや、俺はみんなの応援っすよ。ロデオなんてヅラがズレそうでヤバイっすから」

 ハゲがバレてから一皮剥けた感のあるアランは涼しい顔して軽口を叩く。

 騎兵隊キャスト達の間を抜けてジョー、メラリー、太田は会場の円形の柵の一番前へ出た。


「――ゲッ?あ、あれは――?」

 3人は揃ってビックリとのけぞった。

 円形の柵に囲まれた円形のステージの中央には暴れ牛を模したロデオ体験マシーンがデーンと鎮座ましましている。

「ロデオって、あれ――で?」

 ジョーは片眉を上げて口をひん曲げた。

「あ、言ってなかったっけ?」

「ファミリー向けの牧場に本物の暴れ牛も暴れ馬もいないよな?」

 ヘンリーとハワードはケロッとして言った。

「……」

 ジョー、メラリー、太田は柵にグタッと身を凭れて落胆の面持ちである。

 ロデオ体験マシーンの暴れ牛の模型が漫画っぽいマヌケなデザインなのにもガッカリだ。

 そこへ、

「ふふん、マシーンと思ってナメて掛かんなよ。結構、手強いぜ。ヤツは――」

 先住民キャストのレッドストン、ブルマン、ブラツリ、グリリバがやってきた。

 みなインディアンの出で立ちでレッドストンはいつものように頭に派手な羽根飾りまで被っている。

「やっぱり、お前等もエントリーしたのか?」

 ヘンリーとハワードは敵対心を燃やす。

 騎兵隊キャストと先住民キャストは和解したとはいっても良きライバル関係なのだ。

「前回は6位でマーティに抜かれたが今回はリベンジ――と思ったらよ。あんの野郎~、家族サービスで不参加だって?ふざけやがって」

 レッドストンはチッと舌打ちする。

「俺は前回7位だったから、今回は5位以内には入りたいぜ」

 ブルマンは屈伸して早くも準備体操を始める。

「か~ぁ、目標がちいせぇ、ちいせぇ。優勝を狙えよ。優勝をっ。なっ?メラリー?」

 ジョーが威勢良くメラリーの肩を叩く。

「うんっ。俺はハッキリ言って優勝狙いだからっ」

 メラリーは自信満々に宣言した。

「メラリー、お前が?乗馬だって初心者のくせに」

「身の程知らずな」

 グリリバとブラツリが呆れ顔をする。

「お、俺だって、参加するからには優勝を狙っていきますっ」

 太田も拳を突き上げて宣言する。

「よしっ。俺も優勝を狙っていくぞ」

 レッドストンも負けじと宣言した。

「打倒カウボーイ・ビリーっ」

 一同は輪になって「エイ、エイ、オー!!」と気勢を挙げた。 


 一方、

 当のカウボーイ・ビリーは円形の柵の向かい側で仲間のカウボーイ達の一番後ろに隠れるように待機していた。

「……」

 ビリーは仲間のカウボーイ達の肩越しにチラチラと覗き見るようにタウンのキャスト達を見ている。

「どしたの?ビリー?」

 カウガールのモーリンとモーレンが近付いてきた。
 
 2人はロデオ大会の司会者のアシスタントを勤めるのだ。

「エ、エンドリーしだ女のゴ、来でねぇが?」

 ビリーは赤面しながらモジモジと小声で訊ねる。

「――え?」

 モーリンとモーレンはロデオ体験マシーンを挟んで向かい側の柵の前にいるメラリーに目を向けた。

 ドレスと巻き毛のウィッグじゃなくても本人と分かりそうなものだが、ビリーはよほど鈍いのか判別が付かないらしい。

「ああ、きっと誰かの代わりに申し込みに来ただけだったんじゃない?」

 モーリンはモーレンに目配せする。

「そうよね。女のコはやっぱりエントリーしてないわよ」

 モーレンも話を合わせる。

「そ、そっが。そだな」

 ビリーはガックリとうなだれてトボトボと2人から離れていった。

「ビリーってば、すぐ目の前にいたのに、普段のメラリーちゃんには気付かないのね」

「わざわざ教えてビリーの夢を壊すことないわよ」

 モーリンとモーレンはあえて黙って知らん振りしていることにした。
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