PictureScroll 昼下がりのガンマン

薔薇美

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第5弾 踊り明かそう

Catch(キャッチ)

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「あどゴ、可愛があいがっだなぁ」

 ビリーは投げ縄を胸にいだき、うっとりしていた。

「あっ、ビリー?本番5分前だよっ」

 ウェスタン牧場のショウのスタッフが慌ただしく呼びにきた。

「あっ、いば、行ぐっ」

 ハッと我に返り、ビリーはバタバタと馬場へ急ぐ。

 牧場でもタウンと同時間帯にショウがあるのでビリーはウェスタン・ショウを観たことがなかったのだ。

 
 ウェスタン牧場。

 馬場でカウボーイ・ショウが始まった。

 パッカ、
 パッカ、

 馬で颯爽と駆け回るカウボーイ・ビリーと10人のカウボーイ達。

 ビリーは馬上から投げ縄をブンブンと振り回し、

 ヒュッ、

 前方を駆けるカウボーイの持っている豚のぬいぐるみを狙って縄を飛ばす。

 豚のぬいぐるみはブライアン&ブリンダというウェスタン牧場のキャラクターだ。

 シュルン。

 豚のぬいぐるみを見事にキャッチ。

 ビリーが馬場の柵の外のゲストに豚のぬいぐるみをポーンと投げる。

「キャア~~~ッ」

 ビリーのファンの女のコ達がキャアキャアと飛んできた豚のぬいぐるみを奪い合う。

 訛りを隠すために寡黙なビリーはどこかミステリアスでクールなイケメンとして人気だった。

 ヒュッ、

 シュルン。

 ヒュッ、

 シュルン。

 次々と投げ縄で豚のぬいぐるみをキャッチし、ゲストに投げるビリー。
 

 〈ビリーのイメージ〉


 ビリーが豚のぬいぐるみを投げる。

 青い空高く弧を描く豚のぬいぐるみ。

 両手でキャッチするメラリー。

 メラリーは豚のぬいぐるみを抱えてニッコリとビリーに微笑む。

 
(が、可愛があいがぁ)

 ビリーは投げ縄をブンブンと振り回しながらデレデレと頬を緩ませた。

 
 一方、

 ウェスタン・タウン。

 野外ステージではウェスタン・ショウが始まっていた。

 パッカ、
 パッカ、

 馬で駆け回るジョーとロバート。

 メラリーはいつものように命中と失中の旗を持って立っている。

 ふと、牧場からのテレパシーをキャッチしたかのように脳内に豚がひらめいた。

(そうだ。夕飯はトンカツにしよ♪)

 ガン!
 ガン!

『hit!hit!』

 実況アナウンス。

「あ、いけね」

 メラリーは慌てて命中の旗を上げた。


 その夕方。

 明日のロデオ大会を目前にみなでロデオの特訓をした。

「わっ、わわっ、ひゃっ」

 メラリーが暴れるダイヤに跨がりバランスを取る。

「おい、気を付けろよ。頭っから落ちんなよ」

 ジョーは馬の横でハラハラして見守る。

「ブルルッ」

 さらに鼻息を荒げて暴れまくるダイヤ。

「うわっ、わっ、わわっ」

 落とされまいと必死のメラリー。

「メラリー、ダイヤには特に嫌われてんな」

「ダイヤはメラリーにニンジンで叩かれそうになった恨みがあるしな」

 ヘンリーとハワードはダイヤの両側から手綱を押さえるのに必死だ。

 大嫌いなメラリーがいるおかげでダイヤの機嫌がすこぶる悪くロデオの特訓には最適だった。

「ブヒンッ」

 ダイヤが前足を高く上げて棹立ちになる。

「わあっ」

 ついにメラリーは振り落とされた。

「おっと」

 待ち構えていたジョーがメラリーをキャッチする。

「おおっ、この分なら結構、いいところまでいけるかもですよっ」

 太田はストップウォッチで測ったタイムを見て、ワクワクと武者震いした。 

  
 同じ頃、

「じゃ、明日の4時半に」

 マダムはケータイで話しながらバックステージの廊下を歩いていた。

 プチ。

「さてと、美容院とネイルサロンの予約は済んだし、今夜はパックして早めに寝なきゃ」

 明日のダンス大会の準備に余念がない。

「――あら?」

 前方の廊下に女のコ2人が突っ立っているのが目に入った。

 中身のバミーとバーバラだ。

 2人はダンス大会のポスターを恨めしげに見つめている。

「とうとう明日だね。ダンス大会」

「ドレスがないもん。仕方ないよ」

「あ~あ、コスチュームでの参加もオッケーだっていうのに」

「ドレスがコスチュームのキャストはいいよね。わたし達なんか」

 2人は着ているTシャツと短パンを見下ろす。

「バミー、バーバラっ」

 会話を聞いたマダムは2人の元へ突進した。

「もぉう、あなた達っ。ドレスがないなら言ってちょうだいよ。いくらだって貸してあげるのにっ」

「――えっ?」

 ビックリしてマダムに見返る2人。

「マダムのドレスを?」

「で、でも、あの、サイズが」

 2人はマダムの豊満な胸と自分達の貧相な胸とを見比べる。

 そこへ、

「サイズ直しなら任せてっ」

 いつの間にいたのかコスチューム担当のタマラが背後に立っていた。

「ああ、タマラさん、助かるわ」

 ソーイングのベテランのタマラがサイズ直しを引き受けてくれるなら間違いない。

「あ、ありがとうございます~」

「ダンス大会に出られるなんて夢みたい~」

 バミーとバーバラは感涙にむせんだ。

 普段、着ぐるみで踊っているだけに中身のまま綺麗なドレスで踊りたかった。

 2人だってダンサーのはしくれなのだ。

「さあさあ、泣いてる暇はないわよ。これから、わたしの部屋に来てドレスを選んでっ」

 ガンマンキャストの他にダンス指導をしているマダムは若い頃から毎年の発表会で作ったドレスが山ほどある。

「は、はい」

 バミーとバーバラは泣き顔のままマダムに手を引っ張られて走っていった。

「ま、見た目に似合わずマリーちゃんはただのお節介オバサンってところかしらね~」

 タマラは走っていく3人を見ながら気抜けしたように吐息した。
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