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第4弾 聖なる夜に

Stupidity of a horse(馬の馬鹿)

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 その午後、

 ウェスタン牧場。



 ウルフと男は乗馬体験の馬場に来ていた。

「ここを右手でしっかりと掴んで~、左足をここに掛けて下さいね~」

 カウボーイのキャストがいかにも初心者向けに馬の乗り方を説明するが、

 スサッ。

 男は慣れた動作でウルフを前に乗せて馬に跨がった。

「パッカパッカしたい~」

 ウルフも慣れた様子で高い馬上で怖がりもしない。

「よし。それっ」

 馬を早足させる男。

「ああっ、こ、困りますっ。乗馬体験は引き馬だけですよ~」

 慌てふためくカウボーイのキャストにお構いなしに男は馬場を一周する。

 パッカ、
 パッカ、

 パッカ、
 パッカ、

「わぁい♪」

 ウルフは男と一緒にレイン(手綱)を引いて大喜びだ。


 一方、

 キャスト食堂。

 ショウとパレードを終えたガンマンキャストが早めの夕食を食べていると、

「ロバートちゃん~」

 ゴードンが封筒をヒラヒラさせながらやってきた。

「はい。これ、ショウの前売りチケット。3枚でいいのね?タイガーちゃんに渡して」

 タウンのロゴ入りの封筒を差し出す。

「すみません。ゴートンさん」

 ロバートは手刀を切って受け取った。

「タイガーちゃんって、ロバートさんの子供?」

 メラリーがビーフカレーをモグモグしながら訊ねる。

「そう。今、小学――4年っすか?」

 ジョーがロバートを見やる。

「ああ。タイガーが日曜に友達と一緒にショウを観に来るって言うんだけどよ。親父が悪役ガンマンじゃ体裁悪いんじゃねえかな?」

 ロバートはガラにもなく気弱なことを言う。

「そんなことないっすよ。ロバートさんは悪役でも格好良い系だから」

「そうそう。自慢に思ってなきゃ友達なんか連れて来ねえって」

 メラリーもジョーも心配無用と請け合う。

「――なら、いいけど」

 ホッとしたような顔でロバートはジャージのポケットに封筒を仕舞った。


 その夕食後、

「ちょいと馬屋でも覗いてみるか」

 ジョーとメラリーは腹ごなしにモニュメント・バレーまで散歩に来ていた。

 太田が一緒にいないのは乗馬クラブで練習中だからである。


「パール、ダイヤ、シルバー、ゴールド、アンバー、トパーズ」

 メラリーが馬を指しながら名前を挙げる。

 30頭以上いるので全部の名前は覚えていない。

「いや、こっちがアンバーで、そっちがトパーズだろ」

 ジョーが口を挟む。

「いや、そっちはゴールドですよ」

 マーティがサラッと訂正した。

 ゴールドはマーティが乗っている馬なのだ。


「マーティは馬屋の仕事が終わったらエマさんの愛妻弁当~?」

 メラリーはエマの愛妻弁当が騎兵隊の詰め所にあるのを見逃さなかった。

「うん?ここが終わったらタウンの清掃のバイト。お弁当は夜食だよ」

 マーティはせっせと馬のサドルを手入れしている。

 タウンはクローズしてから清掃と整備のキャストが深夜0時過ぎまで働いているし、オープンの準備で午前3時から働き始めるキャストもいるのでほぼ24時間フル稼働である。

 バックステージのキャスト食堂もファミレス並みに24時間営業だ。

「深夜まで?大変じゃん。マーティ、赤ん坊が産まれて扶養家族、増えちまったもんな」

「まあ、大変は大変だけど、その分、満足度もアップしてますから。――あ、見ます?昨日、撮ったマットの最新画像♪」

 マーティはニンマリしてケータイの画像を見せる。

 勿論、息子のマット(真人まっと)という名前は西部劇『赤い河』のマットから名付けたのだ。

「いーよ。赤ん坊の顔なんて変わり映えしねーし」

 素っ気なく手を振るジョー。

「あ、ホントだ。昨日、見た一昨日おとといの顔と変わんない」

 ケータイの画像を覗き込むメラリー。

「そうかな?どんどん顔がハッキリして可愛くなってるのに」

 画像の赤ん坊を見てニマニマするマーティ。


「あ~あ、締まりのねえ顔して」

「親馬鹿は放っておいて餌やろうぜ~」

 ヘンリーとハワードが山盛りの人参のバケツを持って入ってきた。

「あ、ニンジンやりたい♪」

 メラリーはパタパタと走り寄ってバケツから人参を取った。

「ほら、パール」

 パールはいつもメラリーが練習で乗っている馬である。

 パリポリパリポリ、

「うひゃひゃ、咀嚼力すごい」

 嬉々として次々と馬に人参をやるメラリー。

 ジョーもバケツから人参を取って、

「メラリー、指まで喰われないように気を付け――」

 ガブッ。

「――ウゲッ?」

 ヒトのことを注意して余所見していた隙にダイヤに人参ごと指を噛まれた。

 ダイヤはジョーが乗っている馬なのだ。

「ジョ、ジョーさんっ?」

「わ、わわっ」

 うろたえるマーティ、ヘンリー、ハワード。

「――てぇ」

 ジョーの右手の人差し指からポタポタと血が滴り落ちる。

「こ、この馬鹿馬っ。馬刺しにしちゃえっ」

 メラリーはダイヤの鼻っ面を目掛けて人参を振り上げた。

「あっ、よせよっ」

 ジョーがダイヤをかばって肘でメラリーを突き飛ばす。

「ひゃっ」

 ドサッ。

「おっと――」

 後ろに吹っ飛んだメラリーをハワードとヘンリーが受け止めた。

「――むう」

 メラリーは悔しげにジョーを睨み付ける。

 自分が馬より粗末に扱われたようですこぶる不愉快だった。
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